《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1755話 大魔王ヌーの思と、試金石にされる天狗族
「お主らが去った後、そこに居る『邪未じゃみ』とやらが我の大事な仲間たちを傷つけたのだ」
ソフィは何かあったのかと尋ねてきた『帝楽智ていらくち』に対してそう告げると、視線を『邪未』に向けるのだった。
「『天魔』様を待たせているというのに、いつまで経っても出発を行わずにのんびりと挨拶を続けていたものですから、しだけ急かすつもりで行いました。軽く注意を行うつもりで魔力圧をぶつけたつもりだったのですが、なにぶん人間や若いの鬼人族でしたもので、あっさりと吹っ飛んで行きましてな、そのまま運が悪く奴らの集落のり口にあった門に衝突してしまい、そのまま意識を失ってしまったのですよ」
邪未の言い分を聞いたソフィは、そのまま再び不快をわにするように眉を寄せ始める。
あれは明らかに軽い注意といえるものではなく、退魔士であるイバキが軽減を目的とする『結界』を用いた上で忍鬼を庇わなければ、そのまま魔力圧の衝撃で命を失っていてもおかしくはなかった程である。
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「そうだったのか。それは災・難・だ・っ・た・な・人・間・。だが、これでに染みて分かっただろう? お主ら人間のような種族は、決して妾達『天狗』のような格上となる種族に対しては非・常・に・無・力・な・存・在・だという事が。今回は妾達が強引にこの場に連れてきたという事もあるが、それでもそんな妾達を待たせている以上は直ぐに行を起こすべきだったのだ。さっさとお主らがここに向かって來ていれば、お主の大事な仲間達とやらは傷つく事もなかった。鬼・人・族・に・こ・れ・か・ら・注・意・を・行・う・事・も・な・。まぁ、お・主・ら・に・関・し・て・は・、今回は妾達を待たせた事を特・別・に・不・問・に・し・て・や・ろ・う・。次回からはその人・間・の・足・り・ぬ・頭・で・よ・く・考・え・て・、理解する努力を行い気を付ける事だ」
ソフィ達のことを人間と間違う事は、彼らが別世界から來たという事を知らぬ以上は仕方のない事ではあるが、最初から人間達は『妖魔』延いては『天狗』に従うのは當然という前提で『天魔』はソフィに説教を行っている。
その事に対してソフィは、ここに來るまでに抱いていた怒りとはまた別種の不満を抱く事となるのであった。
「お主、流石にそ・れ・は・傲・慢・が・過・ぎ・る・の・で・は・な・い・か・? お主らの勝手な都合でここに呼びつけておいて、素直に応じるつもりでおった我達に対し、遅いからという理由で一方的に攻撃を行っておいて、非禮を詫びるどころか次からはこのようがないように気をつけろだと? いったいお主らは何・様・の・つ・も・り・なのだ?」
ソフィがあまりに筋の通らない『天魔』の言葉に対して反論を口にすると、その場に居た『天従十二將』を含めた大勢の天狗達が一斉にソフィに対して敵意を向け始めるのだった。
しかしその敵意の真っ只中に居るソフィだが、全く表を変えずに平然としたままで『帝楽智』からの言葉を待って見せる。
「……」
流石にこれだけの天狗達から一斉に威圧と呼べるモノを向けられて表を変えないソフィに、帝楽智も思うところがあったようで無言のままではあるが、その表がしだけ訝しむものに変わっていた。
(何故、こやつはここまで落ち著く事が出來るのじゃ? いくら強さに自信があったのだとしても、これだけの數が自分達を取り囲んでおるのじゃぞ……?)
『天狗』は妖魔の中でも高ランクとされる存在であり、幹部と呼ばれる『天従十二將』どころか、山の見回りを行うような一般的な天狗であっても、鬼人族や鵺の種族の中ではそれなりの地位に居る者と同列の強さを誇る程なのである。
そしてそんな天狗達がこれだけ大勢居る中、たった一の人間と思わしき存在に『敵意』を放っているというのに、今もその存在は帝楽智に対して何を言うか見屆けるかの如く言葉を待っている。
『帝楽智』は最初にソフィが文句を口にした時、その時もソフィに対してそれなりの評価をしていたが、流石に今の狀況で平然としている様子を見せるソフィに、もはや彼は評価をするどころの騒ぎではなくなっていた。
そして彼が何かを口にする前に、これまで帝楽智と同様に無言でソフィという存在を推し量っていた『華親』が代わりに口を開いた。
「そこな人間よ、お主こそ口には気をつけろよ? 勇ましさは時と場合によっては蠻勇となり果てる。いくらお主が人間達の中で力を持つ者だとしても、儂ら『天狗族』には決して敵わぬのだからな」
「……」
その言葉に遂にソ・フ・ィ・の・表・・か・ら・・が・な・く・な・っ・た・。
そして再び大魔王ヌーは、誰よりも早くこの狀態のソフィの危うさを理解するのだった。
(元からソフィの奴はこの場に居る天狗族とかいう連中を絶滅させるつもりだった。しかしここに來るまでにし時間が経過した事で奴はしだけ冷靜さを取り戻し、しっかりと聞く耳を持って天狗共と話を行っていた。だというのにその貴重な最後の好機となる會話の中で、この馬鹿共は自分達から生き殘る好機を棒に振るような発言と態度を取っちまいやがった。全く愚かで救いようのない馬鹿共だ……!)
大魔王ヌーはこの後に起こる事を予想し、天狗族という者達がどうなるかの未來を想像し終えた。
――そして次に大魔王ヌーが取った行は、自分とテアの安全の確保。更には自分に匹敵するであろう強さを持つ『天魔』と呼ばれていた『天狗族』の首領と、その隣に立っている『華親』に視線を送る事であった。
(アイツ帝楽智とアイツ華親だけは今の俺と同等、もしくはそれ以上の強さを持っている筈だ。奴らを試金石にして今の俺とソフィの強さを推し量ってやる!)
今のソフィと本気で戦っても勝ち目がないと理解している大魔王ヌーは、代わりに自分と同等程の強さであろうと推測する『帝楽智』と『華親』を自分に見立てて、敵わないにしてもどれくらいの差がソフィとあるのかを推し量ろうというのであった――。
――そして遂に平穏無事には終わる事が出來ない言葉が、ソフィの口から発せられるのであった。
……
……
……
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