「華親、事が変わった……。コイツはあの人間イダラマの命令の範疇に留めておける奴じゃねぇ。呑気に足止めとか考えずに『天従十二將てんじゅうじゅうにしょう』全員を向かわせて、さっさと奴を含めたこの場に居る全員を殺してしまうのじゃ！」

ソフィの形態変化を見た後、明らかに人間ではなかった事を理解した天狗達だが、いち早く『天魔』にしてこの天狗族を束ねる『帝楽智ていらくち』は隣に居る『華親かしん』に対してそう命令を下すのだった。

「て、天魔様……！　わ、分かりました」

かつては天狗族の副首領として、あらゆる苦難を天魔の片腕として乗り越えてきた『華親』は、此度に訪れたソフィ達を天狗族始まって以來の最大の危機として、警戒を最大限にまで押し上げた様子であった。

「良いか、この場に居る全ての天狗達よ！　これより司令としてこの『華親』が指揮を執る！　『天従十二將』を除いた全天狗で『呪詛じゅそ』を用いて背後に居る人間達のきを止めるのだ！　そして『前従五玄孫ぜんじゅうごやしゃご』はあの黒い羽を生やした存在の足止めに全力を注げ、次に『中従二孫ちゅうじゅうにそん』は『呪いまじな』を用いて奴に『魔力』を使わせるな！　『後従三子ごじゅうさんし』の『甘青かんせい』『煩ぼんよく』『邪未じゃみ』は散らばり、一気に持ち得る『魔』の概念で奴の距離を殺せ！　出來得る限り何もさせずに『世來二親せらいにしん』に繋げろ！　そしてよいか『世來二親せらいにしん』の『擔臨たんりん』と『壽天じゅてん』よ！　お主らは一気に力を開放して全力で奴を叩き潰すのだ！！」

「「意！！」」

『座汀虛ざていこ』に世代代を行った事で、長らく表舞臺を離れていたかつての優秀な司令『華親かしん』は、再び全天狗に対する全権の指揮を『天魔てんま』に任せられた事で、十全じゅうぜんに才を発揮するかの如くに、その采配を振るのであった。

ソフィの変貌振りに呆然と眺めていた仲間達だったが、敵の天狗達から一斉に『魔力』の高まりと、自分達に向けられた敵意を一に浴びた事により、妖魔退魔師に妖魔召士、それにテアも自分の背丈よりも遙かに長い得の武である鎌を現化させて戦闘態勢にり始めるのだった。

しかし大魔王ヌーだけが何も行わず、隣で戦闘態勢を取り始めたテアの肩に手を置くと、靜かに口を開くのだった。

「テ・ア・、何・も・し・な・く・て・い・い・か・ら・お前は俺の背後に居ろ」

「――？」（えっ？　お、おいヌー！　それは一どういう意味っ……！？）

「――」（うふふ、私・の・可・・い・テ・ア・。どうやら貴方と契約をわしているそこの魔族は、貴方を守ろうとしているようね？　ふ、ふふふっ！　どうやら中々に話の分かる・仁・のようね？　確かに貴方は何もする必要はないわ。貴方はこの私と同じ特等席でソフィの行う素敵な殺・戮・シ・ョ・ー・を一緒に楽しみましょうね？）

「――？」（えっ、えぇっ……？）

いつの間にか、大魔王ヌーと死神のテアの間に割ってるように出現した『力の魔神』は、テアを守ろうとするヌーの態度を気にった様子で満面の笑みを見せると、貴方は何もする必要はないと告げた後に、ソフィの方を指差しながら一緒に楽しみましょうとにこやかに口にするのだった。

魔神の言っている意味が分からず、テアはソ・フ・ィ・さ・ん・を・守・ら・な・く・て・い・い・の・か・と魔神に尋ねようとしたその瞬間であった――。

ソフィ達を取り囲んでいた『天狗』達が、一斉に『呪詛じゅそ』を完させた様子であり、その敵意を自分達に向けられる覚をテア達は覚え始めるのだった。

シゲンやミスズ、それにエイジやゲンロク達を含めた各々は、その天狗の攻撃に備えてきを見せようと構えたが、その先の行を取る事はなかった。

それは何故なら、大魔王ソフィがこの場で最初の行を起こしたからである。

――それこそは大魔王ソフィの『特異とくい』であった。

全天狗たちが『魔力』を伴った『呪詛』を放つ寸前、その完された筈の文言の効力が消失し、何事もなかったかの如く何も発が行われなかった。

大魔王ソフィの『金の現者』としての特異の効果とは、効果範囲に居る自と相対する全ての存在の『魔力』の『スタック』を最初に巻き直させる事であった。

これによってソフィ達を取り囲む大勢の天狗達の『呪詛』はその全てが最初に巻き戻り、そしてソフィの足止めを華親によって命令された『中従二孫ちゅうじゅうにそん』の『心しょくしん』と『學得がくとく』の『呪いまじな』の効力もまた発される事はなかった。

そしてそのまま大魔王の口から天・狗・達・に・と・っ・て・の・『殺ぎゃくさつ』を意味する詠唱が開始された。

「『敵を滅ぼす力を我はむ。我の視界にる全ての敵を躙せよ』」

大魔王ソフィがそう告げると同時、彼の両手がの正面でわるように重なると『真っ白なりの束』が次々と空に生み出され始めていく。

――大魔王ソフィが『魔神』を召喚する以外で『魔法』を扱う時に詠唱を口にする事は珍しかった。

それはつまり無詠唱の時に比べて、展開される『魔法』の威力が上がるという事と同義であり、かつて『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』に向けて放った時よりも殺傷能力が遙かに上がったことを意味する。

――魔神域魔法、『絶殲アナイ・アレイト』。

ソフィの目が金にり輝いたかと思うと、空で待機狀態にあった『真っ白なりの束』が、一直線にびて行き、一番ソフィの場所から遠くに居た天狗のを突き破った。

そして尚も『真っ白なりの束』は現化されたままとなり、そのまますでに絶命を果たした天狗のごと貫いたままのりの束が、円を描くようにその場からぐるりと高速で回り始めて周囲に居る天狗を次々と巻き込んでいくのだった。

天狗達は『真っ白なりの束』にれた瞬間に、生命を吸われているかの如く命を奪われていく。

単に意識を失っているのではなく、まるでその『真っ白なりの束アナイ・アレイト』が『九大魔王』である魔族の『エ・イ・ネ・』が放つ『生命を吸い取る鎖ビュオス・クレヴォ・チェーン』であるかの如く、れただけでランク『７』以上である筈の天狗族が、その生命を終わらせられていくのであった。

「な、くっ……！？」

グルグルと時計の針のように回り始めていく『真っ白なりの束アナイ・アレイト』に同胞達が命を奪われていく様を見せられた他の力有る幹部の天狗達は、何とか逃れようと必死に足掻き始めようとしたが……。

「何人なんぴとたりとも、決してここから逃さぬ……！」

まるで絶を屆けるかの如く、大魔王は冷靜にそう告げる。

――魔神域魔法、『転覆カタストロフィ』。

は闇に、天は地に、森羅萬象の流転。

変遷する世界、それは止めようのない移ろいを示す――。

迫りくる『真っ白なりの束アナイ・アレイト』から逃れようとしていた天狗達は、一斉に自らそのの束へと足を運ぶかの如く、そして自ら首やを切斷されにいくかのように、近づいて絶命を果たしていく。

自分が何を行っているのか理解が出來ず、またそれを見ていた者達も何をしているんだとぶが、もはやこの場に冷靜に何が起きているかを頭で考える余裕がある存在はなく、まるでそれこそが神の意思であるかのように、愚かにも大魔王ソフィに敵対した天狗達は、次々とその生を終わらせられていくのだった。

「か、華親かしん！！　なっ、何が起きている！？」

全天狗を束ねる圧倒的な存在である筈の『帝楽智ていらくち』は、普段の振る舞いとは程遠い焦った姿を見せながら、自らの片腕である『華親』に必死に尋ねるが、その『華親』は『帝楽智』の聲が一切耳にっていないかのように、そちらに反応をせずに言葉を失っていた。

『華親』は茫然とグルグルと円を描くように広範囲に渡って廻り続ける『真っ白なの束』によって、同胞の天狗達の首やが、ち・ぎ・れ・て・・飛・沫・を・上・げ・な・が・ら・絶・命・し・て・い・く・姿・を目に焼き付けるかの如く、視線を奪われるのであった――。