《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》218・長命竜
一瞬、周りの時が止まったようにじました。
しかしやがてファーヴが慌てて私の両肩を摑み、そのまま揺さぶります。
「な、なにを言っているんだ!」
「……殘念ながら事実です。これはあなたのするシルヴィさんではありません」
「な、なにかの間違いじゃないのか!? だったら、シルヴィは一どこに……」
「ファフニール!」
そんな怒りに満ちたび聲が聞こえたかと思うと、ドグラスが私からファーヴを強引に離しました。
ドグラスの表は見たことがないくらい、怒りに染まっています。
「やはり、汝は我らを騙していたのか!? ただの黃金の塊を、かつての人と嘯くとは!」
「ち、違うんだ。俺はこれが本のシルヴィだと、信じていた」
「ならば、エリアーヌが噓を吐いているのだと言うのか!」
「それは──」
ドグラスの聲がますます怒りを帯び、今にもファーヴに毆りかかりそうです。
いけない──そう思った私は、咄嗟にドグラスを止めようといますが、
「よくやった、裏切りの竜ファフニールよ。儂の目的──“真の聖”をこれでようやく手にれられる」
威圧に満ちた重低音の聲が、島に響き渡りました。
その瞬間。
周りがまるで夜になったかのように、暗闇に包まれます。
空を見上げると──そこには一の黒く、大きなドラゴンが突如として空に現れました。
魔法で姿を隠していた……?
それとも、別の場所から召喚されたのでしょうか。
こんなに大きなドラゴンなのに、姿を現すまで誰も気が付きませんでした。
「どういうことだ!」
ファーヴは一歩踏み出し、鬼気迫る表で突如現れたドラゴンにびます。
「シルヴィは黃金のまま、生きているのではなかったのか! そしてお前はシルヴィを元に戻せるのは、聖だけだと言っていた。だから俺は──」
「信じておったのか?」
バカにするような口調で、漆黒のドラゴンが言い放ちます。
「そもそも儂が本當のことを言うはずもない。時の聖は既に死んでいる。貴様に言ったことは、ここに聖を連れてこさせるための噓だ。実に愚かだ」
「そ、そんな……」
ファーヴが愕然とし、地面に膝を突きます。
「絶する者の顔は、どうしてここまで愉悅にじるのだろうか。何度見ても飽きぬ。どれだけ時が流れようが、それは変わらぬ真理であるな」
そんなファーヴを見て、漆黒のドラゴンは嘲ります。
「ファフニール、説明しろ。上空のドラゴンは一なんなのだ?」
ドグラスがファーヴの首っこを摑み、彼を無理やり立たせます。
ファーヴは力のない聲で、こう答える。
「あれは長命竜アルターだ」
「なに? 汝は言ったではないか。時の牢獄から解放された時、既にアルターはいなかった──と」
「すまない。俺は君達に噓を吐いていた」
「やはり汝は──!」
そう告げるファーヴに、ドグラスが怒りを滾らせます。
右拳を振り上げ、ファーヴに毆り──、
「待ってくれ、ドグラス。今はそんなことをしている場合じゃない」
──かかろうとした瞬間、ナイジェルに右腕を摑まれます。
「じゃあ、こういうことかな。黃金になったシルヴィを救うために、君は噓を吐いた。本當は全て長命竜アルターに命令されていた……と」
「そうだ」
ファーヴが短く答えます。
「いわば、シルヴィさんは人質だったというわけですか」
もっとも、本のシルヴィさんはここにはいないのですが。
アルターはシルヴィさんを撒き餌にして、ファーヴを裏からろうとした。
目的は私を竜島に連れてくること。
しかし──ファーヴ自も騙されており、シルヴィさんは既に死んで、ここに殘されているのはただの黃金だった──ということ。
「君達には謝罪しなければならない。しかし……一點、信じてくれ。シルヴィさえ元に戻れば、俺の命にかけても君達を守るつもりだった。なんとしてでも、竜島から出させるつもりでいたんだ」
「そうだとしても、汝が長命竜に利用されていたのは違いない」
「──っ!」
ドグラスの追及に、ファーヴは言葉を詰まらせます。
気にかかるけれど、これ以上ここで彼を問い詰めても仕方がありません。
今は目の前の脅威に向き合うべきです。
私はファーヴから視線を切り、アルターを見上げます。
「あなたはなんのつもりですか? なにを考えファーヴを利用し、私達をここまで連れてきたのですか?」
「言っただろう。聖──貴様が目的だ」
嘲笑し、アルターはこう続けます。
「儂を頂點とした、ドラゴンだけの世界を築く──それが儂の目的だ。そのために貴様、“真の聖”が必要だった」
「私の力を? 私がそう簡単にあなたに従うとでも?」
「無理やりにでも従わせるのみだ。そのための力を儂は有している」
次に、アルターは邪悪に笑う。
「せっかく、“真の聖”が來てくれたのだ。丁重に出迎えなければ、失禮にあたるだろう」
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