《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1794話 組織の長の座に相応しくない者

妖魔召士組織が『シギン』を妖魔召士の長とする次代へと移った後、新たにシギンが作った役職に就いた『イッテツ』『ノマザル』『コウエン』『サイヨウ』を筆頭とした守舊派の妖魔召士達は、これまでの組織以上に力をつけていき、総本山である『ケイノト』の町ならず、比較的近くにある『サカダイ』や『コウヒョウ』の町にも影響力をばしていった。

妖魔召士自の數は、毎年一定の數しか増えない為に、人海戦などが増したというわけでもないが、例えば妖魔が町の付近に出沒して襲ってきたという話を聞けば、直ぐに『四天王』である妖魔召士が數日に渡って派遣されて、無事が確認されるまでしっかりと監視制を築いて町民達を安心させたりと、やっている事はそこまで難しい事ではないのだが、そういった小さい事の積み重ねをひたすらにシギン達は毎年重ねていったのである。

元々金子や地位などに対して何にも『』がなく、興味がなかったシギンは、妖魔から町を守った禮なども言葉だけで十分だと一切け取ろうとしなかった。

もちろんそんな事ばかりしていては、組織としてり立つわけがなくなる為、ある程度はけ取らなくてはいけないときもあるが、それすらも最小限として組織が上手く運営が出來る分だけしかけ取らなかった。

當然に『サカダイ』や『コウヒョウ』の町々に生きる町民達は諸手を上げて喜んではいるが、逆に組織に屬する『妖魔召士』達や、その家族たちに不満が溜まらない筈もない。

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戦力面では近年どころか歴を見ても類を見ない程のシギンの代の『妖魔召士』組織ではあったが、やがては齢を重ねるごとにしずつ不満を持ったそういった退魔士達が、ながらに徒黨と呼べるような數ではあるが、群れていく様子がしずつ出始めていった。

そしてそうした者達は、自分達こそがもっと組織を潤わせる事が出來ると、誰もが不幸にならないと提言する『改革派』なるものを生み出していき、組織の側からしずつその一派の影響を広げ始めて行った。

當初はあまりその『改革派』なる一派も、妖魔召士組織全には影響を及ぼさなかったが、誰もがシギンや『四天王』と呼べるような外に意識を向け続けられる者達ではない。

妖魔から民達を守る事には優秀な『守舊派』達だが、その実、自分達が貧しくなっていくのに何も対策を取ろうとしないシギンの制に不満を抱いた者達はしずつ増えていき、やがてはかつての『』を用いて『妖魔』を無理やりに『式』にし始めたりする者達も現れ始めた。

そういった事を起こした者達の目的とは、やはりシギンを長から引きずり下ろして、別の長を立てようという運の一環だったのだろう。

もちろん『改革派』や『中立派』も正義の拠り所となる良心や、妖魔召士となる者達である以上は、その心に占める気持ちとしては『シギン』を認めてはいるが、彼らも人間である以上は生活をしていかなくてはならない。

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流石にシギンや役職に就いている者達を含めた『守舊派』も現実とは向き合わなくてはならず、仕方なくこれまでの組織と同様にけ取るべきものはけ取り、しなくてはならない事を行うというこれまでにあった組織の旗印通りに指針をかし始めていき、徐々に組織め事も沈靜化していった。

――しかし一度生まれた『改革派』という存在が消える事はなく、こちらもシギンが作った『役職』と同様に、目的といった形を変えていき、名だけが殘されていく事となった。

一度味を占めた事を忘れられず、変えられないのが人間のというものである。

力を有する『妖魔』達を強引に従えられると知った『退魔士』達は、次々と『改革派』の真似事を行い始めて、やがては妖魔達から、最優先に『妖魔召士』は滅ぼさなくてはならない人間として、認識されてしまっていくのであった。

そしてこの時に生じた組織の側の軋轢や、無理やりに契約を行わされる外側といえる妖魔達によって、シギンが去った後の組織に『妖魔団の』という事変が生み出されていく事になるのだが、元々の原因こそシギンの代の妖魔召士組織がキッカケとなったが、殘念ながら事変が実際に起きた時にはもう『妖魔召士』組織は、シギンの代ではなくなってしまっていたのである――。

しかしこの時の『妖魔召士』組織はまだ、そういった事が表立って起きるような切迫した狀態とまではいかず、あくまで『改革派』の中にそういった事を行う者達が居るという程度の狀態であり、組織としては生活における問題が一部を殘して沈靜化した時點で放置される事となった。

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…………

この時にはもう三十代半ばとなっていたシギンは、依然として組織の運営といった政には興味を見せないが、自の『魔』の探求だけは変わらずに続いていた。

自分が任務をける立場ではなく、他人に任務を指示する立場となっている長のシギンであるが、妖魔達が町の近くに現れたと聞けば、率先して妖魔達の元に長であるシギンが自ら出向く。

この時にはもう山から下りてきて、町の付近に現れる妖魔など相手にすらならなくなる程にシギンは強くなっていたのだが、それでも日々の『魔』に対する疑問が消えることはなく、その解決の為に何かきっかけはないかと実戦を通して『魔』の研鑽を始めている様子であった。

年を追うごとにシギンの『魔』に対する疑問は複雑化を果たしており、今ではもう同じ妖魔召士の『最上位』に居る者達や、ノマザルにコウエンにイッテツといった『四天王』ですらシギンが何を言っているのか分からなくない程に『魔』の領域は進んでしまっていた。

この時のシギンが著手している『魔』の疑問は、鵺や天狗達の持つ『呪詛』や『呪いまじな』といった『力』に対して、どういって抗う事が最善となるのかといった容であった。

あくまで『呪詛』や『呪い』を防ぐ手立ては既に確立されていて、ただ単に戦いの中でそういった脅威からを守る事は難しくはないのだが、実際にその鵺や天狗達の『呪詛』や『呪い』をそのけた時、神を相手の支配下に置かれた後に、どうすれば神を元に戻したり、克服した後に次の時にもっと楽が出來るような『免疫』じみた神を作るまでの道筋をどう立てるのかといった風な疑問を抱いていたのだった。

もちろんそんな疑問を自分以外には、誰も解決できるとは思っていない為に『コウエン』達にも話をしてはいないのだが、そんな彼にも一人だけその悩みを打ち明ける者が居た。

――それこそが、自分よりも遙かに若い妖魔召士の『サイヨウ』であった。

當然、明確な解決策を提示してくれるわけではないのだが、このサイヨウに話す事で解決への糸口がひらめいたり、そのまま解決までの道筋が構築された事も一度や二度ではなかった為、本當に解決に窮する事態に陥った時にはこのサイヨウに悩みを話すシギンなのであった。

「――という事で現在は『呪詛じゅそ』や『呪いまじな』に悩んでいるのだがな、神自が囚われるという事は分かっているのだが、その後の狀態とは『天狗』や『鵺』どもが自由にれるとお前は思うかね?」

妖魔召士組織が総本山とする『ケイノト』の中、事務所として使っている建の一室でシギンは、機に頬杖をつきながら呼びつけたサイヨウに疑問を投げかけるのだった。

「ふむ、どうでしょうな……。しかし妖魔達の扱う『呪詛』や『呪い』も結局は、我々人間達が扱う『捉』と同様に『魔』の技法を主となるモノです。こればかりは実際にけてみなくては結果は分かりませんが、それでも分かっている事は、鵺も天狗も妖魔であるというのに、人型となった後には何を喋っているのかが我々にも伝わってくるという事ですな」

サイヨウの返答を聴いていたシゲンだが、途中から知りたい容としだけ違う容になって言葉が返されてきた事で、いつも通りだなとばかりにシギンは苦笑いを浮かべるのだった。

「それはあれか? 意思の疎通を行えているからこそ、それが奴ら妖魔の『呪詛』や『呪い』の神支配が、俺達人間に対して効力を及ぼす事が出來ているのだと言いたいのか?」

シギンはそうサイヨウに確認を取るような発言を返したが、直ぐに自分が本當に知りたい事が何かをもうし分かりやすく伝えようと口を開きかけたが、再びその前にサイヨウが被せるように言葉を吐き出してくるのだった。

「ええ、その通りですよ、シギン様。そして貴方が本當に知りたい事とは、その脳や神が浸食された狀態は的なもので、一度その狀態に陥った後にも妖魔達が思うが侭に、我々をれるかどうかを知りになられたいのでしょう? ハッキリと言いますが、それはけ手側となる、我々人間側の耐魔力次第ではないでしょうか? 例えばその『呪詛』や『呪い』によって、け手側の自我が消失した時であっても、それ以上我々に命令をけさせようとするのであれば、その仕掛けた側の『魔力』と、我々の『耐魔力』の相反する結果次第といえるのではないでしょうかね」

「お前……、俺が求める答えを有している癖に、わざと理解させないような言い回しを選びやがったな?」

「ふふっ、何を仰られるのやら。小生はいつでもシギン様の為にと思って、相談に乗っているつもりですぞ? そうであるというのに、わざわざシギン様を困らせるような言い回しをする筈がありませんよ」

そう口にするサイヨウだが、一本取ってやったといわんばかりの目をしていたのであった。

「ふふふっ! 全くこれだから天才の相手はしづらいのだ」

「ははははっ! シギン様が言うと、これまた厭味にしか聞こえませんぞ?」

二人の『魔』の天才は、二人だけしかいない部屋の中で盛大に笑い始めるのだった。

そして互いに笑い疲れを見せて、しの間を置いてからシギンは表を戻しながら再び口を開いた。

「サイヨウ、俺はもうすぐ『妖魔山』に向かおうと思っている」

「!?」

部屋に用意されていた度數の高い酒を口に運んでいたサイヨウは、その突然のシギンの言葉に徳利を持つ手を止めた。

サイヨウも目を険しくさせながら、視線だけでその先の言葉を促す。

「もうあの山以外でこの俺の『魔』に対する疑問を解決させられる者はいない。先程の疑問もその一つだが、たまに麓に下りてくるような『天狗』や『鵺』を待っていては、俺の殘りの限られた壽命では、この先の全ての疑問の明確な答えを用意する事が不可能だ。時間がない……」

まだシギンは三十代半ばであり、この時代の人間であっても、あとどれくらい生きれるかなど、そんな壽命を考えるような年齢ではない筈であった。

――しかし、それは普通の人間であったらの話である。

このサイヨウの眼前に居る『シギン』という男は、これまで挫折を味わったことがない程の大天才にして、いつまでも『魔』に対しての疑問と、解決を行おうとする意思を持ち続けて尚、今も研鑽を積み続けている妖魔召士である。

本來であれば分からない事があっても、直ぐに解決が出來ない容であれば諦めるところをこのシギンは、絶対に解決するまで諦めない男である。

そんな彼はサイヨウには、及びもつかない程の『魔』に対する疑問を多く抱えている事だろう。

その悩みを全て解決する為には、もう彼自や、自分達『最上位妖魔召士』では解を出す事に対して不足してしまっており、悩んだ挙句の結論が『妖魔山』なのだろう。

彼の『魔』の疑問の多くは、その大半が『妖魔』に関する事や、サイヨウ達の知らない『理』という世界にない概念から生み出される『魔』の技法、いわゆる『魔法』と呼ばれる容のものが多い。

最初はそんな疑問に関して悩みの相談を『四天王』達にも打ち明けていたシギンだったが、今はもう自分を除けば誰にも相談しているという話を聞かなくなった。

つまりはもう妖魔召士シギンは、の危険が迫ろうとも疑問を解決する為には、あの高ランクの妖魔が蔓延る『妖魔山』に行くしか解決の糸口が見つからないと結論を下したという事なのだろう。

「貴方は、やはりどこまでいっても『魔』の探求者に過ぎないのですよ。こんな言葉は失禮だと分かってはいますが、是非この場で小生に言わせて頂きたい」

「何だ?」

「貴方は妖魔召士の長には相応しくはない。退魔士達の事を思うのならば、今・す・ぐ・に・組・織・の・長・の・座・か・ら・降・り・る・べ・き・で・す・」

シギンを見つめるサイヨウの視線は、先程までの冗談を言うような様子ではなかった。

そのサイヨウの視線を真っ向からけ止めたシギンは、自らもサイヨウを睨みつけ始める。

互いに十數秒ほどの長い時間、視線をわし合っていただろうか。

やがてシギンから目を逸らすと、酒を手に取り一気に呷るようにに流し込んだ。

「ああ……。俺も長らくそう考えていた。お前に言われなくてもな……」

そして切なそうに目を細めながら、まるで自分に言い聞かせるような小さな呟きでそう告げるのだった。

「シギン様、例の『改革派』の連中の事は分かっていますよね?」

「うむ。奴らが企てている事は、もう麓や町周辺に現れる妖魔ではなく、あの『妖魔山』が狙いなのだろう?」

「ええ、それも前回の不満を発していた連中とは関係がない、元々は『中立派』として過ごしていた連中が大元となっていているようですな。表向きは『改革派』のせいとしておるようですが」

「そいつらの狙いは『妖魔山』の妖魔を従える事か?」

そのシギンの直球に対してサイヨウは視線を外した。そして直ぐに答えを示さずに、ぼかすように言葉を選び始めて、やがて視線をシギンに戻しながら口を開いた。

「どこの一派が頭なのかまでは小生達も把握しておりませんが、事がき出しているという事実は間違いありません。すでに『イッテツ』殿や『ノマザル』殿と協力して首謀者の炙り出しをはかっているところですが、奴らは鬼人の『殿鬼でんき』に『紅羽くれは』、そして鵺の『真鵺しんぬえ』。更には、妖狐の『王琳おうりん』辺りを従わせようとしていると思われます。そして最終的な狙いは貴・方・の・暗・殺・でしょう」

そして言いたい事を全て言い切ったサイヨウは、しだけ不安そうに眉を寄せながら、視線をシギンと合わせるのだった。

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