《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1672話 大魔王エヴィの見えない反撃

神斗の居る場所はエヴィの居る山の頂から遠く離れた空の上である。

遠くからの攻撃は、エヴィが『魔』に攜わる者と考えての警戒心から行った一撃ではあったが、目的はそれだけに留まらずにエヴィの姿を曝け出す事にあったのだ。

だが、回避を行われると思っていた『魔力波』の一撃は、飛び出してきた人影にそのまま直弾して々に砕け散っていた。

「まさか、読み違えたか……?」

『魔力波』によって々になったのはエヴィの片ではなく、砂へと変貌を遂げる前の人形の一部だったのだが、遠目からでは視界を防ぐ煙も相まって、エヴィに直撃したのだと神斗には見えたようだ。

しかし実際にはエヴィは『魔力コントロール』を用いて、自が行える最小限にまで『戦力値』と『魔力値』を下げながら、自らは人形を囮にすでに移を開始している。

神斗が『魔力知』だけではなく、念りに『魔力探知』をも行っていれば、完全にを消す事が出來てはいないエヴィの『魔力』を頼りにしずつ移を行っている事に気づけただろうが、見えづらい視界の中でバラバラに散っていく囮の方に意識を割かれてしまった事で、神斗は終ぞ気づけなかったようである。

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――この辺りが『理ことわり』や『魔法』のある世界に生きる強者と、ない世界の強者との明確な意識の差であろう。

いや、厳には『理ことわり』が存在しない世界の中で、なからず『魔』の概念に取り憑かれた者が陥る罠というべきだろうか。

『魔』と一口にいってもその幅は非常に広く、何百年、何千年とこの概念に傾倒し続けて尚、その到達點に辿り著く事は容易ではない。

『理ことわり』や『魔法』の存在しない世界である『ノックス』では、相手の『魔力』を探知する方法は『魔』の概念の中では『魔力知』と『魔力探知』の二種類しか存在しない。

だが、あくまでこれだけでは得られる報はなく、魔力コントロールで『魔力』を極僅かに抑えられる者が相手となれば、その目で頼る事を余儀なくされる。

『妖魔神』である『神斗』は、この『魔』の概念に攜わる存在のない世界で長く生きてきた弊害で、この目に頼り過ぎてしまっている。いまさらそんな『神斗』に、視界に映る『目』の報だけを頼りに信じすぎるなという方が難しいだろう。

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対する大魔王『エヴィ』は、幾度となく『魔』の概念を知している『魔族』と命の削り合い、神の削り合いを繰り返し行い続けてきている。

そんな彼は一つ目の人形と引き換えに、その存在を隠したままで神斗までの距離を大幅にめる事に功した。

砂塵に包まれた狀態から人形を囮に用いて、エヴィ自が『高速転移』を用いていれば、もっと早く『神斗』の元に辿り著けてはいただろうが、しかし安易にそんな事をして萬が一見つかってしまえば、急に方向を変える事の出來ない『高速転移』の弊害によって、戦力値も魔力値も遙かに上の『妖魔神』に、無防備な姿を曬してしまう事になる。その時に手痛い反撃をける可能は非常に高く、まさに自殺行為と呼ぶに等しい。

彼は被害を最小限に抑えながら、取れる選択肢の中で確率の高い方法を選んで神斗の懐へとり込もうとするのだった。

「あれは……? まさか!」

神斗は遠くから迫ってくる更なる人影を目視すると、直ぐに迎撃を行う準備を始める。

エヴィは飛び出す瞬間の人形の囮と砂塵による目隠し効果を用いながら、自を砂へと変貌させて風に上手く乗って空の上に居る神斗の元へと向かっていたが、流石に神斗までは相當の距離があった為に、完全にばれずに辿り著く事は難しかったようである。

(流石に、ここまでかな……)

神斗が『魔力』を自に覆わせ始めたのを見て、接近に気付かれたと判斷したエヴィは、元の姿へと戻るとそのまま人形達の速度を速める。自はその場で留まって『魔力回路』から更に『魔力』を供給すると、相手の遠距離用とみられる『魔力』に対応する為に、彼もまた『極大魔法』を準備し始めるのだった。

「人型から砂に姿を変えられる事には驚いたけど、その場所にはもう遮蔽となるようなモノはない。これで終わりだよ!」

神斗はそう告げると、目を覆いたくなる程に太く橫に広がった膨大な『魔力量』が込められた『魔力波』が、恐るべき速度でエヴィに放たれるのだった。

(あれに僕の『魔力』の『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』を合わせたところで呑み込まれて終わりだ。ここではコレは使わない)

『魔力回路』から放出した『魔力』をそのまま『魔法』に使う事を取りやめたエヴィは、相手の『魔力波』から人形二を軌道から逸らすように指示すると、目前まで迫った『魔力波』から全力で逃れるように、更に上空へと飛んで高度を上げた。

「もう君の姿を隠す砂塵は存在しない、姿が丸見えだ!」

神斗はあれ程膨大な『魔力』が込められた一撃を放ったというのに、まるで溜める素振りを見せずに即座に二の矢を放つ。それもまた一度目と遜のない程の威力があるように見けられる。

どうやら先程自を覆わせた『魔力』の量は、最初からエヴィが回避をしてみせたときの為に、予め二発分を打てるように調整して確保していたのだろう。

「甘いね……。お前が相手をしているのは、大魔王ソフィ様の『九大魔王』だよ? この程度で勝ち誇るのは早いよ」

――神域魔法、『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』。

何とエヴィはそう告げると同時、神斗に背を向けて誰も居ない場所に向けて『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』を放った。

當然、エヴィは『魔法』を放った勢いで後ろへと吹き飛ばされていき、そのまま真っすぐに神斗の放った『魔力波』に向かっていく。

「馬鹿な。そのまま死ぬつもりなのか……?」

神斗はエヴィのやっている事が、単なる自殺行為にしか見えなかった。

グングンと勢いよく迫ってくる神斗の『魔力波』に自ら突っ込んでいったエヴィは、完全にその姿が神斗の位置からは見えなくなった。

最早、ここから回避は不可能であり、神斗にはエヴィが呑み込まれる未來しか見えなかった。

――しかし、これこそが『エヴィ』の『反・撃・』の狙いだったのである。

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