「人間共、著いたぞ。この先が『神斗こうと』様と『悟獄丸ごごくまる』様の神域となる。決して失禮のないようにしろ」

「あ、ああ……」

七つの尾を持つ妖狐の案で連れられてきた場所は、九尾の妖狐が居た『止區域』のり口からそう遠くはない場所にあったが、目の前に立っている一際大きな木を境に、何やら明らかにこちら側と流れる空気が違うのをイダラマはじ取るのだった。

更に次の瞬間、イダラマがその木の向こう側に続いている道を凝らして見てみると、何やら眩暈のような覚を覚え始める。

すると二、三回、トンッ、トンッと頭の中で何か自分の頭が揺れたようなというべきか、脳が的にき始めたような奇妙な覚をけたと同時、何処か懐かしさというのだろうか、來た事もない場所だというのに、ここが期の頃にけた覚、まさにノスタルジーな気持ちが衝的にイダラマのに襲い掛かるのだった。

（な、何だ？　今、一瞬ふらふらと眩暈がしたかと思うと、耳の後ろ辺りに痺れをじて、何処か意識が遠のくような、気が遠くなるような覚があった。それに、それでいて同時に何やら懐かしさをじた……）

何か攻撃をけたのかとばかりにイダラマは、自分の後ろに居る仲間達を振り返る。

しかし背後に居る『エヴィ』を擔いだままの『アコウ』に『ウガマ』、それに護衛の退魔士達は何もじ取れてはいないようで、急に立ち止まって自分達を見始めたイダラマを見て不思議そうに首を傾げたりしていた。

イダラマが突然に頭を押さえながら何やらブツブツと獨り言を言い始めた為に、アコウやウガマ達はここに來た事で何かあったのではないかと心配になるのだった。

「ど、どうかしたんですか、イダラマ様？」

「いや……。何でもない、気のせいだろう」

「「？」」

やはりここに來てから今までと何かが違うというのをじ取る『アコウ』と『ウガマ』だったが、その理由が何か分からず、本人に何でもないと言われた以上、それ以上どうしようもなくなるのであった。

「どうした？　何やら気分が優れない様子なのは見て取れるが……」

「いや、失禮した。案を続けてくれ……」

「分かった……。では、行くぞ」

七尾の妖狐は訝しむようにイダラマを見ていたが、やがて前を向いて木の向こう側へと足を踏みれていくのであった。

…………

先程通った大きな木を越えた辺りから、全く違う空気が流れているようにじる。山の上という事もあって、ひんやりとした空気が流れているのだが、それとは別にまるで異界の空気というべきか、普通の山の頂き付近を登っていてじるようなモノではなく、まるで全を刺すような厳かな空気がイダラマ達を襲っているのであった。

目の前を歩いていた七尾の妖狐が立ち止まる。どうやら目的地についたのかとイダラマは前方に目を凝らして見るが、その先には霧が立ち込めていてよく見えなかった。しかしそこに誰も居る様子はなく、イダラマは改めて妖狐に『神斗』達の居る場所に辿り著いたのかと尋ねようと口を開きかけた。

――その時であった。

「ここに生の人間が姿を見せるのは何年ぶりだろうな」

「ふっ、紛い者ならばよく見かけるがな」

誰も居ないと思っていた場所から唐突に、會話を行う二人の聲がイダラマ達に聴こえてくるのであった。

「い、イダラマ様！　下がってください！！」

危険をじた『アコウ』と『ウガマ』がイダラマを下がらせると、護衛の退魔士達も『魔力』を伴いながら戦闘態勢にるのだった。

「靜まれ人間共、妖魔神様達の前だぞ！」

七尾の妖狐は怒鳴るわけでもなく、小さくアコウ達に向けて注意を促すと、たったそれだけで護衛達が纏わせていた『魔力』、それにアコウやウガマの『青』が雲散していき、強制的に掻き消されてしまった。

七尾の妖狐に何をされたのか理解が出來ず、アコウ達が驚きの表を見せていると、再び厳かな聲が聴こえてきた。

「ふふっ、別に取って食おうというわけじゃない。楽にしていいよ」

「ガハハハッ、俺は別に荒々しいのも嫌いじゃないがな？」

やがて七尾の妖狐に『妖魔神』と呼ばれていた『妖魔』が二、イダラマ達の前にその姿を見せるのであった。