《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1718話 人間の中にも居る本
(ご、悟獄丸様にあれ程までの攻撃を出させる存在さえ、この『妖魔山』では稀であるというのに、本気で繰り出した悟獄丸様の『過』技法を用いた渾の一打でさえあっさりと回避して見せただと!?)
この一連の攻防のやり取りは、ランク『10』に居る者達によって行われる戦闘の中でも更にレベルの高い戦いといえるものであった。
そもそも『青』と『金』の『二の併用』が行われている者同士でやり合う事など、この數十年では數度しか行われていない程であるが、この場で行われている戦闘では、そんな『二の併用』がスタートラインといえるような狀態なのである。
更に人間の方は面妖な式が戦闘の端々で多く使用されており、あの妖魔神として恐れられている悟獄丸の圧倒的な攻撃力の大半が著しく低下させられている。
しかしそんな低下狀態にあっても、他のランク『10』の妖魔達ぐらいの攻撃力を上回っており、この戦闘を観察している鬼人の殿鬼くらいの攻撃力を有しているといえた。
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當然その事に殿鬼も気づいており、もしあの場面に自分が立っていて、悟獄丸の代わりにあの人間と対峙していた場合、自分はあっさりとやられてしまうだろうとまで考えさせられた。
……
……
……
そしてそれからも殿鬼が愕然とするような攻防が行われていき、やがてこの戦闘も佳境を迎え始めたようであった。
すでに両者ともに戦力値が兆を遙かに上回っているが、そんな狀況で本気で殺し合って尚、數分が経ってもまだ決著がついていない事に驚きだが、それでも『過』を戦闘に織りぜ始めた悟獄丸が押し始めているといえるのだった。
(全ての攻撃に『過』を使わない事で、あの人間が必要以上に防に意識を割かされてしまっている。流石は悟獄丸様だな。人間も『障壁』と呼んでいた『結界』のようなモノを用いて何とか耐えられてはいるが、神斗様や悟獄丸様のような妖魔神と呼ばれている方々は、我々の想像を遙かに越えて行われる技法の數々を用いられる。いくらあの妖魔召士が面妖なを用いたところで『魔』の概念とやらを用いられる悟獄丸様には決して屆かぬ!)
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悟獄丸の勝利をすでに疑っていない殿鬼は、もはやこの後に待つのは一方的な結果だと笑みさえ浮かべてそう考えるのだった。
――しかし、そんな殿鬼の考えを直接否定するかの如く、その人間は気になる言葉を発するのだった。
「いいだろう……。お前の『魔』に対する真摯な態度を考慮して、しの間だけ本當の『魔』の領域に立つ者の力を見せてやる」
「おお! だったら今すぐ俺様に見せてみろやぁっ!」
そう口にしたシギンに向けて全力で振りかぶって拳をその『障壁』に叩きつける。當然あっさりとその人間が張っていた『障壁』は々にされて、そのままの勢いで人間の顔に拳が屆くかと思われたその瞬間だった。
何とその悟獄丸の右肘から先が忽然と消え去り、行おうとしていた攻撃が強制的に止められたようである。
(なっ!?)
唖然とした様子で殿鬼は中で聲を上げる。
「悪いが手のを見せてしまった以上、このままお前には計・畫・の・・匿・の・為・に消え去ってもらう」
そして殿鬼の目の前で、次から次に想像を越えた現象が起き始めていく。
悟獄丸の右肘から先が消失したかと思えば、次にはその悟獄丸のを赤い真四角で出來た魔力で作り上げられた『結界』に閉じ込められたのである。
中に閉じ込められた悟獄丸は、殘っている左手や足を使って無我夢中に『結界』を壊そうと暴れるが、強固なその『結界』はビクともしなかった。
やがて今の狀態では、いくら腕力を振りかざそうと壊す事が出來ないと察した様子の悟獄丸が、再び拳に『過』技法を用いて『結界』の外側に居る人間を直接威力を屆かせようと振りかぶったが、その先にはすでに読んでいたとばかりに平面な鏡がまるでその人間を守るかの如く複數出現し始めていき、悟獄丸の『過』によって平面な鏡が一枚、また一枚と割れていく。
そのたびに鏡を設置したであろう人間の口角が悍ましい程に吊り上がっていく。悟獄丸は必死に『結界』を壊そうと足掻いている様子であり、その人間の表までは確認が出來ていないようだが、し離れた場所から戦闘を観察している殿鬼には、その人間とは思えない邪悪な笑みを見て震え上がるのだった。
(あ、あの人間は俺達とは強さの次元が、ち、違いすぎる! あ、あの悟獄丸様を相手にしてさえ、何処まで自分の強さについてこれているかと確かめるように力を抑えて戦っていやがるっ……! ば、化けだっ……!!)
最早、この戦いは先程まで互角に戦っていた狀況からは大きく変貌を遂げて、人間による一方的な躙が行われる場となってしまった。
「今の私の『魔力』は神の時とは桁が違う。お前程度の生半可な『魔』でどうにかできると思うな」
そして更に追い打ちをかけるような言葉が人間から飛び出したかと思えば、殿鬼は見た事のない事象が行われているところを目の當たりにするのだった。
それは悟獄丸を包む赤い真四角で出來た『結界』と呼べる空間の中に、見た事のない字が膨大な羅列となって表記されていく。
やがて最後の結びとなる一文字が完すると同時、刻印のようなものが刻まれた円が出現して、その円は高速回転を始めると、そこに目を背けたくなる程の可視化された『魔力』が注ぎ込まれていき、その円が一際大きなを放ち始めた。
――魔・神・域・『時・』魔法、『空間除外イェクス・クルード』。
次の瞬間、悟獄丸の『魔力』だけではなく、手や足にがいくつにも分割されるように離された後、全てが別々の『空間』で管理されるように封印されたかと思うと、その悟獄丸の居た空間ごと切り取られるように、この世から消え去ってしまうのであった。
その悟獄丸の最後の様子を見ていた殿鬼は、ぞわりと全が粟立つ覚を覚えた。
(だ、駄目だ!! こ、この人間には決して刃向かってはいけねぇ!! お、王琳が言っていたように、この世界の人間共の中には信じられねえ強さを持った奴が本當にいやがった! あ、あの悟獄丸様が、こ、こんな、い、一方的に……!?)
悟獄丸を消し去った後に何やらブツブツと獨り言ちているシギンに殿鬼は、愕然とした表のまま一歩、また一歩と後退りながら、その視線をシギンに釘付けにされていた。
(妖狐の王琳だけではなく、天狗の帝楽智や王連もまた人間の中には決して侮れぬ存在が一定數いると言っていた。それも全員が全員というわけでもなく、目立たぬ個が稀に現れるのだと。実際に帝楽智の奴はサイヨウとか言う人間に絆されて、天狗の持つ貴重な寶や法をあっさりと渡していたし、王連の奴は人間を観察する為に自ら人間達と契約を果たしに山を下りて行った。そして王琳曰く、山を下りずとも『止區域』にまで足を運べる程の人間であれば、その侮れない存在は自ずと自分の力を示してくるだろうとも……)
殿鬼はそんな他の連中の話を聞かされた時、表面上は黙って聞いてはいたが、単なる戯言だと流して聴いていた。
どうやら自分達には強さで遠く及ばないと見下す傾向にある鬼人族だが、彼もなからずそういうは理解しているようで、里と種族の長という立場も捨てた殿鬼だが、かつては『三大妖魔』と崇められていたのだという気持ちも當然に持っている。そんな彼は同じ妖魔どころか、壽命が更に短く力も弱い人間に何を恐れる必要があるのかと馬鹿にしていた節もある。
しかしこの場で王琳や王連、帝楽智が口にしていた『本』を見て、人間は決して侮っていい存在ではないのだと、自分より遙かに強い『妖魔神』である『悟獄丸』が一方的にやられたことでようやく理解したのであった。
(紛いが非常に多かろうという事も勿論理解しているが、人間の中にも『本』は確かに存在しているようだ。それもこの『止區域』にこれるような連中は確かにその可能が高いようだ……)
――今では聞き流していた王琳の言葉にも、本気で同意が出來ると考える殿鬼であった。
そしてそんな事を考え始めた殿鬼だが、悟獄丸を葬った人間の纏う『魔力』に変化が現れた事で、再びその視線をシギンに向け始めるのだった。
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