《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1670話 大魔王エヴィVS妖魔神の神斗

「あの爺さんは居ない……か、仕方ないな」

神斗の周囲の空気が切り替わったのを如実にじ取ったエヴィは直ぐにコ・ウ・エ・ン・を探したのだが、どうやら自分が意識を失っている間に居なくなったのだと理解すると、直ぐに視線をアコウ達に向けた。

エヴィ達とのやり取りを戦々恐々と見守っていたアコウやウガマ達だったが、そんなエヴィに視線を向けられた事でアコウ達も視線を合わせる。

「おーい! 君達、悪いけどこのイダラマを運んで離れていてくれないかい?」

ここが『妖魔神』の居る山の頂上とは思えぬような、まるでいつも通りといわんばかりにエヴィは大聲でアコウ達にそう聲を掛けたのだった。

しかしアコウ達がエヴィに返事をする前に、背後に居たイダラマが慌てて聲を出した。

「ま、待て、どういうつもりだ。麒麟児……っ」

「理由はさっきも言ったと思うけど、君がまだこの山で目的を殘していたのだとしても、もう今の君はそれをし遂げられる狀態じゃない。まだ今の発している『過』自に何も影響が現れていないみたいだから、君に自覚がないんだろうけど、もう君は直ぐに『魔力切れ』、いや『魔力枯渇』を行う寸前だ。意識を失って僕達に迷をかけるつもりがないのならば、このまま僕の言う通りにするんだ」

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「……」

「……」

エヴィの言葉に辛そうな表を浮かべたイダラマだが、もう反論する言葉を続けずに代わりに小さく溜息を吐くのだった。

「分かったよ、麒麟児。私にはもうやれる事は殘されていないようだしな……」

冷気が満ちている山の頂、イダラマは靜かに上空を見上げながらエヴィにそう告げるのだった。

エヴィはここに來るまで気を失っていた為、ここで起きた出來事の大半を理解していない。しかしここに來る前までと來た後では、まるでイダラマが別人のようにじられた。

「イダラマ……――」

「いい加減にしてくれないかな? 何を勝手に話を進めているのか知らないけど、もう君達を無事に帰すつもりはなくなった。ここで全員始末してあげるよ」

寂しそうな目をして絞り出すようにそう言ったイダラマに何かをじ取った様子のエヴィは、言うつもりがなかった言葉を口にしようとして聲を掛けようとしたが、今度はそんなエヴィの言葉が神斗によって遮られるのだった。

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神斗の『魔力』の高まりをじ取り、仕方なくエヴィはイダラマから視線を神斗に向け直した。どうやら今の『二の併用』を纏っている神斗は、流石のエヴィであっても目を逸らしていい相手とは思えなくなったようである。

(今のイダラマに『過』を使わせ続けたら直ぐに魔力切れになる。出來ればコウエンの爺さんくらいに使える奴が居てくれたらよかったんだけど……。前の奴だけじゃなく、後ろの二も侮れない『魔力』をしているし、イダラマを連れて逃げるのは、こいつらの『過』次第かな)

この世界には『理ことわり』や『魔法』という概念がないという事はエヴィも理解出來ているが、それでも自分の能力を突破できる方法は殘されている。

――それこそが『過とうか』である。

単に『魔力』が高いだけの奴や、殺傷能力の高い攻撃を持っているだけの奴であれば、大魔王エヴィを殺す事は不可能といえるのだが、その『魔』という概念はそこまで単純ではなく、目の前に居る『妖魔神』の『神斗』や、後ろでこちらの様子を窺っている二の妖魔の『過』がエヴィの考えている以上の領域に至っているならば、あっさりとその前提を覆してエヴィの能力を貫通出來るだろう。

「まぁ、確かめてみる方が先かな」

エヴィがそう靜かに呟くと同時、こちらに殺気を放っていた『神斗』が右手をエヴィに向ける。

その瞬間にエヴィの目が『金』に輝くと、地面から七の人形が湧いて出て來るのだった。

「君も面白いを持っているようだけど、耐えられるかな?」

神斗がそう告げた瞬間、紫をした膨大な『魔力』が込められた『魔力波』が一気にエヴィに向かってくる。

それを見たエヴィもまた『二の併用』を用いると、で出した人形達の數を自分の前へ出す。どうやら盾代わりに使おうというのだろう。

そして殘っている數は、背後のイダラマのを擔ぎ上げ始めるのだった。

「むっ! なっ……!?」

突然、自分のが宙に浮いた覚を覚えたイダラマが聲を上げると、そのイダラマのを持ち上げた人形達は、恐ろしい速度でアコウ達の方へと走り出していくのだった。

エヴィはイダラマが自分が出した人形達で運ばれていくところを見ていたが、直ぐに視線を前へと向き直す。

「余所見をしていていいのかな? そんな人形達で防げる程、私の攻撃は甘くはないよ?」

『青』と『金』の二が纏われた神斗が放った『魔力波』は、一瞬で盾代わりに出した人形達の元まで辿り著くと、そのまま人形達を呑み込んでいく。

「そんなモノで防げるかな?」

神斗は人形がどういった特を持っているかまでは分からないが、間違っても自分の『魔力』を上回る『耐魔力』を有している筈がないとばかりに勝ち誇った顔でそう告げるのだった。

はぜろ」

そして人形達が『魔力波』に呑み込まれる寸前に、エヴィが命令を下して一瞬のに數の人形は大発をその場で起こすと、砂塵が舞い上がって一時的にエヴィ達の居る場所の視界が閉ざされる。

仕方なく『神斗』は『魔力知』を用いて『エヴィ』の居場所を探ろうとするが、エヴィと呼ばれていた存在の『魔力』が、その発の生じた起點範囲からしもじられなかった。

(まさか、逃げたというのか?)

あれだけ戦闘を行う意を見せておきながら、発に生じて逃げの一手を選んだのかと神斗は、半ば呆れそうになりながら『結界』近くの木々の周囲を見渡すが、その場所付近に居た『七耶咫』や『悟獄丸』は健在であり、今度はイダラマという『妖魔召士』と共に現れた護衛連中の存在を確かめる。

(仲間達は全員居るようだが、あの青髪の年の『魔力』がじられない。仲間を見捨てて自分達だけで山から飛び降りたか?)

神斗の思考がそこまで辿り著いた時、彼の背後から突然『魔力』の奔流をじ取る。

――神域魔法、『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』。

『魔力』をじ取った神斗は後ろを確認すらせず、そのまま右手を後ろに回して『魔力波』を放つ。

『魔法』と『魔力波』がぶつかって、その場で発が起きる。

それは先程の人形達による自とは比較にならない程の大発だった。再び砂塵に包まれて視界が閉ざされるが、今度はもう『神斗』は『エヴィ』を見失わなかった。

エヴィという魔族も『魔』に関しての水準は非常に高く、當然『魔力コントロール』も長けているが、それでも『レパート』の世界にあるような完全に『魔力』を消すような『隠幕ハイド・カーテン』の『魔法』程とまではいかない。

今度は警戒心を強めている『妖魔神』の『魔力知』からは、逃れられなかったようだ。しかしそれでもエヴィは臆することなく、そのまま互いの姿が見辛い視界の中で戦闘を継続させる。

右手に『紅』を纏わせると刃を作り上げて、そのまま神斗の居る位置を探るように突き出す。まるで槍を突き刺すかの如く繰り出すエヴィの刃は、相手に刺さればそのまま致命傷を與えるようなモノであった。

だが、エヴィに手応えはなく、どうやらその創現された『紅』の槍は不発に終わったようだった。仕方なくエヴィは自分の前に『神斗』が居ないという新たな報を利用して踵を返し、左右背後と再び砂で人形を生み出して死角を失くすようにすると、砂塵が晴れるのを待つのだった。

やがて鮮明とまではいかないが、ようやく場の様子が視力で探れる程に視界が開くと、ここよりかなり離れた遠くの方に『神斗』の姿を確認する。そして再びエヴィに向けて『魔力波』が放たれるのが見えた。

(うーん、どうしようかな。再び人形共を盾代わりにしてもいいけど、それだと同じ事の繰り返しになるな。どうやらアイツは僕が接近したがっている事をよく理解しているようだ。まだみせてないと思うんだけど、僕が『呪・法・使・い・』だってバレてるのかな?)

彼は平然としているが、この迫ってくる『魔力波』がまともに被弾すれば、當代の『最上位妖魔召士』の『耐魔力』でも跡形もなく消し飛ぶ程の度をしている。そんな『魔力波』が迫りくる最中にエヴィは冷靜に思案を続けているのであった。

どうやら威力の規模に関係がなく、こういった命のやり取りには相當に慣れているのだろう。

――當たれば致命傷を負うが行は続けられる。

――當たればそのまま死ぬ。

どうやらエヴィは戦闘時に際し、自分自が被弾する攻撃に対してはこの二択で事を考えているらしく、他者の考える『避ける』や『防する』といった選択肢で考えず、その先にある『反撃』に重きをおいており、如何に効果的に反撃を行えるかで、判斷していているようだった。

そしてその効果的な一撃をれる為には、神斗に接近して彼の能力である『呪法』を撃ちこむ必要があるとエヴィは考える。

このまま遠距離から『極大魔法』などを放っていても、あの自分を遙かに上回る膨大な『耐魔力』を有する『妖魔神』とやらには僅かなダメージすら與えられないからである。

大魔王エヴィはこの僅かな瞬間において、いくつもの選択肢を考えながら取捨選択を行うのだった。

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