アスモの予想通り、しして帝蟻にきがあった。

帝蟻が沈んだ場所に狼の頭の幻影が現れ、そこを中心にして円狀にどんどん地面が食べられ、その円周がどんどん広がっていく。

そして地面にポッカリ筒狀のを開けたと思ったら、そこからの舞臺のせり上がる床のように登場した。

「自然環境ガ貴様の味方なラ、殘ラズ食べてシマエば良イのだ！　貴様ラ全員食いツクシてやる！」

アスモの味方をする土や砂、地面らが滅茶苦茶に食い荒らされる！

砂や石、木の枝や葉っぱに至るまで、自然がアスモの味方をして帝蟻を攻撃しようと集まるが、それらも全部狼の頭の幻影が平らげる。

空を飛び、地面を喰らいながらアスモに近付く帝。

を変形させ、腕が十本くらいに増えた。

「今度は何の能力！？」

端から見ているだけの私だが、帝の形態が変わる度に驚かさ、不安が増す。

帝は、二つずつの腕にそれぞれの屬の魔力を纏まとい、それを組み合わせて風＋火、風＋水、風＋氷、風＋土の四つの複合魔法を作った。

風と火で暴風炎になり、風と水で小臺風が発生し、風と氷で風の刃と鋭い氷を併せた竜巻となり、風と土で重量のある巖石吹き荒れる嵐を作り出す。

それらを全てをアスモにぶつけた。

「……うっ……」

四つの風はでたらめに合わさって吸い込みが発生したため、超スピードを持つアスモでも出できず、中で激しく傷つけられる。

そして四つの風で消耗したアスモに再び狼の幻影が牙を剝く！

「……くっ……！」

再び左手を食いちぎられてしまった！

「「アスモっ！！」」

その様子を見て私とレヴィが同時にんだ。

「……大丈夫……問題無い……」

アスモも他二人同様、大気中の魔素を集めて左手を再生させ、手から雷を帝に向かって放つ。

が、その雷も狼の幻影が食べてしまった。

「何アレ！　雷まで食べられちゃったよ！？」

「どうやらあの狼の幻影は魔法をも食べてしまえるようですね」

それを見て、しの間空中に佇たたずむアスモ。

「何やってるの？」

「もうしで來ます」

「來る？　何が？」

するとどこからともなく、一本の槍がアスモに向かって猛スピードで飛んで來た。それを空中でキャッチ。

音速を超える速度で飛んで來たらしく、キャッチした瞬間にソニックブームが発生。木が、大地が、激しく揺れる！

「何アレ！？　どこから飛んで來たの！？」

「あれはアスモデウス様専用の槍のようですね。雷の國の王城から超磁力で呼び寄せたようです。あの槍にだけ特殊な磁力を持つ魔法がかかっていて、どこに居ても呼び寄せられるようです。もっとも……槍がかかっていた王城の部屋は槍が飛んでくる時に大きめのが開いてしまったようですけど……」

部屋壊してきちゃったのか……音速を遙かに超えてたし、あのスピードで飛んでくればそりゃ壊れるか。

遠距離攻撃が効かないと見て、接近戦を挑もうってことなのね。

瞬時に帝との距離を詰め、雷を纏まとった槍で斬りかかるアスモと、それを迎え撃つ風の刃を両手に纏まとった帝。

両者の剣戟が激しくぶつかり合う。

両者とも凄い速度での斬り合い。アスモの方がスピードが速いため、帝にどんどん傷が付けられるが、淺い傷も深い傷も、狼の幻影が大地を食べることによる再生力の向上で大したダメージにならない。

一方、アスモの方は帝の攻撃を全て避けながら攻撃しているが、その攻撃にし遅れてくる狼の幻影の噛みつき攻撃にまでは対処し切れず、再生されながらも徐々にダメージを重ねているように見える。

「斬っても再生されるんじゃ、どうしたってアスモの分が悪いんじゃない！？」

「いえ、それはどうでしょうか？　魔王回帰レグレシオンはメリットばかりの能力ではありません。そのにかかる負擔はかなりのものと思われます。それに、固有の能力は普段使わない能力ですので、それを使い続けるとなると……早めに限界が訪れるはずです。そろそろ私の出番かもしれません」

そう言って、私を地面に下ろす。

「もう終焉が近いってこと？」

「はい、私の見立てでは」

両者とも凄い早さでいているため、それがしぶきとなって霧狀に漂い始めた。

地上に居る私から見ると、の雨が降っているように見える。

しかし、このの雨が転機だった！

レヴィが空中に漂うの中の水分をり、四方八方から水の槍で帝を串刺しにした。

超近距離からの攻撃だったために、先ほどのように回避することは葉わず、細い水の槍が無數に帝のを突き抜ける。

「グゥ……キ……サマ……」

そう言ってレヴィの方を向く帝。

これにより完全に空中に磔はりつけになった。

それを見てアスモが帝から離れ……そしてレヴィから合図が出される。

「カイベル、今よ！」

その合図で、カイベルが魔王三人を閉じ込める隔離空間を展開。それは巨大な明のガラスのような見た目の空間魔法。

それも展開したのは一つではなく、破壊されないよう何重にも重ね、隔離空間の耐久度を高める。

そして発される魔王二人による極大魔法――

「「合魔法・【水と雷の舞曲ノア・エクレール・ロンド】！！」」

真の魔王二人が同時に放つ水と雷の複合魔法！

激流渦巻く水球で対象を包み込んで出不可能にし、水によって強化された雷で焼き盡くす強力な攻撃。恐らくその屬相の相乗効果により互いの能力を數倍に跳ね上げると思われる。

「グアアアアァァァァッッッ！！！」

放たれた雷は『レッドスプライト』に似た赤い雷。地球では層圏よりも上空の中間圏で起こる長さ數十キロにも及ぶ超巨大な雷の名稱。

放った全ての電気エネルギーが水全を伝達し、水球の中でのみ増幅し、反し、巨大な水球全が直視していることができないほど連続的に閃を発する！

それと共に落雷時の轟音が數十回、數百回と鳴り響き続け、隔離空間に隔離しているのに耳にまで恐怖を抱かせる。

「ガアアアァァアアァッッッ！！」

敵が目の前にいるにも関わらず、激しい明滅が終わるのを目を伏せて待つ狀態が數十秒続く。

合魔法の効果が持続している間、カイベルが隔離空間を維持しようとするも、一枚、二枚と隔離空間の魔力が壊されるのをじた……

最後に水が弾けて隔離空間全てが壊されてしまった！

◇

次に目が覚めた時には、またもどこか分からないところまで飛ばされていた。

「う……ど、どうなった！？」

慌てて起き上がったものの、どうやらまたもしの間意識が飛んでたらしい。

周囲を見回し狀況確認をすると、一部分暴風で吹き飛んだかのような巨大なが目にった。

近付いてみると、魔法が発された場所が大きく陥沒し、巨大なクレーターになったようだった。何キロのクレーターになったか分からないが、眼前いっぱいに巨大なが開いている。

クレーターの中心には魔法の終了と共に弾けたと思われる水だけが殘り、々大きめの水たまりになっていた。あれだけ巨大で度の高い水球だったにも関わらず、そのほとんどが蒸発してしまったらしい。

「帝は……？」

クレーターとは別のところで黒焦げになって橫たわったジャイアントアントの死骸が転がっていた。魔法の最終段階で水が弾けた時に一緒に飛ばされたらしい。

帝蟻のアリ形態時の姿を見たことがないが、この辺りに他のアリは存在しないし、恐らくこの黒焦げの死骸が帝蟻で間違い無いだろう。

アリは痛覚が存在しないと聞いたことがあるが、なまじ亜人と同等のを手にれてしまったために、痛覚まで再現されてしまったのかもしれない。

「無事？」

と聲をかけてくれたのはレヴィだった。

振り向くと、二人が近付いてくる。

「いやぁ～、予想以上の威力だったよ！　カイベルが隔離空間作ってくれなかったらベルゼたちも死んでたかもね」

「……隔離空間が無ければ、もっともっと巨大なクレーターになっていたかも……」

ひえぇ……

何て恐ろしい攻撃。私がアレ喰らったらきっと跡形もないわ。帝蟻は原型が殘ってるだけ、流石魔王と言うところか。

二人が味方で本當に良かった……

「ちょっと強すぎちゃったね。大分加減したんだけど」

「……魔王になると強すぎて、合魔法使う機會は無いからね……それに今回は魔王回帰レグレシオンしているから更に……でも……中々面白い実験だった……」

あれだけ強力な魔法を放ち、魔王相當の敵を倒してすら、ケロッとしている二人。

「アスモ……最後の方はしぶき上がってたけど、怪我は大丈夫なの？」

「……問題無い……魔王回帰レグレシオンを解けば傷も無かったことになる……」

【魔王回帰レグレシオン】を解いて、元のに戻った。

「……それよりも、ベルゼの怪我は大丈夫……？」

「ああ……こんなに深く切られて……左腕はもっと酷いし……」

パックリ割れた右腕と両太もも、そして無くなった左腕を見て嘆く。

「ま、まあ、大丈夫だよ。しすれば回復すると思うから」

左腕の【癒しの水球リジェネレート・スフィア】は今の合魔法の衝撃で消えてしまったが、【自己再生魔法リジェネレート】の効果は殘っている。現在は徐々に回復して止もされて、何とか立てるところまで回復できた。

「さて、じゃあ帝蟻の死を持って風の國へ報告に行きましょうか」

これで終わったと気を抜いていたところ、二人の後ろに蠢うごめく影が見えた！

死骸だと思っていた帝蟻が起き上がっている！

まだ死んでない！？

「危ない！！」

風魔法の使用作が見られる！　如何にこの二人でも気を抜いている時に後ろから攻撃されれば致命傷を負う可能もある！

と、頭で考えている間にもいていた。

まだ帝蟻の生存に気付いていなかった二人の間に割ってり、肘から無くなった左手とまだ回復し切れていない右手を懸命にかして二人を突き飛ばした。

息を吹き返した帝蟻はそのまま一番弱い私に狙いを付けて一直線。

「オのレ……貴様ダケでも道連レダ！　死ネ、アルトラ！！」

奇襲だったとは言え、瀕死のダメージをけているからかきはかなり遅い。さっき見えない速度でいていた相手とは思えないくらいスピードが落ちている。

私も傷だらけだったものの、必死に後ろに倒れ込むと帝蟻の風の刃による攻撃は空を切った。

仰向けに倒れたため現在私のすぐ上を帝蟻が飛んでいる最中。

そのまま部を蹴って上空へ蹴り飛ばした。

「いい加減に眠りなさい！」

痛みも忘れてすぐさま起き上がり、さっきまでかなかった右腕を必死に持ち上げて火魔法を使う。

「【太より赤い赫灼クリムゾン・サンズ】」

中空に太にも似た炎の球を作り出し、更に空間魔法で隔離空間に閉じ込める。

「ギャアァァアァァアァァッッッ！！」

その斷末魔のびと共に中空の太の中で焼死。黒焦げになった死骸はその直下へ落下した。

「あ、危なかったわ……まさか息を吹き返していたなんて……」

「……魔力を消耗し切っていたから知が遅れたのかも……」

二人は帝蟻の方を振り返って再度警戒モードになるも……

「流石に……これはもう生きてないか……」

「……合魔法を喰らって、その後にこの黒焦げの狀態じゃあね……」

二人が帝のを確認したところ、死んでいると判斷。

再び安堵するも、激しめにいたことで――

「痛たたた……」

――し回復していた左右の腕の傷、両太ももの傷が再度広がってしまった。

魔王相當の敵を倒した安堵とここまでけたダメージの大きさから、その場に膝を突きそのまま正座狀態に。

「もうしばらくはけないわ……」

【自己再生魔法リジェネレート】はまだ維持できている。徐々にでも回復するのを待つか。

しかし、安堵したのも束の間、待ってもいられない事態が発生する。

魔王対決になってからカイベルが解説役で、驚き役 （笑）のような役割のアルトラでしたが、一応最後は主人公の手で倒しましたね。

【お詫び】

前回の後書きの予告時に7月19日と書いていましたが、誤りで本當は7月18日 （今日）の投稿です。

19日の投稿はありません。

間違えてしまって申し訳ありませんm(__)m

次回は7月22日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

第490話【『暴食』の大罪】

次話は來週の月曜日投稿予定です。