《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》219・迫り來る真の災厄
見下すようにアルターがそう言い放った瞬間──彼の周りにいくつかの黒い炎が錬されます。
その炎はやがてドラゴンとなり、私達を囲みました。
「ファフニール以外に一人、そちらにもドラゴンがいるようだな。しかし混ざっておる。たかが半人では、儂の脅威にはなりえない」
「なんだと?」
ドグラスが眉間に皺を寄せ、アルターに殺気をぶつけます。
「半人……だと? どういう意味だ」
「そのままの意味だ。答えてやる義理もない」
アルターはドグラスの怒りを飄々とけ流し、
「聖を捕らえよ。他の者はどうなってもいい。殺せ」
と宣言しました。
しかしファーヴが一歩前に出て、こうびます。
「やめろ! お前の目的は聖だけのはず! 他の者に手を出すな!」
「儂がどうして、貴様に従わなければならぬ? 貴様がどうして一人でリンチギハムに向かったかは分かっている。大方、被害を広げたくなかったんだろう?」
「……っ!」
「愚かすぎて、見るに堪えん。聖を犠牲にして、それで騙されて。全てが中途半端。だから時の聖は死んだのでは?」
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「俺のことはいい! だが、彼のことをこれ以上愚弄するな!」
心が張り裂けそうな表で、ファーヴがアルターに食ってかかります。
「貴様と話すのはこれ以上無駄だ。一つ──余興をしよう」
アルターが余裕たっぷりにこう続けます。
それはさながら、歴史の重みを知る賢者が、を諭すかのような口調でした。
「これほどの心震える戦いを前にして、ドラゴンとしてのが騒ぐことは久しいことだ。ここでなぶり殺しにするのは、あまりに惜しい。そこで──まずはそいつらを退けろ。儂は島の頂上にて待つ。貴様が“真の聖”なら、それくらいの真似は容易いだろう?」
それだけを言い殘し、アルターは島の頂上を目指して、飛び去っていきました。
「ヤツめ、戦いを楽しんでおる。それよりも──どうする? 長命竜の言葉に従い、頂上に向かうか? それとも島から出するか?」
舌打ちして、私達に視線をやるドグラス。
「どちらにしても、まずはアルターのしもべであるドラゴンを、退ける必要がありそうだね」
ナイジェルが空に浮かぶドラゴン達を見上げます。
數としてはおよそ十。
私達に対する敵意はじますが、瞳には意志の強さが宿っていません。
まるで人形のようです。
「この者達──既に死んでいますね」
「エリアーヌ、その通りだ。言うなれば、アンデッドドラゴンといったところだろうか。アルターにられているだけ──と考えて、手加減するのはなしだぞ?」
「分かっています」
ドグラスの言葉に頷きます。
アンデッド系の魔やドラゴンは、普通に倒そうとしても骨が折れる。
彼らは痛みをじないですしね。
通常なら死んでいるような傷を負っても、彼らはきを止めたりしない。
手加減している暇なんてありません。
ジリジリとアンデッドドラゴン達は、私達と距離を詰めます。
「來るよ!」
ナイジェルが一聲発したかと思うと──その中の一のアンデッドドラゴンが飛び出し、私の眼前に迫ります。
すぐさま結界を張り、攻撃に備えますが、
「その必要はない」
ファーヴが両手に雙剣を顕現し、私とアンデッドドラゴンの間に割ってります。
カウンター気味にファーヴの剣が放たれます。
これだけの格差があるというのに──たった一閃でアンデッドドラゴンは悲鳴を上げ、地に墮ちました。
「これが贖罪になるとは思っていない。しかし──シルヴィが死に、希が斷たれた俺にとって、最早アルターは従うべき対象ではない。俺は君達の味方だ」
「ファーヴ……!」
ファーヴの頼もしい言葉に、私は嘆の聲をらしてしまいます。
彼の殺気に押されて、まだ上空に殘っているアンデッドドラゴン達が怯んでいるように見えました。
ジリジリと距離を詰めるだけで、襲いかかってこようとしません。
「その言葉を信頼しろと? 我らを裏切った汝を?」
「…………」
ドグラスの言葉に、ファーヴは黙ったまま。
「ファーヴ──諦めるのはまだ早いです。長命竜アルターが本當のことを言っているとは限らないでしょう? シルヴィさんはまだ別のところで、生きているかもしれません」
そう言って、私は島の頂上に視線を移します。
「──私はアルターに話を聞きにいきます」
アルターが正直に話してくれるとは限りません。
だけど、それでも──私は真実を確かめたい。
「エリアーヌ、まだファフニールのことを助けてやるつもりか?」
ドグラスはファーヴを一瞥する。
「はい。それに──なんにせよ、アルターはドラゴンだけの世界を築くと言っていました。放っておくわけにはいかないでしょう?」
「それもそうだな」
とドグラスは不敵に笑います。
「ここは我に任せて、先に行け。こいつらを叩きのめしたら、すぐに向かう」
「ありがとうございます」
とはいえ、相手はアンデッドドラゴン。
いくらドグラスでも、ここを切り抜けるためには時間を要しそうです。
「俺もここに殘る。ドグラスと共に、こいつらを始末する」
「僕はエリアーヌと共に行くよ。君を一人にさせていられないからね」
ファーヴとナイジェルもそう口にします。
ドグラスはファーヴの言葉が気にらない様子。しかし咎めている場合でもないと考えたのか、アンデッドドラゴンに意識を再度向けます。
「ナイジェル、行きましょう」
「ああ」
私はナイジェルと共に駆け出す。
アンデッドドラゴン達が行く手を阻んできましたが、ドグラスとファーヴ達の応戦もあり、なんとかこの場から抜け出すことが出來ました。
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