《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1651話 止區域に居る者達の

「それにしても、驚いたな……」

妖魔山の『止區域』を七・尾・の・妖・狐・の案に従いながら、その背後をゆっくりと歩いていたイダラマは、ぽつりと言葉をらした。

「ええ、しかし本當に我々は『妖魔神』とかいう奴らの元に案をされているのでしょうか? 案すると見せかけて全く違う場所に導されているのではないでしょうか……」

「有り得ますよ、イダラマ様。俺達を信用させておいて、誰も見ていない場所で殺そうという腹積もりなのかもしれません……」

イダラマの呟きを隣で聴いていた『アコウ』と『ウガマ』は、目の前を歩く妖狐に聞こえぬように小聲でイダラマにそう告げてくるのだった。

「いや、それは問題ないだろう。目の前の妖狐は、あのコウエン殿の宿敵であった九尾の妖狐に命令されていている。あの九尾の妖狐はそのようなつまらぬ事を配下にさせぬであろうし、この目の前の妖狐もそんな事をしでかす素振りはない。私が驚いたというのはそう言う事ではなくてな、この『止區域』にってから、これまでじていた視線が全くじなくなった事だ」

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「そ、そうなのですか……?」

「すみません、イダラマ様。我々ではここに來るまでも全く視線に気づかなかったもので……」

元予備群である『アコウ』と『ウガマ』のその発言を聴いた後、他の護衛達にも視線を向けたが、皆一様に頭を下げてくる。どうやら他の護衛の『退魔士』達も全く気付いていなかったようであった。

(そういえばこれまでも視線に気づいていたのは、麒麟児にコウエン殿、それに同志の『妖魔召士』達だけだったか。確かにもうこのレベルの視線に気づける者が限られるのは當然の事だな……)

これまで當たり前のように『止區域』から視線を向けられた事を麒麟児や、コウエン達と話し合っていたイダラマだが、本來妖魔召士である『イダラマ』が、これ程までの『結界』を張った上で、外部からその『結界』を無視するように視線を向けられる事や、その視線に気づく事は普通では有り得ないと斷言が出來る程の事なのである。

この場では『エヴィ』は意識を失ったままであるし、これまで共に居たコウエンやその『同志』達の姿もない。イダラマがこれまでじていた視線を共有している者が居ないのだから、その話を彼らにしても理解されないのは仕方のない事であった。

「いや、気にしないでくれ。全く謝られる事ではない……、むっ?」

イダラマが護衛達に頭を上げるように告げていると、そこで前を歩いていた妖狐が立ち止まってこちらを見ている事に気づくのだった。

「他の方々に視線を向けられなくなったのは、お主達が『王琳』様の客となったからだ」

「それはどういう事なのだろうか?」

中途半端にイダラマ達に説明を行った事を悔いているのか、七つの尾を持つその妖狐はこれ見よがしに溜息を吐くのだった。

「お主達人間がこの山の事をどこまで把握しているのか分からぬ。だから端的に説明するに留まるが、お主らが『止區域』と呼んでいるこの場所に居る者達は、神斗様や悟獄丸様のような方々から直接呼ばれでもしない限りは、それぞれが互いに干渉しないように行を取るのが基本なのだ」

「つまり今の我々が視線を向けられなくなったのは、貴方達『妖狐』に道案をされているからなのか?」

「この場所に來るまで主らにここの住人から視線を向けられていて、今はもうその視線をじなくなったというのであればそういう認識で間違いないだろう。そやつらがお主らにどういうつもりで視線を向けていたのかまでは知らないが、王琳おうりん様の命をけて私が案している時に、お主らに敵意を向けるような真似をすれば、我々『妖狐』に対して敵対行為を取っている事と変わらないから、無視をしているというわけだ」

程……。それはつまり先程の『妖狐』が、ここに居る者達でも逆らう事が出來ない程の『特別な存在』だからなのだろうか?」

「ふっ、どうやらお主ら人間は、想像以上にここの事を知らぬようだな」

これまで不機嫌そうに説明をしていた目の前の『妖狐』は、今のイダラマの言葉を聴いて嘲笑すると、そう口にするのだった。

「悪いな、私は今回初めてこの『妖魔山』にったのでな。他人から伝え聞いた事以外、お主らの事などを含めて何も知らぬのだ」

「主は何も知らぬ癖に神斗こうと様や、悟獄丸ごごくまる様に會いたいと王琳様に申したのか?」

「ああ、その通りだ。一筋縄ではいかぬような『妖魔』達を従える『妖魔神』に會って、その存在を確かめたかったのでな」

「怖いもの知らずの人間だな。まぁいい、私が案している間はこれまでのような視線を向けられる事も襲われる事もない。安心してついて來るがよいぞ」

七尾の妖狐はイダラマにそう告げると、先程までより幾分からかい表になって笑みを見せた後、再び歩き始めるのだった。

「最後の笑みは何だったんでしょうね……」

「さあな……。だが、どうやらあの妖狐の言う通り、神斗達に會うまでは襲われる心配もなさそうだ」

「そう、ですね……」

イダラマが『妖魔神』である神斗の名を出すと、アコウはしだけ怯む様子を見せて頷くのだった。だが、彼がそんな様子を見せるのも無理はない。

『神斗』とはこの世界に『妖魔』が出現を始めた頃から、すでにこの『妖魔山』の主として君臨していた『妖魔』なのである。

『妖魔神』と呼ばれる『妖魔』達の神々のような存在と、一介の人間に過ぎない自分達が直接會いに行こうとしているのだから気後れしてしまうのも仕方がない事であった。

「さて、それではついて行くとしよう」

不安そうな視線を向けてくるアコウの肩に手を置くと、何も心配する必要はないとばかりに笑みを見せて『妖狐』の後を再び歩き始めるイダラマであった。

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