《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1702話 詰み
「ただ単に鬼人達の特徴である力を『魔』で強化して振り回すだけだと思っていたが、存外にお前の『過』技法の使い方も中々に堂にっているな。見事に『魔』の領域に立っているといえる」
シギンは悟獄丸の『過』の巧い使い方をするところを見て考えを改めた。
そもそも『鬼人』が『魔』で自分のを上手く強化しているだけであっても、過去の妖魔召士や妖魔退魔師が束になっても戦えば苦戦は必至となり、何とかして逃げ出そうと考える程なのである。
それがシギンの言葉通り、その種族を活かした戦い方にプラスして『魔』の優先事項となる技法である『過』を戦闘に上手く織りぜて立ち回るというのだから、これがシギンでなければあっさりと今までの攻防で勝負は決まっていた事だろう。
「はっ! この俺様を相手にそんな上から言葉を吐けただけでも大したもんだ。だがよ、一つだけ訂正しろ。俺や神斗はお前ら人間が想像も出來ねぇ程の長い期間をかけて『魔』の研鑽を積んできているんだ。そんな俺達に『魔』の概念を説こうとするんじゃねぇ。俺は神斗程に『魔』の概念に執著してるわけじゃねぇが、この概念は長壽な生である俺達でさえ、生半可に手を出していいもんじゃねぇと思い知らされるくらいのモンだ」
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「ほう? そんな言葉をお前から耳にするとはな。どうやら『魔』の奧深さというモノをお前も嫌という程に理解しているとじた。や・る・じ・ゃ・な・い・か・悟獄丸。また一つお前の事を見直せたよ」
そのシギンの言葉に悟獄丸は、眉をぴくりとかした後に不機嫌そうに顔を歪めた。
「だから人間風が上からモノを言うんじゃねぇ!! 舐めてんじゃねぇぞ、コラァッ!!」
怒りをにしながら拳を強く握りしめた悟獄丸は、目を走らせながらシギンに向けて駆け出していく。どうやら先程と同様にその両の拳に『過』をぜた渾の一撃をぶつけようと考えているのだろう。
確かに分かっていてもこの巨軀の鬼人の妖魔神が、恐ろしい形相を浮かべながら全力で毆り飛ばそうと迫れば、張でけなくなってしまってもおかしくはないだろう。それ程の威圧を悟獄丸は纏いながら、シギンに殺気を向けて迫ってくるのだった。
だが、あっという間に距離を詰めてくる悟獄丸を前にして、シギンはその場から一切く様子もなく、無表のままで口をかした。
「いいだろう……。お前の『魔』に対する真摯な態度を考慮して、しの間だけ本當の『魔』の領域に立つ者の力を見せてやる」
「おお! だったら今すぐ俺様に見せてみろやぁっ!」
恐ろしい速度でシギンの間合いにまで迫ってきた悟獄丸は、自分の背中をシギンに見せつけるかの如く、思いきり腰を捻り回転させて軸足に力をれて拳を振り切る。
その風圧だけで當たればどうなるか、その死を連想させる程の拳の一撃は、あっさりとシギンの障壁を砕くのだった。
だが、障壁を砕きようやくシギンの顔にその拳が屆くかという時、その瞬間に悟獄丸は唐突に拳を止めた。否、悟獄丸が止めたのではなく、正しくは止めざるを得なくなった。
――何故なら突如として、悟獄丸の右腕の肘から先が消失したからであった。
「なっ……!?」
「悪いが手のを見せてしまった以上、このままお前には計畫の匿の為に消え去ってもらう」
突然に自分の腕が消え去り、驚きの表を浮かべている悟獄丸に、シギンは一方的にそう告げると、その愕然としている悟獄丸のを赤い四角形の空間が包み込む。
これは山の頂で一度、シギンが他でもない目の前の悟獄丸に使用した『結界』と同一のものであった。
「くっ……!」
そしてそれはをかけられた悟獄丸本人も思い出したようで、直ぐに呆けていた表を戻すと、一度目の時のように『魔』を行使して、強引に赤い四角形で出來たその『結界』を壊そうとする。
しかし『悟獄丸』が壊そうとするが、その『結界』はびくともしなかった。
悟獄丸は右腕の肘の先を失い、その上で『結界』に閉ざされた事による焦りからか、冷靜さを欠いてしまっている。
最早この狀態で妖魔召士シギンの相手をする事は絶的であり、妖魔神である『悟獄丸』は狀況的に詰まされたといえるのだった。
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