《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1705話 斷言

「はぁっ、はぁっ……!」

妖魔召士のコウエンは息を切らして、倒れそうになりながらも必死に立っていた。

前時代の妖魔召士組織で『四天王』とまで呼ばれた最上位妖魔召士のコウエンだが、どうやら目の前に居る九尾の妖狐である『王琳おうりん』とは相當に実力に開きがあったようである。

「流石に參った、ここまでお主とワシの間に差があるか……」

戦闘が始まってそれなりに時間が経つが、すでに満創痍となっているコウエンとは違い、目・の・前・の・王・琳・は・無・傷・で・あ・っ・た・。それも明らかにコウエンは手を抜いて戦っているという事は、直に手を合わせているコウエンにも分かっていた。

「まぁ、そうだな。確かにお前の言う通り、俺とお前の間には覆す事が出來ない差があるのは間違いない。しかし勝敗は別にしても俺は十分にこの戦いを楽しめたぞ? お前は間違いなくこれまで俺が戦ってきた『妖魔召士』と呼ばれる人間達の中で強い部類にっている」

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そう話す王琳だが、コウエンと戦闘が開始されてから一歩もその場からいていない――。

どれだけコウエンが『魔』を用いた『捉』や『』、それに『青い目ブルー・アイ』といった『魔瞳まどう』を織りぜながら戦おうと、その王琳には何一つ通用せず、その場から一歩もかせないというのが現実であった。

実際に目指していた九尾の妖狐である『王琳』と戦闘を行い、その差を分からされた上で言葉でも現実を突きつけられたコウエンだが、嘆くような言葉とは裏腹にその顔は清々しそうであった。

「やはりお主はワシの思った通りの……、いやそれ以上の強さをしておった。最初に申した通りにワシが全盛期の頃にぶつかっておればとまだし後悔はあるが、それでも當時のワシであってもだいたいの容と結果は想像が出來たわい」

その言葉に偽りはないようで、再び王琳との戦闘が再開されてからコウエンは、同志達を逃してもらう前に手を合わせた時とは違い、後悔のないように全力で戦った事で見えなかったものを見る事が出來たようであった。

「最後に教えてくれ九尾の妖狐よ、もしワシが恥も外聞もかなぐり捨てて全盛の頃に挑んでおれば、お主をそ・の・場・所・か・ら・一・歩・で・も・・か・す・こ・と・く・ら・い・は出來ていただろうか?」

「まぁ、可・能・・は・あ・っ・た・な・」

「そ、そうか……!」

その王琳の言葉にコウエンは相好を崩すのだった。

「しかし技や魔力に拘っているだけであったならば、結局は今とそこまで結果は変わらなかっただろう。あくまで可能があると俺が口にしたのは、お前が『魔・』の概・念・というモノをしっかりと理解する事が出來ていたら、という前・提・がつく」

「『魔』の概念……。今のワシもそれなりに『捉』や『魔瞳』といった『魔』の技法に自信があるつもりだが、これでは足りないという事なのか?」

王琳は腕を組んだままで、何かを考えるように空を見上げた。

――どうやらコウエンにこの先を告げるかどうか悩んでいる、そういった表をしていた。

やがて何かを決意したように小さく溜息を吐くと、視線をコウエンに戻した。

「お前らの扱う『捉』といったか? その『魔』の技法、そしてそれに伴う威力に申し分はない。恐らくここから山の頂付近に居る連中でさえ、まともにお前の攻撃が當たれば、決して無視出來ない程の甚大なダメージを負う事だろうよ」

「そ、そうか……!」

コウエンはこの『止區域』に居る妖魔達が相手であっても、自分の攻撃が通用すると他でもない『王琳』に認められた事で再び笑みを浮かべかけた。

――しかし、実際にはその王琳の続きの言葉を聴いて笑う事は出來なかった。

「だが、実際にはお・前・の・攻・撃・が・當・た・る・事・は・確・実・に・な・い・」

――ぴしゃりと言い放たれた王琳のその言葉は、異論を挾む余地はないと斷言するものであった。

「もちろんこれはお前に限った話ではないが、一つだけ言えることはお前達『妖魔召士』と名乗る人間達は、これまでも、そしてこれからも俺達を恐れさせる事はないという事だ」

先程まで笑みさえ浮かべようとしていたコウエンだが、その王琳の言葉に自分の顔が蒼白になっていく覚を自覚するのであった。

……

……

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