《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》伝言と質問。

「……わたくしは、流石にイース程には彼に信用を置けませんが、それ程に?」

「と、私は見ている」

アレリラの知り得ない事実を、イースティリア様は幾つもご存じなのだろう。

それで問題ないと判斷なさるのなら、これ以上口を挾むことでもない。

一つ頷くと、イースティリア様はさらに言葉を重ねた。

「『語り部』のこと以外に一つ引っかかる點があるとすれば、伝言の部分だな」

「オルミラージュ侯爵への二つの伝言ですね」

「ああ。引っ掛かりがあるだろう? オルミラージュ侯爵にはがある。彼の母は、かつて姉と共に火事で亡くなった筈だ。では、『生母』とは何者だ?」

言われて、アレリラは首を傾げる。

「生前の伝言なのでは?」

「オルミラージュ侯爵と婚約者のリロウド伯爵令嬢は、歳が10違う。私の記憶が間違っていなければ、火事の時點でリロウド伯爵令嬢は僅か3歳、そしてエルネスト伯爵家に後妻の連れ子としてったのは、8歳の時の筈だ」

何故そのようなことまでご存じなのだろう、とアレリラがますます首を傾げていると。

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「ライオネル王太子殿下の婚約者は、彼の義姉、エルネスト伯だ。家系はそれが発表された時點で、一通り調べておいた」

「不勉強で申し訳ございません」

アレリラ自が資料を用意した記憶はないので、おそらくの誰かに頼んでイースティリア様が目を通されたのだろう。

「単に復習のつもりでさらった資料の中にあっただけだ。気にしなくとも良い」

「はい。であれば、確かにおかしな話ですね」

伯爵令嬢ですらなかったのであれば……その元・平民で侯爵家の婚約者という経歴自も驚きに値するが……オルミラージュ侯爵夫人との接點があったとは思えない。

「『婆やは』という枕は、通常、母かその家の老齢の侍長を指す言葉だろう。亡くなったオルミラージュ侯爵夫人が、伯爵家に仕えていたとは考えられん」

「そうですね……では、その『生母』は別人であると?」

「と、私は考えている。記録上は先代オルミラージュ侯爵の実子となっているが、その點にも、何か裏があるのだろうな」

調べるべき部分が定まってきた。

「オルミラージュ侯爵と水公家(ハイドラ)の関係、『生母』に関する調査、水公家(ハイドラ)の『作の魔薬』や【呪いの魔導】への関與……その辺りの調査を重點的に行います」

「ああ。もしかしたら、もっと早く知ることが可能かもしれん」

「何か、伝手が?」

「我々がこれから向かうのは、ライオネルだろう。ランガン子爵家でも、オルブラン領でも、機會があれば探る」

イースティリア様の指示に、アレリラは小さく頭を下げた。

「畏まりました」

※※※

「あー、久しぶりですねー、タイア子爵ー!」

ボンボリーノは、領易街に來ていた。

書類を用意するのに、易街に帝都役所の出張所があるので便利だと執事のオッポーに言われたからである。

『畑の世話以外に大した仕事ないでしょう』と言われてしまったらその通りだし、別に駄々をこねる程でもなかった。

アーハは新調したドレスやスーツの確認に先に出ていて、ボンボリーノは後で合流して、お菓子を食べに行く予定だった。

そこに、タイア子爵が訪ねて來たのである。

「すまないね、近くに寄ったものだから」

「良いですよー! あんまり時間ないですけどー!」

「ああ、そんなに大した用事でもないから構わないよ」

相変わらず朗らかでスマートなタイア子爵は、ボンボリーノを庭にった。

「綺麗に手れされているね」

「お花はオレの管轄外ですけどねー」

食べられないものに興味がないので、あまり手れにらないのである。

「そういえば、君は大公國の方と誰か面識があるかい?」

「大公國? は、えーと」

世間話なのだろう質問。

だけど、誰がどの國の人かうろおぼえなボンボリーノは、目線をさ迷わせる。

そしてアーハの『髪のと瞳が同じ人は、基本的に大公國の人だったりするわよぉ~!』という言葉を思い出して、ポン、と手を打った。

「紅い目と髪の人に會ったことありますねー!」

「ロキシアの方か。いつ、どんな時に會った、どんな人かは覚えているかな?」

何故か満足そうなタイア子爵に、ボンボリーノは首を傾げる。

「えっと、若い人でー、確か、そう、水道の浄化裝置のなんたらとか言ってましたね!」

詳しい話は、相変わらず管理人のおっちゃんとかに丸投げしているので覚えてない。

「バーンズ・ロキシア侯爵令息かな? 多分、堂々とした方だったのでは?」

「そうそう! なんか偉そうな態度が似合う人でした!」

別に見下された訳でもないけど、なんとなく偉そうな人だったのである。

「その人について、君はどう思った?」

「え? なんかオレのこと面白いなって言ってて……それくらいかなー?」

「彼自に特に何かじることはなかった、と?」

ちょっと真剣な目のタイア子爵に、ボンボリーノは同じくちょっとだけ考えて。

「あー、えっと、『凄く偉くなりそうな人だな』って思いました! だから偉そうでも気にならなかったのかなー?」

と、ボンボリーノが思ったことを口に出すと、タイア子爵が大笑いする。

「はははは! 『凄く偉くなりそう』か! それは帝王陛下くらいかな?」

「多分!」

「そうかそうか、なるほど。君は本當に素晴らしいよ」

「そうですかー?」

よく分からないけど、褒められて気分が良くなる。

そう、タイア子爵はボンボリーノのことをお世辭ではなく(・・・・・・・)褒めてくれるから、大好きなのだ。

「いや、相変わらずで安心したよ。おっと、そろそろ出掛ける時間かな?」

「あ、そうですねー! お見送りしますよー?」

「いや大丈夫だ。このまま玄関に向かうよ。ありがとう、また會いに來るよ」

「お待ちしてますー!」

タイア子爵が良いというので、ブンブンと手を振って見送ったのだが。

準備に部屋に戻ると、何故かオッポーに怒られた。

ーーー子爵が良いって言ったのになー。

なんだか釈然としないながらも、ボンボリーノは著替えを終えてアーハの元へと向かうのだった。

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