シギンが気付いたその『魔力』の持ち主は、ソフィがシゲンやミスズ達と足を運んだ時代の『妖魔山』でも同じに封印され続けている『煌阿こうあ』と呼ばれる妖魔の事であった。

その煌阿は、この時代にはまだ『殿鬼でんき』のを乗っ取っているわけでもなく、あくまで神と呼ばれる狀況で『封印結界』を張られた札の側で日々、々と行える『魔』の技法を外に向けて試し続けているのだった。

この『封印結界』の札を用いた妖魔召士は、すでに數百年前に煌阿の封印を見屆けた後に亡くなっている。

――その妖魔召士の名は『卜部兵衛うらべかんべえ』。

ソフィ達の居る時代で『煌阿』が『シギン』に対して口にした通り、この『卜部兵衛』は『シギン』の先祖にあたる人であった。

シギンの祖たる曾祖父の時代にはもう『妖魔召士』の家系ではなくなったが、この『卜部兵衛』と名乗っていた妖魔召士は、間違いなくシギンと同じをそのに宿らせていた。

そしてこの『卜部兵衛』は、最強の妖魔召士と呼ばれているシギンと同じ『空間魔法』を司る同じ『理ことわり』をすでに數百年前の時點でこの世界に誕生させている。

もちろん妖魔召士の自分の後続達や、彼の子や孫にすら伝承させる事もなく、この世界の初めての『理ことわり』はその後の世界に伝わる事はなく一度は消失してしまった。

――何故、この世界の最初の『理ことわり』が後の世に伝わることがなかったのか。

それは兵衛が生前に殘した言葉に由來する。

――「儂が生み出したこの『理ことわり』は、後の世の『魔』の概念に大きく作用するものだ。世界そのものを壊しかねぬこの『力』をけ継ぐ自信がなければ、決してこの事を子に伝えるな。形だけではなく、名もしてはならぬ。もし儂の言葉を破って、この『魔』の概念の『名』だけを子々孫々ししそんそんに伝えるような真似をすれば、家の名ごと失い末代まで決して拭えぬ災いが降りかかると知れ」

結局この兵衛のした言葉通り、それ以後の彼の家系図には『卜部うらべ』の名がなくなり、シギンの高祖父以降には家系から『妖魔召士』が生まれる事はなくなってしまった。

卜部一族は『妖魔召士』の家系でなくなり、この世界に再び『理ことわり』というものの存在を知る者が居なくなった時代が長く続いたが、それは突然にシギンの代になってようやくその災いが取り除かれたかの如くに『妖魔召士』が誕生する事となった。

しかし當然に『理ことわり』の事を知る者は、かつての『卜部』の家系にはもう殘ってはおらず、両親は勿論の事、祖父も誰も知る由もない。どうやら兵衛のした言葉の一部だけは、そのまま正しく守られてきたのだろう。

つまりシギンは自分のに宿る以外に、卜部兵衛に繋がる『魔』の標というものがなく、また伝承や伝記など何も殘されていなかった為、シギンは全く何もない狀態から、その先祖である卜部兵衛と同等の『力』を得るに至ったのであった。

――否、厳にはま・だ・こ・の・時・の・シ・ギ・ン・は・『卜部兵衛』の至った領域へは辿り著けてはいない。

未だにシギンには『魔』の概念への疑問を多く抱えている狀態であり、その疑問をしでも解消しようとこの『妖魔山』に乗り込んできたのであるが、その祖となる『卜部兵衛』は、シギンの抱く『魔』の概念に対する疑問に関しては、その全てを完全に理解し終えていた。

（それでもそんな卜部兵衛ですら、本當の深淵にある『魔』の概念の全てを理解していたというわけではないのだが、それはもう下界だけでは今後も當分の間は理解される事はないと判斷される為に、ここでする話には適さない）。

しかし間違いなくいえる事は、そんな卜部兵衛のを濃くけ継ぐに至ったシギンは、その壽命が潰えるまでに確実に『卜部兵衛』の至った領域へは屆く事である。

何故なら、妖魔召士シギンには『卜部兵衛』すら會得していなかったモノを生まれながらにして、すでに持っているからである。

――それは先天の贈りとされる『金の現者』としての資質である。

知識や経験では卜部兵衛には屆かないまでも、すでにこの時代のシギンには、金と青の『二の併用』を用いる事で、その圧倒的な『魔力』は卜部兵衛に匹敵する事が出來ている。

煌阿がソフィ達の居る時代のシギンを見て、まだまだ卜部兵衛の方が上だろうと判斷したのは、あくまでもシギンが全力ではなく、神斗や悟獄丸を相手にした時『程度』の力で相対していたからに他ならない。

これより數十年後の時代で『神斗こうと』や『悟獄丸ごこくまる』と対峙した時のシギンの『戦力値』と『魔力値』は、あくまでこの時代の『シギン』の全力と遜がない程度である。

この時代で『煌阿』という存在が居る事を知り、更に『魔』の概念に対して理解を深める事となった數十年後のシギンは、更・に・強・く・な・っ・て・い・る・の・だ・か・ら・。

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