《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》それはそれとして、です。
「つまり、オルブラン侯爵令息が魔薬の件に関わっている、と?」
「彼の參加した夜會に、魔薬の件に関わった文が招かれていたことがある。接したかどうかも、証拠もない。だが、狀況は出來過ぎている」
「……彼は、ライオネル王國ではどのような扱いなのです?」
「特に何も。魔薬の件が暴かれた時も、特に関與していたという証拠は出ず、無罪放免となっている」
イースティリア様の言葉に、アレリラは質問した。
「ライオネル王國でも、製造工場は発見されていますね」
「ああ。オルブラン領で。だが、その運営をしていたとされる人は、帝國に逃亡した後、姿を消しているという報告だっただろう。人像は不明だ」
なら、オルブラン侯爵令息に関する不審點は、二つ。
一つは、魔薬の件に関わった文と、帝國で知り合っている可能があること。
もう一つは、オルブラン領で工場が発見されているにも拘らず、その點についてはライオネル側がいかなる罰も與えていない點。
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「狀況は限りなく黒、けれど、証拠がなかったこと。あるいは、ライオネル側が、故意に國に持ち込んだ真犯人を匿している……?」
「と、私は考えている」
「何の為にでしょう?」
そもそも『神作の魔薬』に関する件を、帝國に伝えて來たのはライオネル王國なのである。
もし魔薬を利用するつもりであれば、そんなことをする理由がない。
オルブラン侯爵令息を罰することで何か問題が起こる、ということも考えづらい。
主犯とされている人も、関わった者達も記憶にある限りほぼ全員が高位貴族の令息や令嬢である為、『高位貴族だから』という理由で見逃される可能が低いからだ。
「詳細は分からんが、もし私が國王陛下の立場であるのなら……有用な人材であるから見逃す、ということはあり得るだろう」
「司法取引ということでしょうか」
「ああ。『首』が付いている可能もある。だが、推測が事実ならば」
イースティリア様は、酷薄に目を細めた。
「ーーーライオネルは、恩を売るで帝國を謀(たばか)ったことになる」
その表に、アレリラは背筋を正した。
イースティリア様は優しい方ではあるけれど、決して甘い人ではない。
宰相閣下として、冷徹な一面もお持ちの方なのである。
「故に警戒しておく、ということですね」
「そうだ」
「もし、それが事実であり、推測通りであったとしたらどう対応されますか?」
宰相書筆頭として、何らかの報復を行うのであればその準備をしなければならない。
謝罪金で済めば良いけれど、経済制裁ともなれば國家間の軋轢となり、あるいは戦爭に繋がる可能もある。
けれどイースティリア様は首を橫に振った。
「もし事実であったとしても、特に何らかの働きかけをすることはない」
「その真意は」
「切り札になり得る」
アレリラは、その言葉に安堵すると同時に納得した。
一応、『神作の魔薬』に関する件は既に解決したことになっている。
國の犯人を捕らえて事態に対処すれば、特に帝國側に何らかの要求はしない、という取引が立していたからだ。
つまりこれまで、心としては『借り一つ』だったのが『貸し一つ』になる。
実際は、ライオネル王國側にも隠していることがあり、それを黙っていたという話になるからだ。
今後何かが起こった時に、それを理由に要求を通すことが可能になる、ということだ。
「納得いたしました」
「ああ。ライオネル自……あるいはライオネル王國で事を起こした犯人は、魔薬の件を利用して帝國側に有利を取っただけだろう。どちらにせよ、真犯人は大公國側である疑いの方が濃いことに変わりはない」
そこでイースティリア様は、話を変えた。
「実際、その件がなくとも今ライオネルと軋轢が起こることは、本意ではない。【生命の雫(エリクサー)】の件を対価に【聖剣の複製(レプリカ)】を融通して貰う件が殘っている」
「そうですね」
旅行の日程をキャンセルせずにライオネル王國に赴くのは、それが理由としてあるからだ。
「ここで札を切れれば良かったのですが」
「元々、旅行中に知った事だ。それが多すぎるのが問題ではあるが」
「そうですね」
本當に、ただ日程をこなすだけで、どれ程新しい事実を知っただろう。
基本的には査察だけのつもりだったのが、いつの間にか世界を巻き込む【災厄】への対処が必要になっているのだから。
「それに」
と、イースティリア様はを起こして、アレリラの頬をでて微笑んだ。
「最大の目的は、アルとの旅行を楽しむ事だ。サーシェス薔薇園の他にも、他國の街並みや珍しいものを一緒に見ることが出來るのは、嬉しい」
「……それは、わたくしも同じです」
アレリラは、しはにかんだ。
そう、仕事だけではない。
ぺフェルティ領で、タイア領で、ロンダリィズ領で出會った人々、れた事。
あるいは、カルダナ様やクットニ様と短いながら出會えたことも、アレリラにとっては『楽しい』ことだった。
いつも一緒にいるのは同じ。
そして、こういう會話ばかりだけれど。
イースティリア様と共に各地を巡り思い出を作る経験は、帝都では得られないもの。
「仕事とは違う部分で、大切な経験です。やがて、得難い寶としてに殘る経験でもあるかと、思います」
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