《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》シンズ伯爵夫人とお話致しました。

「お答え出來ることであれば」

味しそうに食事をしていたシンズ伯爵夫人は、イースティリア様の問いかけに小さく首を傾げる。

どこか、おっとりというよりは超然とした印象があり、アレリラは々戸っていた。

今まで見てきた方々や、ロンダリィズ夫人とも々違う。

の様子は、そう。

ーーー何事にも、興味がなさそうな。

イースティリア様は、そんなシンズ夫人の様子に気づいているのかいないのか、淡々と問いかけを重ねる。

「ご夫人の出地は、ゼフィス領とお伺いしております。今回の選定に當たって、どのように振る舞われるかご存じでしょうか?」

「ムゥラン様、ですか?」

シンズ夫人は微笑んで、イースティリア様の質問に答える。

「あの方は、領地の誰よりも〝風〟そのものですわ。ご興味がないのではないかと思われます」

「興味がない……?」

訝しげな様子を見せた彼に、嬉々としてシンズ夫人が頷く。

「ええ。〝風〟の者は、自由を尊びますの。風と気の赴くままに生きることを是とする民に、権は枷ですわ」

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「……なるほど」

イースティリア様は々考えながらも納得されたようだけれど、アレリラにはよく分からなかった。

「権力が枷、というのは、どういう意味でしょう?」

それは、あればあるだけ事をし、多くの人々の助けになるものである。

なくともアレリラ自は、それを枷とじたことはないのだけれど。

するとシンズ夫人は、ジッとこちらを見つめてから、またふわりと笑う。

「貴は意志の強い方ですわね。そう、巖のような、あるいは山のような」

「は……?」

「風の気持ちは、おそらく貴のような方にはお分かりにならないのではないでしょうか。風は、貴を吹き抜けるものですわ」

「……ヴェーダ。流石に不敬が過ぎる」

シンズ伯爵が苦蟲を噛み潰したような顔で靜止すると、夫人はパチパチと瞬きをした。

「あら、失禮致しました」

「いえ」

「あ、アレリラ様。お母様はその、々ふわふわとしておりまして!」

「いえ、特に気分を害した訳では」

単純に、彼の言に理解が及ばなかっただけである。

しかし摑みどころのない方ということは理解出來た。

「アル。質問は大丈夫か?」

「はい。失禮致しました」

イースティリア様の言葉に、アレリラが口を挾んだことを謝罪すると、彼は頷いて話を戻した。

「では、〝風〟の公爵は大公としては立たないということですね」

「形ばかりのものとなるかと、思われますわ。彼の地においても〝風〟は自由ですの。前回は〝水〟に投じたかと。票は、四つしかございませんので」

「なるほど」

イースティリア様は、今度は深く頷かれた。

そして、それ以上は『大公選定の儀』に関する質問をなさらなかった。

※※※

そうして、和やかに歓談した後客間に戻ると。

「どういうことなのでしょう?」

アレリラは、イースティリア様にそう問いかけた。

「シンズ夫人への質問で、イース様は何をお分かりになったのでしょうか?」

「大公國がどうやって大公を選定しているのか、だ」

イースティリア様は、淡々と述べた。

「不思議には思っていた。アルは分からないか?」

「質問の主が不明ですので」

「『大公選定の儀』は、四公家の得票によって大公を選出する。票數は四つ。そして権力の座を狙う者が四人居たとしたら、どう決まる?」

問われて、アレリラはようやく気づいた。

そう、各公爵家が全員大公位を狙えば、大公が決まらなくなる。

全員が自分に投じるからだ。

各一票ずつになり、誰も大公になれないとなれば、どう決めるか。

各領の他の者が投じるのか、あるいは、話し合いか。

「つまり、〝風〟は中立で、そこが殘りの三公家のどれを選ぶかで、大公が決まる、のですか?」

「そう。あの國は四公家の共同運営ではなく、そもそもから三公家と一公家、という形で作られているのだろうな」

普通の國家であれば、王は一人。

そしてその権力の頂點は、王位継承権で……即ち筋で決まるのである。

権力闘爭はあっても、継承順位に疑義を差し挾む余地はない。

「元々、あの國の四公家は対等ではない、と?」

「彼ら自がそれを知っているかどうかは不明だが……もし知らぬとなれば、帝國として介の余地がある」

イースティリア様は、冷徹な宰相の目をしていた。

「〝風〟を手中に収めれば、我らが大公を自由に(・・・・・・)選べる(・・・)ということだ」

その言葉に、アレリラは息を呑んだ。

「まさか……」

「〝風〟は記録にある限り、これまで一度も大公位に就いた事がなく、また領地として最も発展した時期もない。だが、それで何故他の四公家に攻められもしないのか。あの國は、これまで一度も他領とを起こしたことがない」

それが異常なことであるという認識を、アレリラはそこで初めて持った。

「小競り合いすらも、ですか?」

「そうだ。大公國領の領地の大きさが変わったことは、これまで一度もない。そして、陛下は仰られた。『かの國の在り様は、その立に関わっている』と」

イースティリア様は靜かに歩み寄り、アレリラの肩に靜かにれる。

「帝室の統に匿されたことがあるように、あの國にも民の知り得ぬ何かがあるのだろう。その鍵となるのが、〝風〟なのだ」

「では……どうなさいますか?」

もし本當に〝風〟が大公の行く末を擔っているというのなら、確かに早急に関わりを作る必要はあるように思えたけれど。

報が不足し過ぎている。しかし、もし仮にそれを各公爵家が知っている、あるいはどこかの公爵が既に気づいていて〝風〟を取り込んでいるとしたら……」

と、そこまでイースティリア様が口にしたところで、コンコン、とドアノッカーが鳴った。

二人で同時にバッとそちらを見る。

「何か?」

「失禮致します。ご浴の前に、ヴェーダ様がお二人を私室にお招きしたい、と」

そう言われて、アレリラはイースティリア様と目を見わした。

ーーーなるほど。あの場では語れぬことがあった、と。

シンズ伯爵夫人にじた違和は、気のせいではなかったのだ。

にはおそらく、何かがある。

イースティリア様が頷き、返答を口にした。

「すぐに向かわせていただく、とお返事を」

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