《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》原石ですね。

そうして、大広場をゆっくり歩き出すと、噴水を越えてし進んだ先で、イースティリア様が足を止めた。

「どうなさいましたか?」

「あの天商を覗いてみたい」

示された先に目を向けると、そこには石を売っている天商がいた。

「何かご興味を引くことが?」

を見ること自は特に問題ないのだけれど、こうした場で売っているものは基本的に普段使い出來るものではない。

特に裝飾品の類いは、パーティーや夜會の場ばかりでなく、會議や渉の場でも普段につけているものというのは『格』を示すものだからだ。

イースティリア様のお立場だと、侯爵家當主としてばかりでなく、國家を背負った対談や、帝室を背景としたご挨拶などもあり、こちらの意識よりも対外的な目を気にした裝いが求められるのである。

「気になっているのは、技だ」

イースティリア様のお答えに、アレリラは頷いた。

近づいて見てみると、そこに置かれていたのは緻な細工を施した石の數々だった。

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石の中におそらくは生花を封じたものや、石の中に浮かんでいるように紋様が彫られたものなど、確かにどうやって作っているのか気になる品々である。

『おキャクサン! 良いモノ、アル!』

ニコニコと応対してくれたのは、辿々しい大陸南部語を発するだった。

父親らしき人が橫で無想に小さな椅子に腰掛けており、どうやら接客は彼の仕事のようだった。

二人ともは白のようだが、よく日焼けしており、そばかすにのあるにイースティリア様は小さく頷く。

「失禮だが、帝國の出者だろうか?」

「あれ? お客さん、帝國の貴族様ですか?」

言葉のイントネーションから察したのだろう、大陸中央語で話しかけたイースティリア様に、が目をぱちくりさせる。

「ああ」

「それは失禮しました! 悪いですが、安しかないですよ?」

さっき『良いものがある』と言っていたのと反対の言葉だが、おそらくリップサービスの類いだったのだろう。

「構わない。こちらの作り方に興味があって聲をかけさせて貰ったのだが、行商だろうか?」

「そうですね! カーチャン達は帝國で住んでます!」

すると、イースティリア様の視線が鋭いものに変わった。

「なるほど。住んでいる地域は、どの辺りか教えて貰えるとありがたいが」

ーーーなるほど。

どうやらイースティリア様はまた『原石』を見つけたようだった。

この世界には、自分達の知らない埋もれている技が幾らでもある。

「えっと……」

どうやら客ではない、と判斷したのか、困ったようにが橫の父親を見ると、ジロッとツバ付き帽子を被った父親が顔を上げる。

「何だ、アンタは」

渉がしたい。この石の紋様を刻んだ職人に興味がある。素晴らしい腕前を持つ方だろう。非常に緻でしく、だが記憶にある限り初めて見るものだ」

すると片眉を上げた父親は、ニィ、と歯を見せた。

「良い目をしてるじゃねーか。職人なら、アンタの目の前にいらぁ」

「なるほど、貴方が?」

「ああ」

するとイースティリア様は一歩前に踏み出すと、彼に顔を近づけて小さな聲で囁いた。

「バルザム帝國宰相、イースティリア・ウェグムンドという。貴方の腕前を見込んで、仕事を頼みたい。行商を終えた後、興味があれば連絡をいただきたいのだが」

「さっ……!?」

おそらく、予想外だったのだろう。

一気に顔を引き攣らせた父親に、イースティリア様はいつも通り無表に淡々と質問する。

「この技は、お住まいの地方の伝統的なものか?」

「……いえ。俺のオリジナルですよ」

どことなく警戒した様子で、父親がボソリと呟く。

もしかしたら、貴族に良い思い出がないのかもしれない。

けれどイースティリア様は、気にした様子もなく質問を続ける。

その間に、アレリラは従者に耳打ちして、この後に必要になるだろうを用意させる。

「であれば、ますます良い。この技は、素晴らしいものだ。高価な石に刻んだものであれば、より多くの人々を魅了するものになる。私に、その腕を預けていただけないだろうか?」

イースティリア様の言葉に、父親は腕を褒められて嬉しいのと、込みしているのがり混じった複雑な表で言い返す。

「……いきなり言われても、信用出來ねーんだよ」

「それはそうだ。であれば、私が本気であるという印に、幾つか貴方に利益を與えよう」

イースティリア様がこちらを見たので、アレリラは用意したものを手渡した。

容を確認した上で、どうやら全て揃っていたようで、彼はそのまま父親に渡す。

「ウェグムンドの印章と、帝國であればどこでも使える通行許可証だ。検問で通行稅を支払う必要はない」

「は……?」

「ついでに、旅費を用意した。詳細を詰めても良いと思えたら、帝都を訪ねてしい」

呆然とする父親を前に、品に目を落としたイースティリア様は、最後に言った。

「最後に、ここの品を全て買おう。これが全て売れれば、海を渡れるだけの船代にもなるだろう?」

最早言葉もない父親の代わりに、キラーン! と目を輝かせたが元気に聲を張り上げる。

「毎度ありー!!! お買い上げ、ありがとうございますー♪♪」

どうやら、見た目と違っての方が父親よりも肝が據わっているようだった。

イースティリア様の気が変わらないうちに、とでも思っているのか、大きな麻袋を手に取ると品を全部放り込み、こちらに手を差し出す。

「全部しめて、帝國金貨1枚分だよ!」

ーーーだいぶ足元を見ましたね。

帝國金貨一枚あれば、おそらく10人家族が5年遊んで暮らせるだろう。

アレリラがチラリとイースティリア様に目を向けると、彼は薄く微笑んで頷いた。

「帝國銀貨50」

「それは安くないです? 90!」

「技料込で、65」

「行商もタダじゃないんで。85!」

実際、妥當なところでは70程度だろう。

イースティリア様がどうするのか、と思ったところで、従者に向かって手を差し出すと、け取った金貨袋から2枚の金貨を取り出した。

「君の將來を見て、これだけ支払おう。父親が込みしないよう、私の元に會いに來てくれるか?」

「わーお! お任せあれですよ!」

は、歓聲を上げた後、グッと拳を握った。

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