（この世界に生きる『妖魔』たち全てを束ねる『妖魔神』が、こ、この私の研鑽を……、この私がしてきた努力を認めてくれたというのかっ……！）

衝的にせり上がってくるを噛みしめながら、イダラマは聲にならない程のを自らの中で呟いた。

このイダラマの抱くを他者に言っても上手く伝わらないだろうが、今イダラマは長らく獨りで苦しんで、誰にも吐けなかった弱音を何とか自力で克服しようと立てた、目標の一部がし遂げられた瞬間だったのだ。

それはイダラマ自が本來立てた目標ではなく、あくまで妥協の末に掲げた自分だけの些末なモノに過ぎない。

過去に起きた『妖魔団の』のような、この山から徒黨を組んだ『妖魔』達から戦う事の出來ない人間を救ったわけでもない。

自分より優れた存在から認められるような言葉を投げられただけに過ぎず、英雄のように多くの『他者』から評価を得たわけでもなく、自分が定めた目標を単に自分の中で勝手に曲解して充足したに過ぎない。

――謂わばそれは、他者に何も影響を及ぼさない盛大な『自己満足』である。

だが、それでも他者と相容れず、半生を獨りで過ごして自だけを信じてこれまで誰にも認められないような生き様を貫いてきたイダラマが、今ハッキリと誰もが存在を知るような『大』から認められる言葉を、こうして直接目の前で賜ったのだ。

諦観の末に抱いた目標。それは単なる妥協に過ぎなかったモノ。しかし間違いなく、彼が毎日を生きる為の『念』の要であったモノである。

（ああっ……！　何と気分が高揚する事か！！　この先無駄に老いて死ぬだけだった筈の私の人生には、これ程の意味があったのだ！　い、いやこの瞬間に、間違いなくこの瞬間に意味が生まれたのだ！　この『止區域』にすら立つ事が許される者すら數なく、しかしてその『止區域』に居る全ての『妖魔』を束ねる神々の『妖魔神』から、わ、私の研鑽や、努力の行いが確かに認められたのだ！　このような事は『ゲンロク』や『コウエン』殿どころか、あの『サイヨウ』様や『シギン』様でさえ、経験した事はないだろう！　この私は今この場で妖魔達の『神』たる存在に認められたのだ！）

イダラマは目を走らせながら、高揚させる自讃の言葉で『イダラマ』という『自分』を高め続けていった。

――そしてそれはイダラマの中で、新たなを生み落としていく。

（妖魔達の『神』が認める程の私の『力』。その源の正は『過技法』。これを突きとめていく事で私は更なる高みへ至る事だろう！）

イダラマの野を葉える為、その一役も二役も擔うに至った『過』の技法。そのイダラマの研究の末に至った彼の『過』の集大こそが『魔利薄過まりはくか』である。

『過とうか』を攻撃に使うのではなく、防に使う。それは本來の生み出された『過』の目的とは掛け離れた使い方であり、この世界の人間達の中では『イダラマ』以外には研究を行った者は居ない。

そもそもこの過の技法自が、この世界の『魔』専門家と呼べる『妖魔召士』達にさえ、そう多くは浸してはいなかったのだから、その過技法についての研究人口すらもなく、過を『防』にと考えて研究に目を向けて、実際に行を起こし目指し得る者はいなかったのだろう。

つまりは『過』技法の新たな防衛を擔う研究を努めた者としては、彼こそがこの世界では間違いなく第一人者であり、権威の象徴たる存在と呼んでも差し支えない。

「その短い歴史の中、模範となる存在も居ない中で素晴らしくも『過』の一つの到達點を迎えて見せた『人間』である君に、我々長い歴史を持つ『妖魔』達が辿り著いた『過』の到達點を見せてあげる」

「え――？」

イダラマは自分を認めてくれた『妖魔神』が、更に自分に向けて言い放った言葉を、耳で聴いて頭で理解した事で、高揚していた気分がしずつ雲散していくのをじていたが、やがては目の前で『神斗』が纏う禍々しい紫の『魔力』が膨れ上がる様に、彼は目を奪われてしまうのだった。