《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》13話 會議ぶっ壊グランド撃校舎全壊ボンバー
◇◇◇◇
國會同時刻
「これは、どういう事だって聞いてんだよ!」
円形のホールに響く怒聲。
サキモリの1人、若い刈り上げ、荒々しい顔つきの青年がぶ。
「……」
無言でこのその言葉をけ止めるのは、サキモリ防衛部隊の長、軍服の麗人、宮本。
「宮本長、アンタがいながらなんだよ、この有様は!? ちょっとホッカイドウに遠征に行ってきたと思ったらニホンが大きく様変わりしちまってる!! なんの冗談だ!」
「おい、犬上、ちょっと落ち著け、話が進まんだろ、これじゃ」
大柄、それでいてどこか理知的な顔つきの男が犬上と呼ばれた男を諌める。
「ああ!? 熊川、てめえなんでそんなに冷靜でいられる!! ニュース見てねえのかよ!」
「移中、一緒に見てただろうが、アホ、超アホ。だが、お前の言い分もごもっともだ。宮本長、説明してほしいのは俺達もだ」
「「「「「……」」」」」
熊川、犬上の他にも同じ目つきで宮本を見つめるサキモリ達。
彼らはサキモリの中でも、武闘派の選りすぐり。
遠征部隊。
國土の防衛はもちろん、それに加え、このver2.0の世界で
「命懸けであの人外魔境、ホッカイドウの遠征に行ってよ! あのクソ猟犬どもを13匹も狩ったんだぜ! 戦果報告に勇んで自衛軍機に乗ってりゃなんだこの有様ァ!?」
刈上げの男がモニターを叩く。
今にも暴れ出しそうな勢いだが、意外にその手つきは繊細。
モニターが割れる事はなかった。
「地下封印機構、アメノイワトその初號機から參號機の解放……ウチ參號機の特級指定封印者の完全解放……、首都防衛のサキモリの壊滅。そして、総理大臣拐……ははッ、見ろよ、蛇丸。いいね、面白い事が多くて良い」
「……鷹井(たかい)。空気と狀況を弁えて下さい。最も嫌味のつもりで言っているのなら、まあ、止めはしませんが」
彼らの隣。2人の対照的な男。
「嫌味……? まさか、そのままの想さ。西表教授がいてもなお、サキモリは負けたんだろう? それも先日、イズ王國で騙し討ち當然に捕らえたあの"味山只人"とその一味に! はははッ、この世界はやはり面白いな! 蛇丸」
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「あなたの狂ったについては今更特に言う事もありません。が、この報告。そこのチンピラ共が怒り立つのも分かる気はしますがね」
「インテリ眼鏡! てめえは黙ってろ! 話がややこしくなんだよ」
「話? おや、これはこれは話をしているつもりだったのですか? 失禮しました。てっきり犬でも吠えているのかと」
「あ?」
「ふっ、耳まで悪くなりましたか? 頭脳で考える事が出來ないのであれば覚程度はまともにいてほしいものだが……」
「表出ろやァ、クソ眼鏡」
「散歩ならおひとりでどうぞ、噛ませ犬」
保有者獨特の威圧。
サキモリの中でも選りすぐりの武闘派2人の圧が會議室を震わせる。
「おい、犬上それまでだ」
「ああ!? 熊! 止めんなや! なんでだよ」
「……見ろ」
「蛇丸、の気が余ってるなら俺と模擬戦をしよう! あ、犬上も一緒にどうだ? ホッカイドウでコツをつかんだんだ! 新しいの使い方! お前達に通用するんなら本だろう!?」
さわやか好青年フェイスの鷹井がにこにこ、ほほ笑む。
それだけで、サキモリ達はみな、押し黙った。
、異能者、保有者、etc。
サキモリに選ばれた彼ら彼達は皆、この変わった世界において力に目覚めた特別な者。
人ので怪に並ぶ実力者達。
先日、あるルール外のエンジョイ國際指名手配テロリスト集団にボコボコにされたとは言え、サキモリが強者の集団という事実は変わらない。
「あれ、どうしたんだ? 2人とも。そうと決まれば早速練兵場に行こう! あ、新しくできたアカデミーもいいかもな! そう思わないか、蛇丸!」
「……いえ、思いません、鷹井。あなたホッカイドウで左腕と左足、折れているでしょう? その狀態で何を言ってるんですか」
「うん? ああ、そうだったな。痛みを消してるからわかりにくいんだ。だけどそろそろ治るさ。こんな楽しい時代なんだ、ケガなぞでけないなんて勿ないだろ? そう思わないか? 犬上、熊川」
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「……ああ、そう、か? ほんとにそうか?」
「ちっ、戦闘狂のイカレが……ケガ人相手にんな真似できるかよ……」
「ははははははは! いやほんとに気遣いは無用だ! あの猟犬を1(・)0(・)匹(・)殺した所で摑んだんだ、見てくれ! ――約定をここに」
ず、ずずずず。
ごり、ごりっ、ごりりりりり。
青年の三角巾で吊られた左腕、ギブスで巻かれた左足。
異音が響く。
部で骨が蠢いているような――。
「治癒完了、だ。はははは! これ、面白いだろう!? オキナワで死にかけた時に手にれた力だが、ようやく使い方がわかってきたんだ」
「……イカレが、人間やめるつもりか?」
「ん? おいおい、犬上よしてくれよ。君のような保有者と比べられても俺に同じ事は出來ないって」
「……犬上、もういいだろ」
「ちっ、ああ、毒気が抜かれた……宮本長、さっきの話を続けろ。クソふざけた話だったな。――アレフチーム、あのテロリストがなんだって?」
「……ああ、君達遠征部隊がホッカイドウに居た間に起きた事件、その結果。我々サキモリは今後、アレフチームとの共同で任務に當たる事となった。そして、同時に……」
軍服姿の麗人。
宮本が口を一瞬つぐむ。
「……戦力増強のため、アレフチームは我々のアグレッサー部隊(教導、仮想敵役)として運用、サキモリは彼らによる指導をける必要がある――」
べき。
なんの音か。
刈上げの男、犬上が大理石の床を踏み抜いた音だ。
「……ァあ、悪い、つい。続けてくれ」
「「「「……」」」」
他の遠征部隊も、床を踏み抜きはしないものの、全員目つきが座っている。
唯一、表が穏やかなのは鷹井と呼ばれたさわやか好青年だけだ。
「……多賀総理はその事を了承済みなのですか?」
「蛇丸君、この指示は総理じきじきの命令だ。実質上、サキモリの司令である彼のね」
「……なあ、質問だ、長。いいか?」
「どうぞ、熊川君」
大柄、かつ理知的な知を悍な顔に宿らせる男が深く椅子に背中を預けながらあたりを見回す。
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「俺達、遠征部隊が本土を離れてる間に起きた事態についてはだいたい把握出來た。……特級指定封印のやばさを俺もよくわかってるつもりだ。それを二、一瞬で無力化し、お前達防衛部隊をのめして、多賀のおっさんを連れ去った……なるほど、大事件だ。――それで、だ。お前達はそれ、納得できてんのか?」
「「「「「「「……」」」」」」
熊川の聲は冷靜だった。
だが、冷靜故にじっとりと重く會議にのしかかる。
「これまでニホンを防衛してきたのは俺達だ、俺は自衛軍も含めてサキモリだと思ってる。シエラチームまでだぜ、許容できる外様の戦力は。あいつらは、海原を頭にいい奴らだしな。だが、アレフチームは違うだろ」
「……熊川君、それは」
「いや、宮本長、別に俺は今後のサキモリの方針に口を出したい訳じゃないんだ。ただ……確認しておきたい。あらゆる可能をな」
「熊、どういう事だ、お前、移中にこんな事おかしいって言って――」
「私も、熊川君と同意見です。我々が不在の間に、サキモリはすでに敵の手中に落ちた、そう言ってもらったほうがまだ納得できる事態ですからね。――貴崎凜や熊野ミサキと同様に、アレフチームの人員に洗脳されでもしましたか?」
「……頭が痛いな、それを言われると我々はもう何も言えない、悪魔の証明だよ、蛇丸君」
「ええ、そうです、それと同じくらい難しい事態を我々に飲み込め、そう言っていると認識してもらえれば」
「ん? よくわからないな。蛇丸、サキモリは、どうしたというんだ」
「今、貴方が口を挾むと余計に話がややこしくなるのでし黙っていてください。多賀総理は今、國會に出席中ですか。時に西表教授はどこに?」
「ああ、彼ならもうすぐ來る。――そろそろね」
宮本の視線はホールの天井から吊るされている大型モニターに向けられる。
「なあ! 名瀬! 君もアレフチームと戦ったんだろう? どんな風だった? 想は?」
「んー? 強かったよ。ちょっと今の私達じゃ手も足も出ないじ、とかそういうのの一歩、ううん100歩先くらいを歩いてるじかなー」
鷹井が話しかけたのは、黒髪ロングの人。
名瀬と呼ばれたは、スマホをいじったまま答える。
「はは! そうか! ならなんとなく俺は納得がいった、なあ、蛇丸、別にお前が心配しているような事態ではないと思うぞ」
「今の私は論理的な會話以外はしたくない気分です、ですが、ホッカイドウで一番の戦果を挙げたその働きに免じて聞くだけ聞いてあげましょう」
「名瀬がそう言うんだ! サキモリは洗脳とかで誤魔化されたわけじゃないな。普通に実力で負けたんだ! はは! すごいな!」
「……名瀬嬢を判定の基準に選んだ理由がわからないのですが」
「……? なんでだ? 彼が現狀、西表を除けば、我々サキモリの中で一番強いじゃないか!」
「……フフフ、鷹ちゃん、変なの、私、君達みたいな武闘派じゃないの知ってるでしょ?」
「うん? あ、すまない、もしかして隠していたのか!? てっきり、俺は、いや、なんでもない。蛇丸、なんでもないんだ、気にしないでくれよ」
「……ええ、これ以上、胃薬の量を増やすなと醫者に言われていますので。……宮本長、しかし、私の意見は変わりません。このバカを除いて私には、私の部隊の命の処遇への責任がある」
金縁眼鏡をすっと押し上げて、蛇丸が宮本を見つめる。
「副隊長、私はホッカイドウで耳をやられたのでしょうか? ヘビメガ……いえ、蛇丸隊長からまるで我々を思いやるような表現が」
「蟬木君、それはあるかもねえ。僕も驚きだよ、あのヘビメ……蛇丸隊長がねえ」
「ふ……ヘビメガ……蛇丸にしては確かに珍しいな」
「あなた達! 隊長の溫かいお言葉をなんだと思ってるんですか!」
「そ、そうです! 皐月さんの言う通りです! 蛇丸隊長の事をそうやってヘビメガネと呼ぶのは栄えある我らノース部隊として相応しくない!」
「「「「七崎が、蛇丸隊長の事をへびメガネってゆった!!!」」」」
「な!? ち、違います! 隊長殿!! 斷じてあなたの一番弟子であるこの七崎勤は隊長の事をヘビメガネなどという俗稱で呼んだりしていません!!」
「はは! ヘビメガネ! いいね、蛇丸、隊員とコミュニケーションが取れてて何よりだ」
「ええ、今度の賞與の評価査定に良い判斷材料を得る事が出來ましたしね……さて、宮本長、こn通りです、今度の賞與はおそらくほぼゼロに等しい彼らですが、それでも無駄使いして良い人的資源ではない。我々イーグルチームの言いたい事はわかりますね」
蛇丸の輝くメガネに、宮本が目を瞑って小さく頷く。
ごろつき紛いだが腕の立つ犬上や熊川を擁する拳部隊が全員ここにいなくて良かった。
サキモリきっての武闘派集団の一角、遠征部隊イーグルチームのインテリヤクザの相手で今は一杯だ。
「……君達の疑念も分かる……だが結果が全てだ」
「結果……? 失禮ですが、宮本長、結果とは何のことをおっしゃっているのでしょう。貴方達、防衛部隊が、テロリストに敗北し、ニホンの事実上の敗北、首長への斬首戦を許したことでしょうか?」
ずっ。
息が、重い。
宮本は明らかに辛くなった呼吸を表に出さないようにただ、表を固める。
「オイオイオイオイオイ、その蛇メガネは今回ばっかしは正しい事を言ってんよな? 俺達遠征部隊が鉾だとすりゃ、お前ら防衛部隊は盾だ。この國を、そして総理を守る盾だろ? 仕事を果たしてねえのに、一丁前にキレてんじゃねえよ」
「そこのチンピラの言う事が珍しくまともなのな喜ばしい事でしょう。私は何か間違えた事を言いましたか?」
遠征と防衛。
サキモリの活の幹である護國を為す為の2つの柱。
目的は同じなれどその強い個を纏めるのは尋常の事ではない。
「総理を出せよ、お前らじゃ話になんねえ。アレフチームとの共同? 訓練? ふざけんな、あの人が俺らに理由なくんな勝手な真似する訳ねえだろ」
「あの貍にしては、今回のきは急、いえ、稚拙と言っても良いきです。まさか、我々が首都を空けている間、彼に何か異変があったのでは?」
荒々しい目つき、冷たい目つきが宮本を見つめて。
「……総理殿はモニターの通り、國會でお仕事中だ」
「ああ? いつものお遊戯會かよ。チッ、あの人も大変だなあ」
「エンタメとしても三流以下の催しです。それではまた総理殿の國會が終わり次第、彼と話をさせてもらいましょう」
モニターの向こうではいつもの、いや普段よりも厳しい糾弾の景が広がっている。
アレフチームとの友好。
國會においてもここと同様に責め続けられている。
「……いい気分じゃねえな、自分んとこのボスのこんな風な景はよ」
「犬上、しかしそれが総理の仕事なんだ」
「あ? 宮本長、あんたが言うかよ、そもそもそうならないように俺達サキモリがいたはずだ!」
再び火がった男を後目に、宮本は時計を確認する。
――そろそろだ。
國會は佳境。
質問における議員達の勢いが最大限に。
『総理、ではwwwww見せてくださいよwwwwwww』
『何をでしょうか?』
『証拠ですよwwwww、その神種が國家の脅威になる証拠をwwwww、今、ここで証明してくださいよwwwww』
「ちっ、気分悪いな」
「同です……宮本長、我々はいったん失禮しますよ。総理が戻ってきたら」
「駄目だ、君達はここでこの中継を最後まで見るんだ」
「は? いったいなんの必要があって――」
「証拠と、結果だ、蛇丸隊長」
宮本の言葉と。
『wwwwwwwwwアレフチームと同盟を結ぶ事が國家防衛にどう必要あるかをですよwwwwww――証・拠・と・結・果・を・も・っ・て・こ・い・よ・!・!・!・!・!・!・』
國會中継の映像が重なって。
「えっ」
ずっ。
サキモリ全員が本能で臨戦態勢に移る。
TV畫面の向こう側、國會中継に現れた神種の姿に。
遠征部隊、防衛部隊も関係ない。
恐怖、戸い、混。
「ははっ」
唯一、その神種の登場に目を輝かせた男、鷹井。
彼以外の全員は畫面越しに移ったその神の姿にを直させる。
――勝てない、殺される。
強者だからこそわかる、その生きと自分達の圧倒的な差。
一種の生が天敵に対して死んだふりをしてその場をやり過ごそうとするのと同じように、サキモリのメンバーもまた同じくけない。
「はははっ、これは一大事だ! 蛇丸! 行ってくる」
「――は、鷹井、どこへ!?」
「アレと戦ってくる! 凄いぞ! ホッカイドウの猟犬よりも強い! アレが神種か! 貴崎ちゃんの言ってた通り! なんて怖いんだ!」
「あ! このバカ! ほんとにバカ! ま。待ちなさい!!」
喜満面のさわやかイケメンが部屋を出ようと飛び出して。
「いや、鷹井、その必要はないよ」
「えっ、何か言ったかい? 長ど――」
「時間だ、アレは彼が狩る事になってる」
「えっ?」
『な、あ、貴様は、なんでっあ!!!!????』
『ごぎん、ぼり、ぐちゃっ』
『ばしゃああああああああああああああああああああ』
青のが、扉からしたたり落ちる、そんな映像が流れる。
サキモリの誰もが表を固めてその映像にくぎ付けになる。
――男がいた。
翼を腰から生やした異様、しかし目の離せない異形のを誇るを傍らに。
青いに染まった男。
映像を見るに、その男が神を始末したのは誰の目にも明らかで。
「……ははっ」
「……」
蛇丸だけは気づいた。
隣のこの友人の興味が、今完全に神種からこの男に移った、と。
映像は続く。
ある者は嘆し、ある者は驚愕し、ある者は恐怖する。
そして――
「……おい、なんの冗談だ、それは」
「マジかよ……爺がいなくてよかった、心臓止めるぞ」
「ははっ、ははははははははは!! おい、おい! 蛇丸! すごい!! 見たか!? 彼らはすごいぞ!!!」
「あ、りえない……あれは……」
「ぶ、ブラッドシーサー……?」
皆、知っている。
ブラッドシーサー。
北南事変後に、オキナワ近海を縄張りとし、海と空のオキナワの通路を塞いできた怪種。
海上自衛軍保有のミサイル艇、護衛艦、潛水艦、多用途支援艦。
合わせて20機以上、ニホンの戦力艦艇の20%近くを損耗させた化け。
遠征部隊たる拳部隊、そしてイーグルチームは十二分にその脅威を理解している。
何度も戦い、そして何度もあの化けに殺されかけたからだ。
『皆さまにお知らせです! 今しがた、アレフチーム主導によるオキナワ領土回復最大の障害、指定怪種”ブラッドシーサー”、そして神種”パーン”の討伐を完了! ここにニホン、アレフチーム共同作戦”ストームアロー”の完遂を宣言いたします!!』
「ストームアロー……作戦?」
蛇丸の引き攣った聲。
もちろん彼らはそんな事知らなかった。
怒るべきだ。ないがしろにされてこけにされている。
だが。
『次なる作戦は”八島作戦”。神種による國土攻撃の防衛、および敵神種すべての討伐です!! ――3月を終え、次は4月だ』
畫面に映るその人達の迫力に押され何も言葉が出ない。
ブラッドシーサーの首、その示威はおそらく現場の國會の人間よりも誰よりもこの場に集ったサキモリに効いた。
ありえない。
アレは人間が勝てるような化けではーー。
『次なる戦果の報告をお楽しみください、さて、それでは國會を続けましょうか――ああ、そうだ、お集りの議員の皆様』
多賀総理の、サキモリはまだ誰も見た事のない表。
『――証拠と結果にはご満足頂けましたでしょうか?』
ぶつっ。
モニターが切れる。
沈黙。
が裂けるような冷たさのそれを宮本が破く。
「これが、結果だ。アレフチームはその実力を以て我々に示した。――我々は弱い」
「っっっ!!!!」
宮本の言葉に犬上が牙を剝く。
當然の事だが、バカにバカと言ってはいけないように。
「お前ぇ、今、なんつった?」
「弱い、我々は弱いと言った」
「――そりゃてめえの事だけだろうがよお!!!!!」
弱い奴に弱いと言ってはいけないのだ。
犬上のが、反応し――。
ばしゅん。
「は……?」
その発は不発に終わった。
なぜか。
がちゃん、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい。
扉が現れた。そして開いた。
犬上のの不発、その原因はシンプル。
――怯えたのだ。も、犬上自も。
「ハァイ。サキモリの皆さん。國會中継は見てくれたかしら?」
忘れられた英雄。
世界から戦爭を奪い、核兵を陳腐化させた。
「初めまして。アレタ・アシュフィールドよ。今日からみんなの使用戦闘、および対神種戦訓練のアグレッサーおよび指導教を務める事になりました! 仲良くしてくれると嬉しいのだけれどあ、そうだ、それとね」
現代最強の異能、52番目の星に。
「――なんだぁよ!! その登場はァ!!!」
「っバカ!! 止せ! 犬上、わかってんだろ!!!??」
熊の引き留めを無視し、犬上が跳ぶ。
深度Ⅱ、人間の運限界を超えた能力。
拳部隊の一番槍はその役割を果たした。
「――あは」
ぼっごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおン!!!!!
人間が本當に回転して、天井に突き刺さる。
しなりあるダーツが刺さったように、犬上が天井に突き刺さった。
びよよよよよん。
「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
「ははっ! 凄い!!」
約一名を除いて、サキモリは言葉を失う。
天井の埃が収するように集まり、吹き飛び。
金の髪、蒼い瞳。にかっと微笑む健康的な。
夏の午前、稲穂の上を駆ける風のようなさわやかさで。
「あたしと話す時は必ず、”サー”をつけてね? OK?」
アレタ・アシュフィールド、サキモリ本部、著任。
◇◇◇◇
~同時刻、中央アカデミー學園敷地~
「メーデーメーデー!! こちら中央アカデミー警備部隊!! 応答してくれ!!」
「化けが、化けがやってきた!!」
「ふざけた化けだ!! な、なんなんだよ! き、聞いてない、聞いてないってこんなん!」
「お前ら落ち著け!! 田村曹長、いや、田村さんの言葉を思い出せ! どんな怪だって、時間稼ぎも出來ない訳がないんだ!」
「ここを墮とされる訳にはいかない! アカデミーの生徒を守れ! 彼らこそが、ニホンの未來だ!」
「敵襲!! 化けだ!! 怪種……見た事ないぞ、なんだ、あの耳(・)の(・)化(・)け(・)(・)は!? ふざけてんのか!?」
「傍らにの子がいる……ひ、人質か!?」
「バカが! どう見ても怪の仲間だ! 見てみろ、あの黒いドロドロ! 銃弾を全部防ぎやがる!」
「どけ!! LAMを使う! パンツアーフォー! パンツアーフォー!!」
肩撃ちの対戦車裝備。
世界がまだ國対國の戦爭をする余裕があった時期には、対戦車を想定して使用されていたその兵が、大型怪種に対しての必須裝備と化して久しい。
地面と平行に亜音速で発された炸裂弾が、風と土砂をまき散らす。
「やったか!?」
「バカ! お前そのセリフは……!! あああ! もう! やっぱり! 警備部隊共有! 目標健在!! 繰り返す! 目標は生きてる! 対戦車裝備でも死んでない!」
「噓だろ……おい、あいつ、あれ、砲弾を斬った?」
「なんなんだよ! 右腕燃えてるし! 首からなんか生えてるし!」
自衛軍。
懸命に応戦するのは、ニホンが誇る護國の力。
戦わなくても生きていけるはずだったこの時代。
自らの道を、顔も知らない誰かの明日を守る事に定めた者達。
怪に抗う。
彼らが守るべきはアカデミー。
次世代のサキモリ、次の時代を擔う特別な者の子供達が學ぶ場を。
「いてる自立兵を回せ!! 小隊規模、市街地戦ドクトリン運用!!」
遮蔽の影で銃のリロードを行いながら1人の壯年の男がぶ。
「だ、駄目です! 銃が効きません! ああ!! ハーピィー全滅……クソ!! あれ一機で俺の給料何十年分だと思ってやがんだ!!」
「まだ元気はあるようで何より! 小隊、聞こえるか! 足を止めるな! 遮蔽を利用して接近するな! 時間を稼げ! サキモリが必ず來てくれる!」
「まったく、俺らはいつも、時間稼ぎっすか」
「そう言うな、誰かがやらねばならん事だ、お前達とこの役割に當たれて栄だ」
「はっ、よしてください、隊長、そういうの死亡フラグ……あれ、おかしい、何か靜かすぎる……?」
遮蔽から1人の隊員が顔を出す。そこには――。
「よお、お仕事お疲れさん、あんたらの偉大な労働とプロ意識に敬意を払うぜ」
「いっ」
耳だ。
男の視界に広がるのは耳。
二対一個の耳の面が張り付いた男がしゃがみこんでこっちを見ている。
ぐち、ぐち。その首元には鰓が。ああ、なんか水かきの生えた腕が覗いている。
「あ、ああああああああああああああああああ!? 化けがあああああああああああああああ」
「お、いいね! そこで逃げないのはさすがだぜ」
ばばばばばばばばばばばばばばばばば。
電鋸のような発砲音。隊員の銃が惜しみなく、銃弾を吐ききって。
「……ぱぱ、危ない……あさまがいないと、ぱぱもう10回以上死んでるよ」
「ぎゃははははは、サンキューアサマ、助かるよ」
ぽろ、ぽろろろ。
硝煙が去る、同時に地面に落ちるのは銃弾。
その耳の化けを守るように、ふよふよ浮かぶ黒い泥が、銃弾をすべて防いだ。
「は、は……は?」
泣き笑いの聲を上げる隊員。
死ぬ。殺される。
だが、決して。
「気合が違うな、自衛軍、誰も逃げやしねえ。……逃げてもいいのによ」
「え……」
その化けは銃弾を打ち切った隊員にとどめを刺す事はしなかった。
そのまま遮蔽を乗り越えて、先へ。
アカデミーの校舎へ。
「待て……! 悪いが、その先へ行かせる訳にはいかない」
「た、隊長……?」
壯年の自衛軍が、耳の怪と黒金の長髪のへ銃を向ける。
いつしか、もう自衛軍側には戦力と呼べる存在は彼しかいない。
煙を上げる自立兵。
地面に伏せる隊員達。
「……1人も殺してないのか」
「ああ、ここで殺すのは1人だけだ」
「……その時點であんたを通す訳にはいかなくなったな」
自衛隊員が、さりゆく耳の怪の背中に銃を向ける。
「おまえ、ぱぱにまた銃を……」
「いい、あさま、ストップだ」
「うう……わかった」
耳の怪が、耳(・)男(・)が後ろを振り返る。
「なんのために、こんな事を……」
「殺さないといけない害獣が學校ん中にいてね。あとついでにこの學校の中にいる天才、特別な連中の教育をしようと思ってな」
「……何を言っている」
「ああ、気にすんな、勝手に俺がし頭にきてるだけさ。……なあ、聞いていいか? 自衛軍の兵隊さん」
「俺は、兵士じゃない。自衛だ」
「戦時國際法じゃ兵士だろ? まあいいや。アンタにとっても時間を稼げる、化けと問答するくらい訳ないよな?」
「……アンタはなんだ? 化けなのに……なにか……」
隊長が首を傾げる。銃口はこの奇妙な化けを定めたままぶれない、だが。
「もない、神の殘り滓も、インチキめいた超常の力もない。なのにアンタ達は俺に立ち向かう。……なんでだ? わかってたろ? 勝てないって」
耳男が自衛軍の男に靜かに問う。
一瞬の沈黙、しかし、すぐに。
「それが俺達自衛軍の仕事だからだ」
迷いも恐怖も驕りもなく。
ただ、その男は化けに向けて告げる。・
「……ああ、そうだな、アンタ達は、自衛軍は皆そうなんだ」
「自衛軍に知り合いでもいるのか?」
「……ああ、いたよ。昔、仕事で助けてもらったんだ」
「……そうか、じゃあここいらでその隊員に免じて帰ってくれないか?」
「そうもいかねえ。つい昨日、知ったんだ。その人亡くなったみたいでな。探索者を庇って死んだってさ」
「探索者もまた國民だ。仕事をしたんだな、アンタの知り合いは」
「ああ、だな。でも違うな。アンタ達の仕事は違うんだよ」
「なに……?」
「自衛軍の仕事は、國民の生活を守る事だ。怪や神と戦うのは別の奴の仕事だろ」
「……それらが國民を脅かすのなら、俺達はそれと戦うだけだ」
「……はは、田村さんも同じ事言いそうだな」
「……待て、今なんて」
自衛隊員が揺する。
だが、同時に。
「むかつくんだよ。あいつら、何してんだ、今」
「……は?」
「怪と、神やらなんやらの訳わからんのと戦う仕事の奴らは他にいる。今、この場で俺達と戦うねきはアンタ達じゃないんだ」
その化けは、凡人である。
故にその怒りは至極卑近で勝手で、無意味。
「――クソガキ共、焼きれてやるよ」
うつろな耳が、しい校舎の方へ向いていた。
――特別な力を持ちながら、未だに戦いにすら出てこない”特別な者”達の方を。
「何を」
「アンタ達だけに戦わせて平気な腰抜けに、探索者の素質はねえ。間引いてやろうと思ってな」
「まさか……殺すって!」
「ああ、安心しろ、ガキは嫌いだが、殺すほどじゃない。――あ、靴紐ほどけてるぜ」
「は? がっ!!??」
一瞬、隊長が気を抜いた瞬間だった。
べちょっとした何か、けたが彼の足、腕にトリモチのようにくっついて。
「な、なに!? これは」
「”耳の創作・投網”、耳男狀態だとから切り離せるの量が増えるな、いいね」
男が、そのまま去る。
校舎へ近づいて。
「ま、待て! 君は、田村って、田村秀夫曹長の事か!? バベル島の駐屯部隊にいた!」
「……全部終わったら、墓參りに行く。じゃあな、自衛」
男が行く。
神を連れて、勤勉な人を衛る事を選んだ者達を乗り越えて。
じゅわああああああああ。
校舎とグランド、半徑數キロを範囲にドーム狀の幕が張られる。
闇より濃く、夜よりも広いそれは、神種とそれに限りなく近い保有者のみが行える権能。
「異界創生」
黒と金の巫服の、アサマが掌で作った複雑な印をほどく。
「ぱぱ。敷地に異界で飲み込んだよ……偉い?」
「マジで偉い、すげえよ、アサマ」
「えへへ……褒められた」
「ほめられついでに、もう1つ質問、アサマ、ここにあいついるか?」
「……うん、いるね~あの人の香りがする、かいじゃくさんの匂いだよ」
「そうかァ」
びよよよん。
耳たぶを揺らし、グランドに散らばった自立兵の殘骸の間を呑気に歩くその2人。
勝手な怒りと、やらなければいけない仕事の為の殺意をに。
「出てこい、ガキども。サキモリ候補者、お前らが戦う時が來たぜ、それと、ついでに」
耳がうごめく。
――先生。
そう、あいつはここの生徒にそう呼ばれていた。
これから先、あの最悪な未來を回避する戦いの中で絶対に邪魔になる、あのカス。
糞邪魔な害悪生、そいつを、狩る為に。
「あまのじゃく! く~~~ん!!!!! 來ちゃたあああああああああああああああ~~~~~」
味山只人、中央アカデミー、強襲。
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