《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1717話 悟獄丸達の戦いを観察する者
ソフィ達が百鬼なきりの案で山の中腹にある鬼人達の集落へと向かっている頃、止區域で一の鬼人は、とある戦闘の始終を気配を消しながら観察を行っていた。
その戦闘とは、妖魔神である『悟獄丸』と妖魔召士のシギンの戦闘であった――。
(あの人間は何者なんだ? 悟獄丸様と対等に渡り合ってやがる……)
すでにこの鬼人がこの場面に出くわした時には、悟獄丸とシギンが戦っているところであったのだが、その戦闘のレベルの高さに思わず鬼人は目を奪われてしまっていたのだった。
彼はまだイダラマ達が山の中腹付近で天狗の『帝楽智ていらくち』達と戦っていた頃に、王琳と共にその様子を窺っていた鬼人で名を『殿鬼でんき』といった。
あのサイヨウが『式』にしている『紅羽くれは』の実父であり、前時代の鬼人族の族長でもあった。
彼も悟獄丸と同様に種族に縛られる生き方に嫌気がさして、あっさりと種族の長という立場を放棄したのであった。
もちろん妖魔神である『悟獄丸』や『神斗』の命令があれば、直ぐに彼らの元に參じて命令に従うが、普段は鬼人族の集落に近寄る事もなく、この『止區域』で余興となるものを探しては、自由気ままに山暮らしを堪能している鬼人であった。
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普段は妖狐の王琳と行を共にする事が多いのだが、その王琳が天狗と戦っていた人間に目をつけた事で、直ぐに殿鬼は察して彼の元から離れたのであった。
王連と付き合いの長い殿鬼は、彼が余興の邪魔をされる事を何よりも嫌っているという事を知っている。もしそんな彼の余興の邪魔をして不興を買ってしまえば、たとえ親しい間柄といえる殿鬼であっても王琳に殺されかねない。
今でこそ王琳と堂々と話す事の出來る殿鬼だが、かつて『三大妖魔』と呼ばれていた時代であれば、この王琳に気安く聲を掛ける事など出來ない程に両者には差があった。
王琳は単なる九尾の狐ではなく、すでに何度も転生を繰り返している最古の妖狐であり、この『妖魔山』では『神斗』や『悟獄丸』に並ぶ程の大妖魔なのであった。
だが、そんな王琳は妖魔神となった悟獄丸よりも『殿鬼』の方に興味を持ち、気が遠くなる昔から今日まで友と呼べる間柄を続けているのだった。
殿鬼は王琳の不興を買わないように、気配を消しながら人間達との戦いを観察しようと彼の元へと向かっていたのだが、その道中で彼の先祖である『悟獄丸』の戦闘の余波をじて、後を追ってここにきたというわけであった。
そして悟獄丸と人間の戦いを見始めて直ぐ、あの赤い狩を著た人間が、単なる妖魔召士ではないという事に気づき、そしていつの間にか同胞である筈の悟獄丸よりも、戦っている相手の人間の方から彼は視線を外せなくなってしまっていた。
気が付けば王琳の元へ向かうなどという事を完全に頭から忘れ去られてしまい、この両者の戦いに心の底から沒頭する殿鬼であった。
殿鬼がこの戦闘を見始めてから時間が経ち、悟獄丸がこの後の布石となる掬い上げる拳を繰り出した時、直ぐに殿鬼はこれがいの罠であることを察した。何故なら彼もまたこの手をよく使うからであった。
(先程の攻撃に『過』を用いれば、確かに僅かながらに相手にダメージを負わせる確率は高くなるが、あれ程の相手であればそこまでアドバンテージが取れるというわけではない。それならばわざと回避をさせて『過』を行うつもりがないと思わせて、後に同様の攻撃を行う時に今度こそ本命となる全力の『過』を織りぜた一打を放てば良い。手練れの相手であっても、いや、相手が手練れであればある程に一度ついた印象から戦の組み立てを構築するきらいがある。それもこれ程の練度の打ち合いの中、そう簡単についた印象を払拭させる事は容易ではない。あの人間は確かに妖魔召士にしてはあまりに強すぎるが、それでも妖魔神である悟獄丸様を相手にするには分が悪すぎっ……た――!?)
――しかし、殿鬼が考えていた通りの戦闘結果とはならなかった。
そして布石として用いられた悟獄丸の拳を難なく回避してみせたシギンに、目を見開いて驚く殿鬼であった。
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