《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》異國の文化というのも、また良いものです。

そうして、一日後にサーシェス薔薇園に赴く前に、オルブラン本邸のある街を見て回ることにしたアレリラは……久しぶりに手持ち無沙汰(・・・・・・)な気分を味わっていた。

理由は単純で、今の狀況には『目的』がないからである。

この國を訪れた最大の理由である渉は明日であり、イースティリア様がスーファ様の案を丁重に斷ったこともあり、特に外も意識することがない。

ただただ、異國の空気にれているだけだった。

「雑多ですね」

イースティリア様と共に、幌を畳んだ馬車でガタゴトと揺られながらアレリラはそう口にした。

緩やかなペースで、遊歩道のある大広場を目指しているのだけれど。

「活気があるのは良いことだ。帝國と比べれば、そうした印象が強いのは認めるが」

「何の差なのでしょう?」

通法と道路自の整備が追いついていないのだろうな。帝都周辺やウェグムンド領、ペフェルティ領辺りは帝國人が多い。オルブラン領は三國の人種がり混じっているので、徹底するには々時間がかかるのだろう」

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通法……なるほど」

実家のダエラール領ではそこまで広い道はないので気にしていなかったが、確かに帝都近くや陸を行きう車は、道が広くともきちんと左右に分かれて進むモノが多い。

特に帝都の近くは通整理を行う者達も多く配置されていて、き方に統一があった。

オルブラン領の道路は広いが、大半が土を固めただけの狀態である。

それでもぬかるみやすそうなところには板が敷かれているが、帝都の最新技であるアスファルト舗裝や、ペフェルティ領他易街で主に使用されている石畳や煉瓦敷き、あるいは砂利等の舗裝は存在しないか、あるいは始まったばかりなのだろう。

そんな中を、牛車や人力車、荷馬車や竜車も含む様々な車が縦橫に自由に行きっているのである。

アレリラ達が乗る馬車も、用にそれらの車とぶつからないように進んでいく。

徒歩の人々の多くは、歩道すらない道の端を歩いていた。

「帝都近くで行われている形の方が、結果的に利便が高いように思えますが」

「実際そうだろう。が、予算が潤沢であり、かつ遵法意識の浸があることが前提となるからな。道の整備が始まった段階では、まだまだそこまでは行かないだろう」

イースティリア様が、正面に遠く見える劇場の方を指差したので、アレリラはそちらに目を向けた。

確かに、そちらの方では道路の整備が行われ始めているようだ。

「技の適用は畫一的には行われない。元々の資源量もあれば、魔獣の脅威が近か否か、産業の容にも左右される部分だ。たとえば、ああした市(いち)がオルブラン領では盛んなのだろう」

と、次にイースティリア様が目を向けたのは、背の高い建と建の間、いわゆる二番道路や脇道と呼ばれるような道の方だった。

そこかしこで、道の両脇にテントや天商が商品を広げており、あるいは馬車等がれない食料市らしき道には人が埋まるほどひしめいている。

確かに、帝都では厳格に市の開催場所が決められている為に見られない景だ。

「オルブラン領はああした易による利益を重視しており、運河が近くにあることも相まって、陸路整備の必要が優先順位的に今まで薄かったのだろう。食料には困らずとも、それ以外の金品や日用品等の産出は國外の輸に頼っている部分が大きい」

「なるほど。宿舎や住宅と見けられる高層の建が多いのはそうした理由もあるのですね」

異國から來た者達が寢泊まりする場所、あるいは商売を生業とする者や、それを手伝う日雇いの者らが多ければ安価かつ人を多く収容する建が多くなるのは必然である。

オルブラン領は『王國の穀庫』と言われるだけあって、多くの地域が小麥他食料畑になっている、と知識としては知っている。

けれど本邸のある地域に関しては、イースティリア様のおっしゃる通りライオネル王都に向かって流れる大河があり、北部の港と水路で繋がっていた。

オルブラン本邸のあるこの地域が、ペフェルティ領における易街の役割も擔っているのである。

「大公國の文化と帝國の文化、そしてライオネルの文化がわる地點に存在するこの都市の文化的側面は、様々な國の様式を取り込んだ背の高い建や、蕓に造詣の深いハビィ・オルブラン侯爵の気質的に興行(こうぎょう)に集約されているのだろうな。これから赴く大広場でも、大道蕓や品の展示、楽団の演奏などが行われている筈だ」

ーーーところ変われば品変わる、ということですね。

紙の上の知識だけでは、やはりその土地の空気というものは分からない。

そうした視點で見ると、技の粋(すい)を極めたタイア領の様子や、華やかさよりも実利や民との流を重視するロンダリィズ領、食文化に強いペフェルティ領とはまた違った趣きのある土地なのだ。

「勉強になります」

しは手持ち無沙汰な気分が晴れたか?」

問われて、アレリラは目をぱちくりさせた。

イースティリア様の顔を見ると、小さく微笑んでいる。

「アルは知識もあり、好奇心も人一倍だが、それを活かした楽しみ方というものをあまり知らない。が、知っていることに絡めてその土地の有り様を眺めるのは、知識があるからこそ出來る楽しみ方の一つだ」

「そう、ですね」

アレリラも、小さく微笑み返した。

ーーーそうです。そういう『楽しみ』をイースと共有する為の、新婚旅行でした。

ついつい、何かをしなければならない、と考えてしまうのは、アレリラの悪い癖だった。

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