このまま生のままでは不味いとじたのだろう。イダラマは浮かれていた気分を完全に消し去ると、再び自の『魔力』を用いて自らの研究の末に辿り著いた『過』技法に全力を注ぐ。

――『魔利薄過まりはくか』。

存在そのものが世界から隔離されていく覚、まさに『魔法』と見紛う程の度と技法の練度の結集。それは他者から見ても気薄になるような違和をじさせる。

『過』技法そのモノを知らないこの世界の『魔』の探求者達であれば、このイダラマが行っている事を何一つ理解が出來ていないだろう。

――否、この『ノックス』の世界だけではなく、ソフィ達の居る『アレルバレル』の世界や、シス達の『リラリオ』の世界でさえ、この今のイダラマが行っている『過』技法の境地を真に理解出來ている者は數ないだろう。

それはつまり『理ことわり』の在る世界にして『魔法』が存在する世界でさえ、その『理』自が存在しない『ノックス』の世界に居る『人間』が、指標もなしに獨學で辿り著いた『過』の領域を理解出來ていない事と同義なのである。

これが如何に信じられない事なのか――。

謂わば、存在する一つの『概念』をイダラマという人間が、強引に捻じ曲げる事象を行っているのである。

『理ことわり』のある世界であれば、これは『時魔法タイム・マジック』と呼ばれる領域の『魔法』に匹敵するといえる。

それだけの『魔』の可能を示した人間のイダラマにを相手に、妖魔神である『神斗』と『悟獄丸』が興味を示した事は何もおかしい事はない。

そして『神斗』は目の前で唐突に稀薄さを増していく『イダラマ』に、先程の自の放った『魔力波』が完全に回避された時の覚を思い出すのだった。

「それが君の『過』の研究果の末に編み出した技法の正か。なるほど、そこに『魔力』の度と、技法の練度の完度自は窺えるが、こちらを害そうとする本來の『過』の覚は伝わってこない。つまりは攻撃に関しては無害に等しく、また防に関しては絶大なる効果を発揮するタイプという事だね」

神斗はイダラマの『魔利薄過まりはくか』の効力が発揮された後、じっくりと考察を続けている。そのし離れた場所で『悟獄丸』もまた、顎に手をあてながらイダラマの『魔利薄過まりはくか』をじっと眺めていた。

…………

（あの人間の防に使った『過』技法の完度は、俺達『妖魔』でさえ中々見る事が出來ない領域にある。もしもの話ではあるが、俺達が同様に『過』技法に著手していなければ、この人間に手出しする事は相當に難しく骨が折れる話だっただろうな）

神斗と同じ『妖魔神』である『悟獄丸』は、改めて今のイダラマの『魔』の居る領域を理解すると、深く心するのだった。

（だが惜・し・む・ら・く・は・、俺・達・が・相・手・だ・っ・た・という事だ）

悟獄丸は中でそう呟くと、紫の『魔力』を更に増大させている『神斗』に視線を向けるのだった。

イダラマの防に全振りをするような『過』までは、流石にこれまで『悟獄丸』達でさえ見た事がなかったが、それでも長い壽命の中で『過』技法そのモノに関しては、一通りの研鑽を終えている。

いくらイダラマの『過』技法が『防』に関して抜きん出ているとはいっても、本來の『過』技法そのモノに関しては『神斗』や『悟獄丸』の方に一日の長があった。

…………

「君の『過』技法が優れている事は十分に理解した。だから私も本気で君の技を上回れるように努力するよ」

神斗がそう告げると同時、先程と同じ規模の紫の『魔力』が込められた『魔力波』が、神斗から放たれるのだった。

「殘念だが、今の私は全ての攻撃に対する防手段を取っている。いくら目を背けたくなる『魔力』が込められた攻撃であろうとも、私には通用しないぞ！」

イダラマが聲高らかにそう宣言すると、神斗の攻撃に対して一切気を抜かずに『魔利薄過』を用いて、完全回避狀態を維持するのだった。