《裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚》370話
食堂へと場所を移した俺らは夕食の準備をしているやつらに斷りをれて、あまり邪魔にならないだろう端のテーブルを借りることにした。悪いとは思いながらも斷りついでに軽食も頼んだ。の巫とかいうやつのせいで小腹が空いたからな。
俺が座ると隣にアリアが座り、正面にニア、ニアの隣にセリナが座った。
食事係の村人がお茶とサンドイッチとクッキーを置いて離れたところでお茶を一口含んでの渇きを潤した。
「それで、さっそくだがドルーゴから聞いた話を教えてもらっていいか?」
「はい。それでは脅威度の低いクルムナの新しい武からお話しようと思います。」
ニアは言葉を區切るとアイテムボックスから紙の束を取り出し、俺によく見えるようテーブルの上に広げた。
紙には車のついた筒と丸い玉と魔法陣と思われるものが描かれていた。
「…大砲か?」
「さすがですね。」
なぜかニアは嬉しそうに微笑みながら俺を褒めてきた。
なるほど。これが相手をその気にさせる“さしすせそ”か。わかっていても悪い気はしねぇな。
「リキ様の國では當たり前に使用されている大砲なのですが、この大陸ではカヤクというものが作れなかったらしく、その代用となるものを探し求めた結果この魔法陣を使用する案が採用されました。この魔法陣は10年ほど前に作られた初期案らしく、今は改良されているのですが、さすがに新しい魔法陣はドルーゴさんも見ることはできないとのことでした。」
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大砲が當たり前に使われてるところなんて見たことねぇよ。勇者発案だとしたらいつの時代の人間だ?
「俺の國うんぬんは一旦置いておくとして、大砲が隣の國で開発されたってのはけっこうな脅威だと思うんだが?」
「大砲は外壁に対しては特に効果を見込める武ではありますが、基本的に真っ直ぐにしか飛ばすことができないため、森の中に存在するカンノ村にとってはそこまでの危険はありません。即座に狙いを定められるものではないようなので対人向けではありませんし、仮に直撃したとしてもカンノ村の住人でしたら重量差で吹き飛ばされることはあっても致命的な怪我を負うことはないでしょう。レベルを上げていない人間にとっては脅威でも、おそらくリキ様でしたら片手で払える程度だと思います。」
そんなわけねぇだろといいたいが、レベルを上げたことでだいぶ人外じみてきているから、ニアがそういうなら本當に出來ちまうんだろうな。
「大砲があるってことは鉄砲みたいなのもあるのか?」
「やはりご存じなのですね。こちらが鉄砲になります。……し失禮します。」
鉄砲も存在しているらしく、ニアがアイテムボックスから猟銃のようなものを取り出し、一度全像を俺に見せてから俺に向かって構えた。
銃口を人に向けるとか何考えてんだ?
危ねぇだろと止めようとしたら、その前に失禮しますとかいって魔力を込めて撃ってきやがった。
意味不明すぎて驚きつつも左肩目掛けて飛んできた小さな鉄の塊を反的に右手で摑んだ。
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「あっつ!?」
『ハイヒール』
素手で摑んだせいで回転していたらしい鉄の塊を無理やり止めることになり地味に熱くてすぐに放り投げた。
何が起きたのかがアリアにも見えていたのか、すぐに回復魔法を使ってくれたおかげで既に痛みはないがマジで何やってんだ!?
「攜帯出來る大きさにすると刻み込める魔法陣に限界があるため、この距離で撃ってもレベルを上げた近接戦闘に慣れている者には簡単に摑んだり避けたり出來てしまいます。」
だからって人に向かっていきなり撃つとか頭おかしいだろ。いや、奴隷紋の設定を変えてないのに普通に撃てて苦しむ様子もないってことはこの程度は攻撃ですらないってことか?
俺が疑問に思っている間にニアは今度は隣のセリナの腹に銃口を向けた。
「セリナさん。避けないでくださいね。」
「え?ちょっと待って!?っ!!!痛いんだけど!?!?!?」
『ハイヒール』
セリナの制止の聲を無視して躊躇なく撃ちやがった。
アリアがすぐに回復魔法を使ったからどの程度の傷を負ったのかはもうわからないが、最近よく著ている全タイツみたいなものに小さなが空いただけで、その下の皮からはすら出ていないように見えた。
全タイツみたいなやつはアクセサリー加工されてるっていってたから防力なんてないだろうにこの距離で撃たれて弾くのかよ。
「この村では比較的防力の低いセリナさんに直撃してもり傷すら與えられません。目に當たれば一時的に視力を奪われるという可能はありますが、視界にれば目に當たらないように避けるくらいは出來る速度で弾も軽いので、弱い魔かレベルを上げていない人間相手くらいにしか使えません。弾も鉄砲に合わせて作られた専用のものしか使えないため、お金はかかるのに使い道のない鉄砲を使用する冒険者はいないそうです。」
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この世界はレベルを上げると音速で飛んでくるものを目で追えるどころか反応できるのが普通なのかよ。実際にこの銃が弾を音速で飛ばせているのかはわからないが、仮に直撃しても痛いだけとかヤバいよな。もしこの世界でレベルを上げた勇者がその強さを維持して日本に帰れたりなんてしたら調子に乗って世界征服とかしかねねぇな。
説明は終わりのようで、銃と追加でアイテムボックスから取り出した弾がってる箱を俺の前に置いた。
これは俺にくれるってことなんだろうが、使い道のないものを渡されてもな……まぁ銃は嫌いじゃないからコレクションとしてもらっておくか。特別好きなわけでもないからアイテムボックスのやしになるんだろうけど。
一応アイテムボックスにしまう前に一通り見たが、使い方はなんとなくでわかるくらいに簡単な作りだった。わりと力を込めて各部位をかしても壊れそうな気配がないし、やけに頑丈に作られているようだ。まぁ中で発させてるんだから頑丈なのは當たり前か。
弾を込めるところを開いたときに掘り込まれている魔法陣のようなものがし見えたが、もちろん見たところでよくわからない。ただ、狹いスペースにみっちりと描き込まれてるところを見るにあまり小さくすると描ききれないからハンドガンじゃなくてわりとデカめな猟銃みたいな形になってるのかもな。
試し撃ちはさすがにする気が起きないから、銃と弾をアイテムボックスにしまい、あらためてニアに目を向けた。
「俺らにとってはたいした脅威ではないのは確かみたいだから、よほど改良されない限りは問題なさそうだな。あと、さすがに大丈夫だとわかっていたとしても今後は仲間へ銃は向けないようにな。」
「はい。クルムナの開発狀況は今後も気にしておくようにします。」
……ん?今の「はい」には仲間に銃を向けないことへの了承もちゃんと含まれてるんだよな?……まぁニアなら大丈夫だろう。
「それで、あとは忌魔法についてだったか?」
「はい。まずは報を仕れるのがし遅れてしまった『忌魔法:』についてからお話しします。」
どうやらさっき『の巫』が來ていたことはニアに伝わっているようだ。
「忌魔法には膨大なMPだけではなく発條件があることは知っているかと思いますが、『忌魔法:』の発條件はだそうです。能力発後は発者が解除するかが満たされることで解除されるとのことです。魔法の効果は匿されていますが、ドレイン系統ではないかといわれています。れるだけで相手を干からびさせるという結果は知られていますが、正確な効果は歴代の所持者と保護した國の上層部にしか知られていません。ただ、歴代の『忌魔法:』所持者は若い見た目を維持していたことと、相手を干からびさせている間に恍惚な表を浮かべていたことから壽命や生気を吸っているのではないかと推測されているようです。」
「世界で1人しか使えない魔法だけあってヤバい能力だな。」
「たしかに強力な魔法ではありますが、弱點もあります。まず、が影響する能力であるため、基本的には異にしか効果がないようです。そして、れなければ効果がないので遠距離からの攻撃で殺すことが可能です。今までの『忌魔法:』所持者はこの方法で殺されていたため、魔法の効果に自のステータスを上げる効果はないのだろうといわれています。」
遠距離で殺せるなら相手がよほどレベルが高いとかでもなければそこまでの問題はなさそうか?
あの『の巫』とかいうやつも國が意図的にレベルを上げさせないようにしているのかは知らんが、本人の戦闘能力は低そうだったし。
「それならなんとかなりそうだな。」
「はい。特殊な質ではない人間が得ていたのでしたら問題ありませんでした。ですが、今回の『忌魔法:』所持者である『の巫』はその弱點を自の特殊質によりほぼ補えてしまっているため危険です。異であれば視界に『の巫』がるだけで敵意を失うそうなので、簡単に近づかれて殺されてしまうでしょう。対抗手段としては神攻撃耐のある同が聲も匂いも屆かない距離から攻撃するか、神攻撃無効を手にれるくらいしかなさそうです。ただ、今回リキ様は『の巫』を視界にれるだけでなく、目を合わせて會話をしていたのに魅了されずにすんだようなので、リキ様にとっては問題ない相手かもしれません。」
「いや、問題大アリだ。あいつを前にしたら敵意を持てなかったし、周りにアリアやセリナがいなけりゃあいつとの會話で魅了まではされずとも仲間としてけれていた可能が高い。聲も匂いも屆かない距離からの攻撃が有効と知れたのは助かる。」
「お役に立てて嬉しいです。」
俺が謝した側なのになぜか嬉しそうに微笑んだニアが話を続けた。
「次は『忌魔法:憤怒』についてです。名前だけは昔の記録にもあるらしいですが、魔法の効果については前回の所持者である『憤怒の悪鬼』が國を一つ落としたことで初めて知ることになった忌魔法のため、あまり報がないようです。とある國が忌魔法所持者を得るために鬼族を集めて奴隷とし、げて怒りを溜めさせることで、どこかにいるであろう所持者が死んだ際に『忌魔法:憤怒』を得ようとしたそうです。魔法名からの予測で行った実験だったようですが、結果として鬼族の奴隷の1人が『忌魔法:憤怒』を得ることが出來たそうです。そして、その忌魔法所持者により國を失うことになりました。その國の生き殘りの騎士や兵士からの証言によると発者である『憤怒の悪鬼』が異常なほど強くなっていたとのことなので、魔法の効果は大幅なステータスの増加である可能が高いといわれているそうです。ただ、魔法発後は敵しか見えなくなってしまうのか、もしくは全てが敵に見えてしまうのかはわかりませんが、『憤怒の悪鬼』は奴隷とされていた仲間の鬼族ごと殺していたようです。仲間とわかったうえで國を落とすのを優先して仲間殺しを許容した可能も否定はできませんが、奴隷の首をしたまま國を落としたそうなので、魔法を発中は相手を正しく認識できていない説が有力とされています。」
なんで商人が生き殘りの騎士の話した容まで知ってるんだ?と思ったが、一度しか使われた記録がない忌魔法なのにニアは有名だといっていたし、衝撃的な事件だったから細かい容まで広く伝えられてるとかなのかもな。
「大幅なステータスアップは魅力的ではあるが、使いどころが難しいな。発條件を満たさなきゃ発すらできないから簡単に試せることでもないし。大幅にステータスアップは出來るかもしれないが見境がなくなる可能が高いくらいに思っておくことにするよ。まぁこんな魔法に頼らなきゃならない狀況になるつもりはないがな。」
そもそも俺1人でMPが足りるかわからないから怖くて試すことすらしたくねぇ。前に使おうとして『詠唱省略』のスキルを取っていたせいで死にかけたからな。なぜかあのときはPPが1だけ殘って助かったが、なんで1殘ったのかがわからないから次も助かる保証がねぇし、魔法の不発で死ぬとかバカらしくて試すつもりもない。
俺が『忌魔法:憤怒』を持ってることはニアにはいってなかったと思うが、今の発言で驚く様子もないところからして知っているみたいだな。いや、教えたっけか?まぁどっちでもいいか。
「いざという時に自分たちのせいで使うことを躊躇するなんてことはしないでもらえると嬉しいです。」
「忌魔法に頼らなきゃいけない狀況にならないことを祈るが、もし俺が使うことになったらニアたちは念のため逃げればいい。」
……。
…………ん?無視か?
「……最後は『忌魔法:暴食』についてです。」
逃げろに対しては返事をせずにニアが話を続けた。
「発條件は空腹で、魔法の効果はれたものをなんでも飲み込めるようになります。に吸い込まれる様子から飲み込むと表現していますが、それにより能力が上昇するようなことはないので、効果としては吸収ではなく消しているが正しいです。飲み込むことで空腹が満たされていき、ある一定を超えると効果を失うので、対処方法は遠距離からの量攻撃です。『忌魔法:暴食』はもともと有名だったので発條件や能力についてはほぼ知られていたのですが、ニクイヨツ帝國とクルムナの戦爭で対処法まで確認されました。以前、マナドールさんとイーラさんが戦ったさいの狀況を思い出してみても同じ結果となっていたので間違いないかと思います。」
…そういや前にそんなことあったな。
イーラが使っているのを見たうえにアリアからも軽く説明をけたのにすっかり忘れていた。まぁ忌魔法は仲間が持っている間は敵が使うことはないから覚える必要がないと判斷したのかもしれん。
というか、忌魔法は膨大なMPが必要なはずなのにやっぱりイーラは1人で発できるんだな。
「れなければいけないところはと同じだが、暴食の方は相手の攻撃も無効にできるわけか。ただ、対処法まで知られているんじゃ使いづらいな。」
「イーラさんの場合は『忌魔法:暴食』の上位互換といえるほどに長した『捕食』のスキルを持っているので、使う必要がないかもしれません。『捕食』でしたら消化に多の時間はかかりますが、『忌魔法:暴食』と違って飲み込むだけでなく吸収出來ますから。ただ、『捕食』が長したのは『忌魔法:暴食』を得たおかげだと思うので無駄ではなかったとは思いますが。」
「スキルの長?どういう意味だ?」
「忌魔法を所持していると、その発條件をじやすくなるとのことです。なら、憤怒なら怒り、暴食なら空腹をじやすくなります。本來であれば魔族であるイーラさんは空腹になることはありませんし、既に強くなっているので人以外を食べたいと思うこともないはずなのですが、忌魔法のせいで空腹をじ、それを満たすためにあらゆるものを捕食してきたことでスキルが長したのだと思います。本來の『捕食』は弱い種族が生き殘るために使用する程度のスキルで、強くなってからは魔族は人以外をわざわざ食べることがなくなるため、忌魔法を超えるほどにスキルが長することなんてあり得ません。もっといえば、空腹をじない魔族が『忌魔法:暴食』を得ること自があり得ないのですが、リキ様がイーラさんに命令で々と食べさせて特殊な進化をさせたことで得られたと聞いています。つまりはリキ様のおかげですね。」
「そんなわけねぇだろ。」
それを俺のおかげというのは無理があるだろうと苦笑で返答したんだが、ニアは微笑みを返してきただけだった。
ニアは俺がイーラに命令していろいろ食べさせたかのようにいっているけど、イーラは『忌魔法:暴食』を得る前からある程度強くなっていたのに自分でいろいろ食ってた気がするんだが。その頃はニアが仲間になる前だから誰か…おそらくアリアに聞いたんだろうが、事実が歪められてんな。
ただ、イーラに食うよう命令したことは何度もあるし、結果だけ見れば噓ともいえないからタチが悪い。……まぁいいか。
「それにしても、よくこんなに教えてもらえたな。報料とかもとくに渡してないんだろ?」
「リキ様のお役に立てるように練習していますから。」
し嬉しそうな気配を滲ませた微笑みを向けられた。
……あぁ、もしかしたらドルーゴはニアの喜ぶ姿を見たいがために々と話したのかもな。
といっても商會長になるくらいのやつだからさすがに話す容は選んだとは思うが、短時間でこんなにいろいろ話してる時點でニアの中にある程度はハマっていたんだろう。
今回はいろいろと脅威になりそうな報を得ることができたが、その中でも1番の脅威は人の笑顔なのかもしれねぇな。
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