《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》15話 VSアカデミー その1

ソレは、ただ、そういうのが好きだった。

ーーこけっこー、けっこー。

夜中に鶏の鳴き聲の真似をした。

それだけでは谷底に落ちて死んだ。

面白かった。

ーーあの雉の聲、ウザくありません? 弓矢で殺しましょうよ。

力だけ強いバカにアドバイスをした。

それだけでそのバカも死んだ。

かなり面白かった。

の子のフリをして遊んだり、頭を剃ったハゲと知恵比べしたり。

たまに、負けたりもしたけど結局全部面白かった。

ソレにとって他者とはオモチャ。

永い生をしでも楽しくさせるオモチャに過ぎなかった。

自分の一挙手一投足が他人の人生をめちゃくちゃにする。

そんなのが好きだった

その、はずだった。

でも、あの笑い聲がもう離れない。

『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ンギャァーハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』

人間と、自分の立ち位置は決まっていた。

己がし好奇心と興味を向ければ、バカのように勝手にクルクル回って、いつか死ぬ。

その筈だった。

『またな、次の悪だくみを楽しみにしててやるぜ。クソ神』

震え。

ソレは、恐怖を知った。

負けたのは初めてじゃない。

でも、負けてもいつもまた新しくやり直せた。

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でも、ソレは違う。

どこまでもどこまでも追いかけると宣言した。

事実、そうなった。なってしまった。

『あまのじゃく! く~~~ん!!!!! 來ちゃたあああああああああああああああ~~~~~』

ソレは味山只人と出會ってしまった。

「せ、先生! ば、化け、化けが來たっ!」

「お、オイオイオイオイオイ……校庭ぐっちゃぐちゃじゃん」

「自衛軍……なんか、全員やられてね?」

「影が、怯えてる……」

「わ、私も、私の中のルーちゃんが逃げろって……!」

「蘭ちゃんも? 俺もだよ。土蜘蛛が秒で逃げろって……鬼狩り……鬼裂……? がやってくるって」

「うわ……なんだよ、あの見た目……人、だよな?」

「なわけあるかよ! なんて耳が頭にくっついてんだ!?」

「み、みなさん、お、落ち著いて! 落ち著いてください。訓練通り、サキモリが來るまで、校舎の地下に避難……!」

校舎は阿鼻喚。

生徒も教師も突如襲來した化けに怯える。

その化けは轟音と共に現れ、瞬く間に彼らを守る自衛軍を蹴散らしーー。

『あ、どうもお耳です』

『お耳と言われればお耳です』

べたぺたぺた。

耳の面をした2の異形の巨の化けが、壁でも塗るような手つきで空間にを作っていく。

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あっという間にできたドーム狀のはすでに、アカデミーの校舎を覆った。

「え……あれって、神坂家の前鬼と、後鬼……?」

「は? は? いや、いやいやいやいや、あれって編むのに1000年はかかる式神じゃ……」

「なんか、顔の形……耳じゃね?」

アカデミーの中でにその特異のルーツを持つ生徒達は窓の向こうでせっせと自分達を閉じ込めるを作るソレらを口を開けて眺める。

誰しもが、慄く。

誰しもが、焦る。

だが、アカデミーの生徒達の心はまだ、折れない。

「せ、先生」

1人の生徒の呟き。

このアカデミーには、頼れる"先生"がいるのだ。

まだ世界がver2.0になる前。

サキモリが産まれるより先に、ニホンをこの世ならざる異常から守ってきた組織。

ニホン公安対超常現象特殊対策班。

"サクラ"、"チヨダ"、"カスミガセキ"など複數の部署から構される異様を統制する組織。

その中でも、數々の怪異や現象を鎮圧せしめた伝説的人

「「「「「「黃泉川先生!!」」」」」」

「ーー」

黃泉川理(よみかわりせい)。

の存在が、アカデミーの生徒、教師達の心を震わせる。

の伝説、公安の生ける伝説。

ニホンのありとあらゆる怪異を封じ、闇を歴史の表舞臺に近づけさせなかった防波堤。

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だが、皆は知らなかった。

すでに黃泉川理はある神種に敗北。

そのを奪われ、神と化していた事を。

黃泉川理を奪ったソレは考える。

なんで。なんで、なんでなんで。

ニホンと味山只人が手を組んだのは知っている。

だから逃げる準備を進めていた。

地下ではなんとか逃げられた。

でも、いつか必ずアカデミーにも來ると予想はしていた。

だから、ニホンの中樞にも監視を広げていた。

ソレが握っている報では今、アレフチームはいてない筈。

この前の國會でのデモンストレーション以降は、サキモリの訓練に集中するはず。

ありえない。

國と手を組んだ狀態で無斷でこんな、こんなーー。

いや、あの男なら、まさか、そんな。

「あ、じやま……た、だひと」

もう止まらない。

ソレは、恐れを知ってしまった。

「「「「「えっ?」」」」」

「味山、味っ、味山只人!?!? また、また來たァァァアアアアアアアアアアアアア!! アンギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」

兎。

すでに黃泉川のを奪った神種ーー天邪鬼と味山只人の格付けは終わっていた。

「「「「「「「……ええ」」」」」」」」」

そして。

ぶぶぶぶぶぶ。

校舎に取り付けられている放送機にノイズが走る。

何度かのハクリングを繰り返して。

『よお、アカデミーの學生さん達。授業中申し訳ない。大変恐れいるんだが、この學校をこれから占拠する』

「「「「「「「」」」」」」

『目的は2つ。一つ目はお前らアカデミーの才能ある連中の力が知りたい。最低限、役に立つのかどうかが知りたいんだ。ソレ次第でクラークが考える作戦が変わってくる』

「「「「「「「」」」」」」」

『二つ目はシンプル。お前らの學校にどうしてもここで殺しておきたい奴がいる。聞いてんだろ? お前だよ、天邪鬼。俺言ったよな? 何度でもお前を追い詰めるって。……いや、正確になんて言ったかは覚えてないけど、そんなニュアンスな事は言った筈だ』

放送は淡々と、しかしどうしようもない圧力をもってアカデミーに響く。

『これから々たくさん始末しないといけない連中がいる。そしてお前は絶対にそういうの邪魔してくるよな? お前に振り回されるのは面倒だ。だからここで滅ぼす』

本當に面倒そうな聲。

生徒達はその容を半分も理解出來ない。

だが、その聲の主が機嫌が悪いことはわかった。

『あとは……アカデミーにいるっていうクラークの言ってたニホンの公安の人達。あんたらの能も知りたい。キタヒロシマで世話になった人もいるかもだが……すまん、これも巡り合わせだ。殺しはしないが、全員ぶちのめす。ごめんな』

「な……」

「……キタヒロシマ? ……まさか、サイシンの?」

「……! 味山只人!? サイシン殺し……!」

「特マル対象者……噓、でも、サキモリとの共同にあるって、なんで、このタイミングで」

「……キタヒロシマ……懐かしいね、味山只人さん」

一部の教員達の顔が青ざめる。

唯一、1人だけボサボサの髪にシャツのよく似合うダウナーな人だけが、し嬉しそうな顔で微笑む。

『まあそういう訳で。アカデミー、ガキ共、教員共。申し訳ないが、防災訓練の時間だ。そして天邪鬼、殺しに行くわ。渉も降伏も無駄だ、抵抗しろ』

「「「「「「「」」」」」

微妙に腰の低いテロリストからの放送が校舎に響いた。

「え……ど。どうする?」

「だ。ドッキリ?」

「ち、違うでしょ……流石にこんなドッキリしやんて……」

「ね、ねえ、まみちん……う、うちらし、死ぬんかな、こ、殺されてまうんかな……!」

「い、いや、なわけないじゃん! お、大人! 大人が守って……せ、先生は? 先生はどこおるん?」

「とっくに逃げたよ!!」

「「「「「」」」」」

重い沈黙が講堂に積もる。

アカデミーの心の拠り所、象徴にも近い"先生"の逃走は生徒達の士気をこれ以上なく下げていた。

だがーー。

「かと言って、このままここで戸い続ける訳にもいかないね」

「チッ、病み上がりなのに。またあの化けかよ……だが……今度は上手くやってやる」

「……怖がったままじゃいられない。我々はかの恐怖と再びあい見える」

「恐怖は乗り越えるものですわ!! そして!!! 恐怖を乗り越える為にはそれと向き合わなければならないっ! ぶちかましてやりますわ!!」

講堂に現れる4人の

アカデミーの生徒ならば誰もが知ってる4人組。

それぞれ腕や首にギブスを巻きつつも、瞳には凜々とした力が。

「生徒會の……!」

「鳴上會長だ!」

「蘆屋さんだ、怪我は……」

「エリンちゃん、もう大丈夫なの?」

「みく……首、ダメでしょ」

「諸君、我々はすでに彼と一度対峙……いや、彼を見た事がある。答えはご存知の通り、鎧袖一、サキモリの諸先輩達と同様蹴散らされてしまった」

「「「「「………………」」」」」

アカデミーの生徒達の顔に暗雲が。

鳴上はゆっくり息を吸う。

「正直私はまだ、怖い。……はじめてだったんだ。自分の力が全く及ばない恐怖、理解や予想すらつかない人間。ニホンと、國家を、ただ、力のみで全てを覆したアレフチームが、味山只人が」

痛々しい負傷の姿。

アカデミーの最優の生徒で構される生徒會、その中でも最も強いとされる4人ですら、戦力にもならない事実。

パリッ。

鳴上の栗の髪のに紫電が走る。

「だが、それと同時に、だ。私は今、これ以上なく……高揚もしているんだ」

生徒達が息を呑む。

鳴上の、いや、壇上に立つ生徒會メンバーの雰囲気。

それが、あまりにも。

「なあ、みただろう? 皆も。サキモリも自衛軍も、シエラチームも薙ぎ倒したあの姿を」

ver2.0。

ニホン特典ーー探索者伝子。

達は奈落に見染められている。

「見ただろう? ブラッドシーサーの首を掲げる彼らを! 國會に現れた神種を鏖殺するその姿を!! ーー高揚した……ああ! 怖い、怖いさ! 怖くてたまらない! だが、同じくらい私はもう魅せられている!!」

ばちちちちちちち!!

紫電、舞う。

保有者としての彼は未だ未完

だが、その素質。

アカデミー生、次のサキモリ、ーー探索者として最も大事な要素。

「私は、アレになりたい。アレに負けたくない。故に、いいじゃないか、諸君! アカデミーの諸君。ニホン全國から集められた特別な者達よ」

狂奔。

他人に己が狂気を染させる能力。

凡人に潰され、星に魅せられた才能がアカデミーを伝染させる。

「彼は言った。力が知りたいと。ならば見せてやろうじゃないか! 我らの力を! 彼が甘く見ている我々クソガキの力を! アレフチーム、最強の探索者達に我々の才能をぶつけてみよう!」

いつしか、生徒達の顔から怯えは消えていた。

ここに集うは、特別。

誰1人凡庸はいない、凡人なき才能ある者の巣窟。

ルーツは違えど、神に抗う為に集められた戦う才能がある者達。

を構えろ!! 己がに従え!! 伝承と向き合い、その研鑽を見せろ!! 我々はアカデミー!! 次の世代のサキモリ。ニホンを永らえさせる新たなる牙!!」

「おおお……」

「あ、は、やれる気がしてきた」

「おし」

「うおおおおお」

カリスマ。

生徒會長、鳴上風のソレが牙を剝き。

「さあ、諸君。ーー探索を始めよう」

「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」」」」」

ここに、アカデミーは資格を得た。

味山只人と戦う最低限の資格を。

彼らにとっての幸運は、鳴上風がいた事。

稀代の天才、カリスマ。大人顔負けのその弁舌と人柄は瞬く間にアカデミー生に士気をもたらせた。

「やれる、やれる気がしてきた! 生徒會も教師もいるんだ!」

寮の出者はこっちへ! 校舎に陣を敷く!! 手伝ってくれ!」

使える人は得意な事と、出來ない事を共有しよう! 伝承再生の適合者達はーー瞑想でもしといて!」

「まみちん、う、うちらどがんする?」

「な、何かしなきゃ! あ、そうだ! お茶とか水とか用意しよっ! なんかしでもできること探そう!」

「うん!」

「大人顔負けだな」

「……そんな事言いながら先輩も熱くなってるでしょ」

「サキモリもニホンもアレフチームとの共同を選んだ。我々もそれに合わすべきだが……いい機會だ。味山只人の実力をその験してからでも遅くないだろう」

「怪異やらなんやらよりよほど暴力裝置ですよね。

き出す生徒達。

それに合わせる教師達。

戦いの準備が始まる。

もう誰も逃げ出した黃泉川の事で心をしたりはしていない。

「生徒會長サマ、今日だけは、アンタの言う通りにしてやるよ……お見事、あいつらすっかりやる気になったな」

蘆屋が鳴上の肩を叩く。

「ナルカミ、謝を。みんなの心が一つなら我々はまたかの大敵に挑める……」

エリンが眼を細め微笑む。

「さすがでしてよ、鳴上さん! わたくしもこう、尾の先から耳のさきっぽまで熱がる思い出したわ! いっちょかまして……ごほん、挑ませてもらいますわ。かの、最強の探索者に」

ーーだが、一つ。

彼らにとっての不幸がある。

ソレはーー。

『耳の創作。ホラー味山厳選スペシャルチーム、GO』

放送が、途切れた。

「「「「「「「「……ん????」」」」」」」」

『『『『『『『『『『『お耳達です』』』』』』』』』

かりかり。

ごごご。

じじじじ。

講堂の大扉が開く。

ぎっしりと詰まるような形で現れるのは異形の集団。

戦車、四足歩行ロボット、ドローン。

小型自立兵

本來このアカデミー守備の為に配置されていた戦力、その殘骸達。

なんか、どろどろして、耳を生やして。

『『『『『お耳なんですが……』』』』』

流暢なニホン語が、兵達から生える耳から響いた。

『まずはそいつら全員倒せ、ガキども』

「「「「「「「は????」」」」」」」

彼らの不幸は、バカがちょうど新しいおもちゃ(耳の創作)を手にれたばかりだったという事だ。

『あー、作るの楽し』

獨り言が放送で流れた。

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