「そ、ソフィさん……」

心配そうな表を浮かべながら忍鬼は、自分の方を向いたソフィに呟く。

「お主と再び會えてしの間とはいえ、しっかりと話を行えたことは非常に喜ばしい事であった。先程も口にした事ではあるが、お主の為をと思った言葉だったとはいえ、お主の気持ちを蔑ろにしてしまうような発言を許してくれ」

玉稿が開いてくれた酒宴の場でも話した容を再びソフィはこの場でも口にする。それだけソフィにとっては忍鬼に対して告げた言葉は、とても気をんでいた事であったようである。

忍鬼はそのソフィの言葉を聴き、再び首を橫に振って笑みを浮かべた。

「私は貴方に出會えたおかげで、今こうしてこれだけの幸せを手に出來ているの。あれだけ嫌っていた人間に対してもこうして接する事も苦じゃなくなった。それも全てソフィさんとあの森の中で出會えたおかげなの。だからソフィさんには謝ってほしくない。また必ずここに顔を見せに來てしい。その時はしっかりと謝を形にしたいから……」

忍鬼は噓偽りのない本音を口にした後、その目からぽたりと涙が溢れ出てしまう。

々と彼の中で制しきれないがこみ上げてきたのだろう。謝罪を行うソフィの気持ちと、そのソフィに対して謝をする気持ち。更には自分達鬼人族と天狗族の問題にこうして巻き込んでしまい、剰えソフィはその天狗の首領に直接目をつけられて連れていかれようとしている。

々なが綯いぜになり、笑っていたいと思う本心とは裏腹に、こうして能的に『忍鬼』は涙を流してしまったようであった。

「あ、あれ……？　あ、あう……」

慌てて手で涙を拭く忍鬼だったが、次から次に流れる涙を止められず戸う言葉が口かられ出るのだった。

それを見たソフィが慌てて忍鬼に聲を掛けようとしたが、寸でのところで思い留まる。

何故なら隣に立っていたイバキが、瞬時に懐から一枚の布を取り出して、慣れた所作で忍鬼の顔を拭いて見せたからであった。

そしてそれを見たソフィは、直ぐに彼らの今の関係を知り、そして先程の忍鬼の『人間に接する事が苦ではなくなった』という言葉の本質を理解して笑みを浮かべるのだった。

「クックック……！　イバキ殿、今後も忍鬼の事をよろしく頼むぞ？　お主は我から見ても大変素晴らしい人間だ。お主がこの子の傍に居れば何も問題はあるまい」

「え、それは……うん、そうだね。俺も彼を大事に想っている。彼の事は俺に任せてしい」

真剣な表を浮かべてそう告げたイバキに、顔を赤らめる忍鬼の両名の顔を見たソフィは、改めて慈しむような表を浮かべるのだった。

その表はかつて『アレルバレル』の世界に存在する『霊王』である『ミューテリア』が、自分のする霊の子達に向ける表と瓜二つであった。

――だが、そのソフィの見せた表は、唐突に豹・変・さ・せ・ら・れ・る・事・と・な・る・の・で・あ・っ・た・。

「いい加減にせぬか、いつまでその三文芝居を続けて儂ら天狗達を待たせるのだ！」

どうやらソフィ達が逃げぬように、華親に命じられてこの場に殘っていたのだろう一の天狗が、ソフィと忍鬼達の別れの挨拶が思った以上に長引いた事で、自分だけが待たせられている事に腹を立てたのだろう。

その天狗は怒鳴りながら、何と『魔力』の余波をその場にいる者達に向けて放ち始めるのだった。

「危ないっ！」

一番その天狗から近くに居た忍鬼が、天狗の『魔力圧』の脅威に曬された瞬間、先程忍鬼を守ると口にしたイバキが、その言葉に偽りなく彼を守ろうと余波からをして庇おうとした。

しかし、流石に『特別退魔士とくたいま』とはいっても、ランクがあまりにも違いすぎる高ランクの『天狗』の魔力の余波をまともにけてしまった所為で、イバキは忍鬼を抱き抱えたままでその場から吹き飛ばされてしまい、集落の門にそのまま激突してしまうのだった。

「あぐっ……！」

「い、イバキ！？」

忍鬼を抱き寄せたまま、イバキは門に激突して頭からを流してそのまま意識を失ってしまった。何とかを守られた忍鬼は無事だったようだが、自分を庇ってを流して意識を失ってしまったイバキに、ソフィに見せていた涙とは別の種類の涙を流しながらその名をぶのだった。

突然の出來事にその場に居た者達の時間が止まったかの如く靜止するが、その中でた・っ・た・一・人・の・大・魔・王・は、目を見開きながら起こった出來事を頭でゆっくりと理解しようとしていたが、そこに追い打ちをかけるように天狗の言葉を耳にしてしまうのだった。

「ちっ！　薄・汚・い・人・間・が・出・來・損・な・い・の・鬼・人・を守るとは、これまた忌々しい……！　まぁいい、そ・の・ま・ま・さ・っ・さ・と・死・ん・で・し・ま・え・！」

ソフィは心臓がどくどくと波打つ覚を味わうと共に、起こった出來事を完全に頭で理解し終える。

そのままソフィは何かに突きかされるように無表のままで倒れているイバキと、心配そうに涙を流してイバキの名を呼ぶ続ける忍鬼たちの元に寄っていくと同時に救済ヒルフェの魔法をかけるのだった。

「オイ！　いつまで待たせれば気が済むのだ！　さっさと移を始めんかノロマ共が！！」

再びび聲をあげた天狗は『後従三子ごじゅうさんし』と呼ばれる高い位を持つ『天狗』であり、その名を『邪未じゃみ』といった。

先程の魔法によってみるみるに生気を取り戻していくイバキを見て、小さく息を吐いたソフィだったが、やがて彼はその場で立ち上がると、邪未に向けて憤怒の表で睨みつけながらその口を開いた。

「許・さ・ぬ・、貴・様・ら・を・皆・殺・し・に・し・て・や・る・……！」

かつて『アレルバレル』の世界で『第一次魔界全土戦爭』が起きたあの時と、全く同じ景が大魔王ソフィの前に広がり、剰えその時と瓜二つの狀況が彼の脳にフラッシュバックしたかと思えば、次の瞬間には気が付けば彼はそう口にしていたのだった。