《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1648話 コウエンが探し求めていた妖狐

ソフィ達が『妖魔山』の調査について『サカダイ』の町で妖魔退魔師達と最後の確認を行っていた頃、イダラマ達は一足先に『妖魔山』の『止區域』と定められている場所に辿り著くのであった。

妖魔山の中腹からはそこまで離れていない『止區域』だが、それでも『帝楽智』の一戦の後からは『妖魔』とそこまで遭遇をせぬまま、すんなりと『止區域』まで到著した。

どうやら山に居る中腹以降の『妖魔』達もイダラマと天狗の『帝楽智ていらくち』の一戦を観察していたようで、々と『妖魔』達も思うところはあるだろうが、手を出さずに見送ったようである。

當然にイダラマは『帝楽智』とのやり取りの時にも『結界』を施してはいたが、もうこの辺に居る『妖魔』達であれば、あれほどの戦闘があれば『結界』があっても容易に見が可能であったのだろう。

あの天狗の『帝楽智』がやられた以上は、挑んだところで旗が悪いと『止區域』までの妖魔達は考えたのだと思われる。

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つまり現在の『イダラマ』は、過去の『止區域』まで辿り著いた者達と遜のない力量を有したという事なのだろう。それはあっさりとここまで通した『妖魔』達からも見て取れるのだった。

「さて、ここまで難なく辿り著けた事は良き事ではあるが、そのおかげでまだ麒麟児は目を覚ましてはおらぬようだな……」

「イダラマ様、俺が無理やりにでも起こしましょうか?」

「いや、その必要はない。あれだけの戦闘の後だからな、この後の事を考えればしでも『魔力』を回復させておきたい」

「そうですか……」

イダラマに寢かせておけと言われてしまえばそれに従う他にない。仕方なくアコウはエヴィを背負ったまま、小さく溜息を吐くのだった。

「コウエン殿、私の知識ではここから先は全て『止區域』と定められている場所だと記憶しているが、貴方がたは更に奧まで進まれたのですかな?」

アコウの溜息を聴いた後にしだけ笑みを浮かべたイダラマだったが、直ぐに視線を隣に居るコウエンに向けながらそう尋ねるのだった。

「ああ……、確か前に來た時はここからもうし先まで進んだところだった筈じゃが、それでもここからは目と鼻の先じゃ。もう件の『妖狐』はいつ出て來るか分からぬ。気を抜かぬようにな」

「ふむ、コウエン殿。その『妖狐』とはアレの事ではないですかな?」

「何……?」

先程からずっと視線を前に向けたまま會話を続けるイダラマだったが、一度だけコウエンに視線を向けた後に直ぐ前方に指を差してそう告げるのだった。

――そしてイダラマの指が示す先、そこには人型を取ってはいるが、直ぐに『妖狐』だと分かる程の九つの大きな狐尾を持つ存在が、腕を組んでこちらを向いて立っていたのであった。

「あ、あやつで間違いない! いくら隠そうとしていてもワシには分かる! あの悍ましい程の膨大な『魔力』をワシが見紛う筈がない……!!」

コウエンは鼻息荒く興じりにそう告げると、震える手を必死に抑えるようにして指を組み始めて、大きく深呼吸をするのだった。

「別に隠そうと考えているわけではない。ある程度は抑えなければ山の形が変わってしまうから仕方なく抑えているにすぎぬ。お主はあの時に居た人間じゃな?」

「ほう? お主程の『妖狐』がワシなど、一介の人間の顔を覚えているとは思わなかったぞ」

コウエンは見た目からは判斷がしづらいが、怯えなのか武者震いなのか手が震えていた。一度意識してしまえば彼の聲が普段よりも大きいのには、何とか震え聲にならないようにと、必死に誤魔化そうとしているようにも聴こえてくるのだった。

「ふふっ、あの時に居た人間達の事は全員覚えているさ。まぁしばかり俺の想像していた顔と比べると、実は老いていたようだがな?」

「それは仕方あるまい……。あれから何十年経っておると思っているのだ」

「俺達の覚ではつい先日なのだがな。まぁそれはいい、お主らはここへ何をしに來た?」

「私の目的はこの『止區域』に居るであろう『妖魔神』の存在だ。出來れば主らに『神斗』達の居る場所へと案をして頂きたい」

その『妖狐』は笑みを浮かべたまま、イダラマの姿を見つめ続けるのだった。

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