「……」

イダラマは目の前の二の『妖魔神』の様子を窺う。

彼がやろうとしていた事は計畫通りに行う事が出來たと思うが、対象が単なる妖魔ではなく『妖魔神』であるために、安易に気を抜く事が出來ない。

それでも既に天狗を束ねた『天魔てんま』である『帝楽智ていらくち』を『』で『契約』を行えたという前例がある為、半ば確信に近い面持ちで視線を送るイダラマであった。

驚いた表を浮かべていた『神斗』だが、真顔になったかと思うと同時に手を前に突き出した。その行為は頭上高くに用意した高度の『魔力』で出來た球の『魔力波』をイダラマに放とうとしたからだろう。

――だが、やはり『神斗こうと』の意志に反するように『魔力波』を放つ事が出來なかった。

そこでようやく『神斗』は確信を持った様子である。

「私が君を攻撃しようとすると、行に制限が掛けられてしまうようだけど、これが君の用意した次の一手の正だという事なのかな？」

どうやら『妖魔召士』と『式』の契約をわしたことがないであろう『神斗』は、帝楽智とは違って『契約』された妖魔の覚というものが分からず、イダラマに対して攻撃を行えないのは『妖魔召士』のと気付かずに、イダラマの新が影響しているのだと判斷したようである。

「いや、厳には違う。だが私に対して攻撃を行えなくなるという意味では、正しくその通りだよ『神斗』。実際は私とお主が『式』としての契約を果たさせるなのだが、どうやら『妖魔神』であっても『妖魔』である以上は、私の『』はしっかりと立させられたようだ」

「では、君が私の『魔力』を扱えるようになったのは、先程の君が出した分が私の攻撃の影響をけた事が要因なのかい？」

「ああ、その通りだ。私の『鏡魔姿移きょうましい』で作り出した分に相手の『妖魔』が扱う『魔力』の攻撃をけたと同時に本の私の魔力回路にそっくりそのまま『魔力供給』として行われる。奪った『魔力』を我がとして魔力値の上限に活かしたり、度まではコントロールする事は出來まいが、相手が用いた『魔力』の種類そのものは報として伝達される」

どうやらイダラマの編み出したの『鏡魔姿移きょうましい』とは、質量と耐魔力を有するだけではなく、分がけた『妖魔』の『魔力』を伴った攻撃に際して、本の魔力回路へとその『魔力』を転送するといった代のようである。

（※つまり『鏡魔姿移きょうましい』で生み出された分が、者の魔力回路そのモノの役割と考えられて、分が攻撃をけた場合にその分がけた攻撃の『魔力』が、そのままイダラマの『魔力回路』にるという事である）。

（※２　但し、イダラマの魔力回路にった妖魔の魔力をそっくりそのまま扱えるというわけではなく、あくまで魔力の種類が分かるだけであり、実際にった魔力回路にある魔力は、イダラマの魔力というわけである為、魔力値が増幅されるという事でもない）。

「ふふっ、程ね……。じゃあ君を攻撃しようとすると手が止まるのは、君が『妖魔召士』として『妖魔』である私と契約を果たした事による弊害というわけか。君と契約をわしたつもりはないのだけど、今は君と契約狀態にあるという事は間違いなさそうだ」

「……」

ここでイダラマは、怪訝そうに眉を寄せて『神斗』を見る。

（私と『式』の契約狀態に陥ったというのに、この『神斗』に今のところ全く恐れや焦りといった様子は見られない。何故こんなに普段通りの余裕を見せていられるのだ？　これまでに人間と契約を果たした事がないから置かれている狀況というのが、理解出來ていないのだろうか？）

同様のを『帝楽智』に施した時に見られた強張った表や、焦る様子をじさせる言を『神斗』は未だにみせない。ただ単に、淡々とこうなった狀況をイダラマに逐一確認するだけであった。

「えらく余裕を見せているが、本當に狀況を理解しているのか？　我々妖魔召士と正式に契約をわされた以上は、お主といえども私に攻撃はおろか、私が行う命令に逆らう事など一切出來ず、従わざるを得なくなるのだぞ？」

イダラマのその言葉に『神斗こうと』は薄く笑みを浮かべると、隣に居る『悟獄丸ごごくまる』と視線をらわせ始める。

そして二の『妖魔神』は堪えきれないとばかりに、聲を出して笑い始めるのだった。

「……何がおかしい？　ここまで説明されてもまだ、理解が出來ていないというのか？」

イダラマが『神斗』に置かれている狀況を理解させようと説明を行ったというのに、その瞬間に笑われては流石に彼も気分が悪かったようで、険のある言い方でそう言葉を続けるのであった。

「いやいや、大丈夫さ。十分に君自の『』と、妖魔召士という人間達が行う契約の『』が及ぼす影響は、正しく理解したよ」

「では何故、主はそんなにも余裕を見せていられるというのだ？」

神斗に本音を聞き出そうとイダラマがそう尋ねると同時、神斗は蠱的こわくてきな笑みを浮かべた。

「確かに君達『妖魔召士』と呼ばれる人間達が、千年足らずのに我々『妖魔』を従えさせるようなを生み出し、それを他でもない『妖魔神』である私達に対しても、僅かとはいえ効力を及ぼせたのには素直に心するし、稱賛に値する事だとは思うよ」

――次の瞬間、まるで雰囲気や流れが一変するのを表すかの如く、空気が変わるのだった。

「だが、それでも君のその『』では、まだ我々『妖魔神』を従えるには、しばかり足りない要素が多いようだね」

そう言って再びにこりと笑みを浮かべたかと思うと、神斗は想像を絶する程の『魔力』を周囲に纏わせる。

「なっ……！？」

するとそのまま『イダラマ』が右手に持つ『契約紙帳けいやくしちょう』の一部が燃え始めて、その契約主たるイダラマは、神斗との『式』契約が解除される覚を味わう事になるのであった。