《ダンジョン・ザ・チョイス》おまけ 黒茨の哀哭

「“六重詠唱”――“時空魔法”、デリート」

ハッグの隠れNPC、ビッチィの魔法により分厚い壁の一部が消失。僅かに向こう側を覗かせる。

「もうすぐでございますね、ユウコ様」

「ええ」

私の使用人NPC、ロメオに返す。

「エリアを移するとユウコが言いだした時はどうなるかと思ったけれど、問題なさそうだ」

四十二ステージで、レイナとキクルが必死になって助けた赤髪のエルフ、アーノゥ。

雨の中で発見した時は四肢が無く、ご丁寧に傷が塞がれて修復できない狀態だった。

何故か私のパーティーにれる事になって……あれから、もう隨分経つのね。

「“嵐の穿孔刃”!」

前にサトミと二十ステージで戦っていた男を殺して手にれた裝備一式をけ継いだフェアリー、フェノーゼが“天空の神風槍”に風の刀槍を形作る。

「行きます! “暴風槍”――ストームストライク!!」

が広がり、派手に亀裂もった。

「……盾か」

かろうじて見えたSSランクは、白く神々しい八角盾。

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「“聖王盾・エンデュアーブランド”、という名のようです」

「私達のレギオンだと、誰が相応しいのかしら?」

「まさか、先客が居るとはね」

部屋に、いかにも王子然とした男がってきた。

取り巻き含め、六人か。

「マスター、彼は隠れNPC、チェスのクイーンです」

リーダーらしき男の隣にいた銀髪を指差し、告げるビッチィ。

「あちらは使用人NPCのようで」

白い魔導師然とした小娘の後ろに控える、使用人NPCにしてはちょっと不細工な侍

殘りは、高長で不気味な仮面を付け、くすんだ青緑の鎧と金屬尾を持つ、男かかも判然としない者。

最後の一人は、耳は尖っているけれど小柄な重戦士……ドワーフのか。

「何かしら、勇者ご一行がた」

「あの、バカにして!」

魔導師が吠える。

「あの男……ひょっとして、《聖王騎士団》のレギオンリーダー、マサハルか?」

アーノゥからの報。

「攻略最前線の最大派閥……」

「知ってるなら話は早い――オールセット1」

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王子然とした男が、剣を持ち替えた?

「あの剣、S・S・ラ・ン・ク・の・“聖・神・剣・・・ゴ・ッ・ド・ブ・ラ・ン・ド・”です」

白い幅広の、黃金裝飾だらけの大剣タイプ。

背後の盾と名前が似ているのは、只の偶然?

「というわけで、僕達にはSSランクがあるし、裝備もスキルも最新の品揃えってわけだ。だから、大人しくそのSSランクを僕らに譲ってしい」

気持ち悪い、爽やか気取りの笑顔。

「只で寄こせと?」

「命よりも高いは無いんじゃないかな?」

さすが、最初の十三種の持ち主。メルシュ達の予想通りか。

「そのSSランク、どうやって手にれたのかしら?」

「うん? もちろん、クエストをクリアしてだけれど?」

だとすると、ますます油斷ならない相手なのは間違いない。

「退いてくれるなら、君達を見逃すつもりだけれど」

「……全員、大人しく退くわよ」

「良いのかよ?」

アーノゥ。自分が一番、SSランクの恐ろしさを知っているくせに。

「ええ。私の指示に従って貰うわ」

亀裂のった壁から私達が離れていく間、互いに一挙手一投足を見張ってい――虛空に、無數の聖剣が生まれる!!

「――迎撃!!」

“黒神茨の慘殺謳歌”に十二文字刻み、それぞれ群れる聖剣を弾き飛ばす!

「コイツら、SSランクと戦い慣れてる?」

「それに、やっぱり持っていたね――あの力」

神代文字の事を言っているのかしら。

「ハッ!! 《真竜王國》の奴等と同じ、ずるっこってわけ!」

魔導師、うるさいわね。

「騙し討ちしてくるような者達に、狡いだなんだとほざかれてもねぇ!」

先の言葉から、コイツらは神代文字を扱えないと判斷。なら、SSランク持ち相手でもなんとかなるはず。

『どうする、マサハル?』

仮面の者、ようやく喋ったか。

「SSランクを回収する前に、彼達からレアアイテムを手にれようか」

にこやかに言ってくれる!

「スルーニ、君は狩りを終えるまでSSランクを死守していてくれ」

「畏まりました、マスター」

“駒召喚”を使い、キング以外の駒を率いてオリハルコンの壁に陣取るチェスのクイーン。

「ユウコ、あの男……マサハルはヤバい。ヨウナみたいな……倫理観が欠落した者特有のヤバいじが、一際強い」

アーノゥのこういう勘は、よく當たるのよね。

「いい加減ベッドで寢たいし――私のユニークスキルで、とっとと終わらせてあげるわ!」

魔導師んだ瞬間――私達を囲うように、魔法陣が勝手に二十四も出現した!?

しかも、それぞれが別々のに変化していくうえ、陣そのものがいて……これじゃあ、“座標指定”に加えて魔法陣そのものを作しているような……。

「“全屬付與”――死になさぁい!」

全ての魔法陣から、バラバラの魔法が放たれた!!

「――“因果逆転”!!」

切り札によって、全ての魔法陣が彼たちを囲うように再展開――魔法が一斉発

「今のうちよ、り口に走って!!」

「へ、でも……」

フェノーゼが、勝てると思ってしまっている!

「この程度で殺せるなら、アイツらがここまで生き殘っているはずねぇだろ!!」

「は、はい!」

アーノゥの一括で、フェノーゼが駆けだしてくれた。

「……やっぱり」

師殺しの裝備で、各々やり過ごしたようね。

魔法がはね返ってくるくらいは織り込み済みか。

『――“瞬間移”』

仮面の鎧人間が、り口の前へ瞬時に!

「チ! ぶちのめしなさい、アーノゥ!」

私は振り返り、飛んできた剣を鞭で払い除く!

「任せろ!」

両腕の小手、“大地よ拳で語り明かそうぞ”と“大地よなぜ拳で語らぬのだ”に、九文字ずつ刻みながら先行するアーノゥ。

「“ニタイカムイ”、“ミケカムイ”!!」

霊憑依”による、カムイの重ねがけ。

『“連続転移”』

アーノゥの真橫に現れると同時に蹴りで勢を崩し、次の瞬間には反対側に現れて拳を振り下ろし――“連続転移”による、高速戦闘が繰り広げられる!!

「く……そったれ!! ――“倍拳打”!!」

青白い拳のオーラを生みだして、攻撃範囲を広げようって魂膽ね。

『當たると思っているのか?』

機械の尾をまるで猿のようにり、アーノゥのカウンターを避け続ける鎧仮面!

「ハッ!!」

ロメオが、“高級萬能ナイフ”を投げた!?

『しま!?』

転移しかけているように見えたから、空間のブレのようなが消える?

どうやら、なんらかの理由で転移が解除されたようね。

「ぶっ飛べ――大地拳!!」

『“魔力障壁”!!』

向こうはどうにかなりそうね。

「余所見ですか」

使用人NPCが、尖盾で毆り掛かってきた!

「――“黒茨の化”!!」

茨だらけの黒鎧樹のような姿となって、迎撃!

「“時空魔法”――デリート」

消滅球で、右側を大きく削られるッ!

「ストームブラスト!!」

『ムーブメント」

フェノーゼの魔法に気をとられた瞬間、メイドの橫に転移!

「“絡め取り”!!」

さっさと串刺しにして敵戦力を減ら――ドワーフの小娘が投げてきた大鎚に鞭が絡み付いて、阻止されてしまった!

裂腳――裂拳!!」

を推力代わりに毆り掛かって――鞭でけるも、凄まじい余波!!

「“四重魔法”、“溶解魔法”――アシッドバイパー!!」

危険な大蛇を牽制、足止めに使う!

『――ガッ!!』

鎧仮面が、ロメオの“打突倍化のナックルバスター”に毆り飛ばされてきた!

「チャンスよ!」

り口に向かって駆ける!

『“瞬間移”!!』

「――ムーブメント!!」

転移直後の奇襲を躱し、待ってくれていたロメオの元へと辿り著く!

「行くわよ、ロメオ!」

ビッチィの魔法の雨と“魔法生式”による魔が、良いじに足止めになっている。

「“裂撃火”!!」

炎拳!」

迫ってきたドワーフのハンマーを、炎を纏った拳で打ち返すロメオ。

「逃がさないよ――“飛王剣”!!」

「――“超高速”!!」

あのいけ好かない王子野郎の斬撃から、フェノーゼがビッチィを助けた!!

「“徒手炎拳”!!」

「クソ!!」

纏う炎の拳で追撃し、ドワーフを後退させるロメオ!

「――ハイパワーウィップ!!」

『なに!?』

勘で、転移してきた仮面鎧を打ち払う!

「ロメオ、急ぎ――」

あの魔導師の魔法が、時間差で連続して襲ってくる!!

――衝撃波に襲われた……けれど、運良くり口まで辿り著けた!

「ロメオ、後は貴方だ……け」

こちらに向かって走っていたロメオのお腹から、あの派手な剣が突き出て……いる?

「お逃げく……ださい、ユウコさ……ま」

……ロメオの手には、“調合”で作られたダイナマイトが――

「まずは一人」

「――フレイムカノンッ!!」

発が起きるのと、王子然とした男が涼しい笑顔でロメオの首を刎ねたのは……同時だった。

「――走れ、このバカ!!」

アーノゥに擔がれながら、エリア最深部から遠ざかっていく時間が……酷く他人事に思える。

どれくらいのあいだ逃げ続けたか解らないの、やがて、クエストは無に終わりを告げた。

……また、失ってしまったんだ。

もうしで、犠牲を出さずにSSランクを手にれて……全員無事に帰還できるはずだったのに……。

「ぅぅ……――ぁぁああああアアアアアアアッッッ!!!!」

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