《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》シンズ領に著きました。

れの帰りを待つ間の中継地、シンズ伯爵領。

急な來訪にも関わらず是非シンズ邸へとわれたので、アレリラ達はありがたく滯在させていただくことにした。

ただ、護衛まで含めて領の財産を使わせるのは、予定にないことなので、とイースティリア様は謝禮を支払われたようだった。

出迎えてくれたシンズ伯爵は恐なさっていたが、禮儀を欠くのは良いことではないので、け取っていただくことは了承して貰った。

「アレリラ様! 足をお運びいただきありがとうございます!」

「急で申し訳ありません、カルダナ様。快くれていただき、誠にありがとうございます」

カルダナ様は、明るい緑の髪と瞳を持つ、三人娘の中ではし大人びた雰囲気の方である。

一番落ち著きがあるのも彼で、エティッチ様と違いきちんと順番を守ってアレリラに聲をかけて來られた。

「いいえ、嬉しく思っておりますので、そんなこと仰らないで下さいませ!」

本當に嬉しそうな様子の彼に、アレリラも笑みを返す。

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「わたくしも、お會い出來て嬉しく思っております。この前にはロンダリィズ領に滯在しておりまして、エティッチ様もお元気過ぎるくらいお元気であらせられました」

そう告げると、カルダナ様はパチパチと瞬きをした。

「何か?」

「あ、いえ。申し訳ございません。アレリラ様がそのように……ええと、軽口と言いますか、そういう言い方をなさったことが意外でして」

三人娘は皆、基本的に素直である。

アレリラとしてはそうした點を好ましく思っているので、特に気分を害すこともなく答えた。

「そうですね。人と仲良くするのに、冗談というものを勉強しているところです」

アーハ様を始め、ミッフィーユ様やエティッチ様、アザーリエ様など、公私の別が甘いところはある。

けれど、『私』の部分における態度は、アレリラよりも『人とのコミュニケーション』という點においては非常に優れていると思うようになっていた。

口を叩くのはいただけない、と思いはするものの、それ以外の『人を楽しませる』ということについてはその言も有益なのである。

いきなり見ず知らずの他人にそれをするよりも、アレリラとしてはやり易かったのだけれど。

「……あまりお好みではありませんでしたか?」

「あ、いえ! そのようなことはございませんわ! ただビックリしただけで、ええ、仲良くなれたみたいでとても嬉しいですわ!」

ニコニコと言われて、特にお世辭でもなさそうなので、アレリラはホッとした。

カルダナ様は、チラリとそこで、しハラハラした様子のシンズ伯爵に目を向ける。

「お父様! ちょうど晩餐の時間になりますし、ご準備を終えられましたら、食卓を共にしても大丈夫でしょうか?」

「ああ、宰相閣下とウェグムンド夫人が宜しければ、それはもちろん構わんが」

「是非」

橫で靜かにお聞きになられていたイースティリア様が頷いたので、アレリラも追従する。

「楽しみにしておりますわ」

※※※

そうして、夕食の席。

出てきた食事は、魚を主としたものだった。

どうやら近くの清流で採れる川魚ということで、淡白な味わいらしい。

濃厚なソースを絡めたムニエルであるとか、焼き目のついた炭火焼きだとか數種類があり、スープ以外は大皿から各々取り分ける形の形式だった。

副菜には葉野菜のサラダや菜の煮以外にも、近くの山で採れるというキノコのソテーなど、簡単な調理ではあっても富な種類が用意されている。

「普段からこのようなお食事を?」

らかい白パンを千切りながらアレリラが問いかけると、カルダナ様は小首を傾げた。

「ええ。種類はいつもより多いですけれど、大このような食事です。お気に召しませんでしたか?」

「いえ。山の幸が素晴らしく富なので、心しておりました」

勿論、侯爵邸で出てくるものはもっと手が込んでいたりはする。

ただ、自然の恵みというものは湧いて出て來るものではないので、創意工夫をしていても『簡単な調理で味わい深い新鮮なもの』というのは中々、帝都付近では味わえるものではないのだ。

食材を冷凍する技はあっても、やはり鮮度は落ちるのである。

出された食事は、どれも味だった。

イースティリア様が苦手なニンジンもない。

「全てこの辺りで採れるものなのでしょう?」

「はい! 近くにある山は、秋口になれば栗なども取れますし、モンブリンというケーキがとても味しいのです!」

「モンブリン……?」

それは、ミッフィーユ様のお父様の名である。

「はい。スーリエ公爵様は、ボンボリーノ様やアーハ様と同じで、甘いものが大変お好きだそうで。ご自の名を冠したケーキを開発させたのですわ。それが栗を使ったものなのです!」

「なるほど。イースティリア様はご存じでしたか?」

「いや、私も初めて聞いた。菓子類には々疎い」

では、きっとまだあまり出回っていないのだろう。

おそらくカルダナ様は、ミッフィーユ様を通じてレシピを教えていただいたのだと、當たりをつける。

「それもいずれ、食してみたいですね」

「そうですわね! 今回はあまり長居をされないですし、また帝都でお茶會をする時に持參致しますわ!」

「ありがとうございます」

するとそこで、イースティリア様が靜かになさっていたシンズ伯爵夫人に話しかける。

「失禮、ご夫人」

「はい」

大公國四公家の一つ、〝風〟のゼフィス公爵家出の夫人は、カルダナ様同様緑の髪と瞳を持っている。

カルダナ様はお父上に似ていて、シンズ夫人はもっと快活そうな顔つきをなさっていた。

「近く、大公國の方で『大公選定の儀』がある件について、お伺いしたいことがあるのだが」

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