《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1737話 思いの丈をぶつける者達

「これはこれは、久しぶりですな、玉稿殿」

この場に居る天狗達の中で一番位の高い『前従五玄孫ぜんじゅうごやしゃご』の歪完ゆがんは、突如として門を開けて現れた『鬼人族』の族長である玉稿に軽く頭を下げて挨拶を行うのだった。

そしてその歪完を倣い、他の『前従五玄孫ぜんじゅうごやしゃご』の面々や、配下の天狗達玉稿に頭を下げ始める。流石に一介の鬼人とは違い、鬼人族の長が相手ともなれば、天狗達もそれなりの禮を盡くす様子であった。

「お主は天狗族の歪完といったか。こんなに天狗共を引き連れてワシらの縄張りにってくるとは……。一何事だというのだ?」

口調は冷靜そのものではあったが、その歪完を睨みつける視線は鋭く、返答次第ではただでは済まさないといった圧力がじられるのだった。

「実は貴方がたの縄張りに向けて人間達が山を登ってきているという報告がりましてな。事を確認するように天魔様から直々に命令を仰せつかって、儂らがきたというわけなのです」

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ニコニコと笑いながら事を説明する歪完だが、玉稿は彼らの本をよく知っている為に、苦蟲を噛み潰したかのような表を浮かべるのだった。

「そうかそうか、それはご苦労な事だ。流石は山の中腹を管理されている天狗族だ。しかし何も心配はござらんよ、歪完殿。ここに居る人間の方々は、人里で迷って困っていたワシらが同胞をここまで屆けて下さったのだ」

「ほう……、そうでしたか! いやいや親切な人間も居たようですな。儂らはてっきり人間達が貴方がたの集落に居た紅・羽・殿・が引き起こした出來事の報復を行おうとしてここまできたのかと思い、同じ山に生きる者達として心配していたところでしたぞ」

(いちいち嫌味な奴らだ。いつまでもねちねちと紅羽様の起こした事変を引き合いに出しおって……)

歪完が口にした事変とは『妖魔団の』の事であり、あの妖魔山の多くの種族を巻き込んだ人里襲撃は、天狗達も大きな事変として重く見ており、その事変の代表として行を起こした鬼人族の紅羽の事は、今でも何かあればこうして引き合いに出されるのであった。

「そうであったか……。しかし事は先程話をした通りだ。心配して貰った事は嬉しく思うが、こちらには何も問題はない。さぁさぁ、さっさとこの大勢の者達を引き上げさせてくれぬか?」

「いやいや、それは出來ませんなぁ」

「何……?」

「はっはっは。すみませんが天魔様に人間共を連れてくるようにとも指示をされているのですよ。貴方がたにどんな理由があったにせよ、この妖魔山の中腹付近の管理をしているのは天魔様だ。勝手に人間共をここにれてもらっちゃ困りますよ、玉稿殿?」

話は纏まったと考えた玉稿が天狗達を引き上げさせようとしたが、彼らは素直には帰ろうとはしなかった。

「勝手はどっちだ天狗共! 帝楽智殿がかつてのように『天魔』として山の最奧に居た頃ならいざ知らず、ワシらの縄張りにずけずけとり込んできておいて、勝手に自分達の縄張りと主張を始めた恥知らずの天狗共が、何を宣っておるかっ!」

「「!」」

鬼人族の玉稿のその言葉は今まで會話を行っていた歪完だけではなく、他の『前従五玄孫』の面々や集落を取り囲む天狗達の表をも一変させたのであった。

「おやおやおやぁ? 今のは流石に聞き捨てなりませんぞ、玉稿殿? 確かに貴方がた鬼人族が先に縄張りを張っていた事は否定しませんが、儂ら天狗は貴方がたにちゃんと了承を得た上で、この中腹に縄張りを持った筈ですよねぇ? 更に言えば悟獄丸様や、殿鬼殿たちが居なくなった後の貴方がたをこうして長きに渡って面倒を見てやっているというのに、謝こそされどそのような事を口にされては、儂らも黙ってはおけませんぞ?」

細い目をしていた歪完の目が見開き、玉稿を鋭く睨みつけながらそう口にするのだった。

「だったらどうするというのだ? 全く何を言うかと思えば! これだけの數を集めてきておいて、最初から強引に人間達を連れて行こうとしておった癖に、お主は相変わらず白々しい愚天狗だな! 何を言われてもワシらは彼らを主らには差し出さぬ! 分かったらさっさとこいつらを連れて去ね! 文句があるのならばワシら『鬼人族』はいつでも相手をしてやるぞ、業突張りの天狗共が!」

――玉稿が啖呵たんかを切った瞬間、遂に天狗共が一斉に玉稿を含めた、集落の鬼人達を相手に殺気を放ち始めるのだった。

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