《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1649話 妖狐とイダラマの対談

ここまでの道中も靜かな『妖魔山』ではあったが、この山の頂に近い『止區域』では、目の前に居る『妖狐』とイダラマ以外に誰も存在しないのではないかという程に更に靜かだった。

実際にこの『止區域』と定められた場所には、限られた妖魔しかいないせいかもしれない。靜寂に包まれた山の頂に近い場所、霧のような雲が空を流れていくのが見える。

「何が目的なのか、聞いてもいいかな?」

そんな場所だから余計にだろうか、普通に喋っているだけの妖狐の聲だが、その尋ねる妖狐の聲が『イダラマ』達の耳にいつまでも殘るように聴こえるのだった。

「この『妖魔山』には我々人間とは違い、數多くの種族の『妖魔』達が暮らしている。たった一度、この山を登ってきた私の前にも『狗神』に『鬼人』、それに『天狗』と數はそれなりだが、複數の種族をここまで目にしてきた」

「……」

靜かに語り出したイダラマの言葉に、質問を投げかけた『妖狐』は耳を傾ける。

「そんな妖魔達の間でも我々人間と同じように『沽券』に拘わったり、種族間の中でもイザコザは殘されているのだと耳にしてきた。だが、それでもこうして麓からここまで登って自分の目で確かめてきたが、秩序のれなどはじられない。あるべき姿をありのまま整然と山全の調和が見事に取れている」

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「……」

九尾の妖狐はイダラマの言葉に口を挾むでもなく、そのしい數ある尾をふよふよとかしながら、人間のじている『妖魔山』への想を興味深そうに聴いていた。

「我々人間よりも長く生きる事の出來る種族達が多い中、數多の種族がたった一箇所で日々の生活を続けているというのに、これだけの規律が保たれて整然としている理由。やはりそれは管理者の手腕であると私は思っている。神たる存在が我々同様に『妖魔』達にも居るからこそ、その存在によってこれだけの調和が取れているのだとしたら、私は是非その神である『妖魔神』と會って直接話がしたいのだ。恐怖というを以て『支配』を行ってみせたのか、はたまた山に生きる全ての種族に対して『共存』や『共栄』というを芽吹かせて、共依存を構築させたのか。いずれにせよ、これだけの長い年月秩序を保てた『妖魔神』を一目見たい、じてみたいというのが『目的』だよ、妖狐」

「……」

「……」

イダラマの言葉に噓や偽りはなく、まさにこれだけ多く居る『妖魔』達の生息する『妖魔山』において、これまで『支配』を行い続けてこられた理由、それを実際に行ってみせてきた『妖魔神』に會って確かめたいというのが彼の本音ではあった。

そしてその言葉を聴いた九尾の妖狐は、ゆっくりと口を開いた。

「どうやらお前は他の人間達とは、掛け離れた思想を抱いてこの場所に赴いたようだ」

九尾の妖狐はしの間、何かを考えるように目を閉じる。

「よし、いいだろう。お前が會いたい者に會わせてやる」

九尾の妖狐が軽く手をあげると、この場に彼と同じ白髪の人型の妖狐が現れた。

「お呼びですか、王琳おうりん様」

その現れた七つの尾を持った白髪の妖狐は、九尾の狐を『王琳おうりん』と呼んだ。

「七耶咫なやた、そこに居る人間を『神斗』様達の居る場所へ案してやれ」

九尾の妖狐に『七耶咫なやた』と呼ばれた、七つの尾を持つ白髪の妖狐は、その命令に直ぐに頷いて見せた。

「分かりました。それで王琳様はどうなさるのですか?」

七耶咫は恭しく一禮を行った後、顔を上げて他の人間達を見ながら主に尋ねる。

王琳と呼ばれた九尾の妖狐はニヤリと笑うと、コウエンの方を見ながら口を開いた。

「どうやらそこの人間は神斗こうと様達ではなく、俺に用があるみたいだからな。用件を聞き終えたら後を追う」

意。それではそこの人間、ついて來なさい」

「この眠っている子と、私の護衛の者達も連れて行ってもよいのだろうか?」

イダラマはアコウが背負っている『エヴィ』と、そのアコウ達を見ながらそう言うと、王琳は何も言わずに頷いた。

「ふふっ、恩に著るぞ? 王琳おうりんとやら」

イダラマは七耶咫の元へ向かいながら、その王琳の橫を通る時に謝の言葉を口にするのだった。

王琳は頷かずに視線だけをイダラマに向けて微笑んだ。

そしてそのまま『イダラマ』達は『七耶咫なやた』と共にこの場から去って行き、この場には『コウエン』とその同志達が殘されるのだった。

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