《天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭なと便利スキル『創魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~》第509話 非常に見つけ難いイナゴの王

レストランを出て我が家に戻って來た。

「ってわけなんだけど、カイベル、アバドンの現在の居場所を教えてもらえる?」

「現在は國管理の畑に居ますね」

「は?」

カイベル何言ってんだ? 私は今そこから戻って來たばかりなのに……

「ちょちょちょ、何言ってるの!? 私しばらくその畑の近くに居たんだけど?」

「ニートス様ほか農業従事されてる勇敢な方々が対処していますが、弱い魔とは言えが大きいので対応に苦慮しているようです。畑を掘り返されて作を食い荒らされてます」

「それ、今現在の話なの!?」

「はい。アルトラ様たちがレストランに店されたくらいに襲來したようです」

「噓でしょ!?」

私が離れた直後にれ違いで來たってことか!? 魔力の知範囲を広げてればすぐに気付けたのかも?

と言うか、イナゴなのに『一進五退裝置』に引っ掛からないのか!?

大きさも形も違うから別の生として認識されてるのだろうか……?

ちょっと待てよ? 國管理の畑に居るんなら、何でカイベルが出しないんだ?

三大兇蟲なんて二つ名を冠してるのに、一般亜人ですら対応できるほど弱いのか?

「な、何で襲來したのが分かってるなら出しないの? あなたの守りの優先順位に『アルトラルサンズ國民の命が脅かされてる場合』って條件がってたと思うけど!?」 (第97話參照)

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「アバドンの目的は亜人ではなく農作ですので、ただちに命が脅かされるほどの危険はありません。ちょうどアルトラ様が帰って來られましたのでここでお伝えすれば事足りると判斷しました。それに今の私は空間転移魔法が使える條件下にありませんので現場に著くには時間がかかります」

「あ……」

カイベルのリミッター解除條件は『私かアルトラルサンズ國民に命の危機がある場合』だから脅威ではないと判斷してのことか。

頭の整理が追いつかない最中さなか、メイフィーが再び我が家を訪れ玄関ドアを勢い良く叩く!

ドンドンドンドンドンドンドン!!

「アルトラ様! 來ました來ました!! でっかい人型の蟲! 今、蟲の長四角の中で皆さんが応戦してるんで早く畑へ來てください」

「わ、分かった、すぐ行こう!」

メイフィーとカイベルを伴って【ゲート】で國管理の畑へ。

「あ、あれか……」

緑の蟲キューボイドの中に薄っすらとでかい生が見える。

近くには、何だか凄く汚れたヒトが一人、その脇にそのヒトを介抱しようとしているのが二人……

私が畑に近付こうとした瞬間、中から――

バシューーーーッ!!

――という噴音のような音を立てて、“大きめのナニカ”がいずこかへ飛び去ってしまった……

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「は……早っ……」

何あの速度!!

「ア、アルトラ様! も、もう見えませんよ!? 中にどんなのが居たんでしょう?」

「カ、カイベル、何あれ? 今畑から出て行ったのがアバドン? どういうこと?」

「アバドンは危険を察知すると勢い良く跳躍して逃げます。百メートルを三秒ほど、時速にして百二十キロほどで、ひとっ跳びで瞬間的に移します。農業従事者の方々だけなら危機じていませんでしたが、アルトラ様が來た瞬間に命の危機をじてこの場を離したのでしょう」

「それ早く言っておいてよ!」

あの速度で飛んでった生を探さないとイカンのか……

まああれの対処は後で考えるとして応戦してたヒトたちが心配だ。

何せ戦闘力は弱いとは言え、三大兇蟲に數えられるヤツを相手にしていたのだから。

「みんな大丈夫? 怪我とかは無い?」

蟲のキューボイドの中でアバドンと対峙してたヒトたちに聲をかけたところ、キューボイド結界の側からニートスらしき返事が返ってきた。

「だ、大丈夫です! 多前腳で弾き飛ばされたりはしましたが、みんなごく軽い怪我で済んでます」

「そう、それなら良かった」

どうやら本當に戦闘能力は大したこと無いらしい。まあ一般人には十分脅威な腕力ではあるが。

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「……と、ところで……そこの凄く汚れたヒトは……?」

中潰れた蟲がくっ付いてる……何でこんな狀態に……?

「タイレンさんですよ」

「このヒトがタイレン!? 村外れに住んでるって言う!?」

久しぶりに會った……気がする! (第16話參照)

農作業要員だったのか。

「それで……どうしてそんな (汚きったない)有様に?」

「きょ、巨大な蟲に振り払われて畑の外へ飛ばされてしまいました……」

ああ……蟲が張り付いてるキューボイドの中から強制的に投げ出されたから、蟲を下敷きにして中に潰れた蟲がくっ付いたわけか……

「け、怪我は?」

「強い痛みなどはありません」

「そ、そう……ご、ご苦労様……は、早いとこ洗い流してきた方が良いよ……」

そう言うとどこかへを洗い流しに向かった。

アバドンと対峙した彼らの様子を見るに、どうやら本當に亜人には (食用としての)興味が無いらしい。

この辺りが、カイベルが危機が薄いと判斷した理由か。

さて、それじゃあアレの対処を考えるか。

「アバドンが見つかった國はどうやって退治してるの? あんなに早く移されるんじゃ退治も一苦労じゃない?」

「運良く見つけられたものを退治するか、死ぬまで退治されないかのどちらかですね」

「死ぬまでって……それまでに農作とか食料とか食い盡くされちゃわない?」

「大勢で対応して、アバミニオンイナゴやバッタたちを退治していけば、非常に労力はかかるもののある程度は守ることができます。また、アバドンが移すればそれと一緒にアバミニオンたちもくっ付いてその地を離れて行くので、運が良ければ食料を食い盡くされる前に移して行くでしょう」

運が良ければって……

火の國の屬國ファーイオで発生したって言うけど、その國は大丈夫だったんだろうか……? (第228話參照)

もしかしたら今飢饉が発生してるのでは?

「アバドンってどれくらいで死ぬの?」

一週間とか二週間とか、その程度の短い壽命なら対処できなくてもいずれは消えてくれるだろうけど……

「十ヶ月ほどですね。普通のイナゴの大三倍ほどの壽命です。今回の発生が火の國で一月中旬頃ですので、もう殘りひと月ほどで壽命を迎えるでしょう」

「一ヶ月先!? それじゃあアルトレリア中を食い荒らされちゃうよ! 何とか見つけて退治したい! 今はどこに居ると思う?」

「私の勘に依れば……三十キロ離れた麥畑の方に向かったようですね。凄い早さで南西に移してる……ような気がします」

レッドトロルを迎えに行った時のように、“勘”であることを強調する。 (第191話參照)

が、カイベルの勘を信用しているアルトレリア住民たちはすぐに行を起こそうとする。

「カイベルさんの勘が麥畑の方と言ってる! みんな先回りするぞ!」

「「「おーー!!」」」

しかし、意気揚々と麥畑への『ゼロ距離ドア』へ向かう農民たちに、カイベルが待ったをかける。

「お待ちください。大した戦闘力は無いとは言え、戦闘技の無い皆様が時速百二十キロで移する巨蟲相手にぶつかられたらただでは済みません。待ち伏せは危険でしょう。アバドンあれの対処は私たちでしますので、皆様は小蟲の方の駆除をお願いします」

「「「分かりました!!」」」

カイベルに小聲で話す。

「……場所が分からない私が行くより、場所が分かってるカイベルが行って倒しちゃってくれた方が早くない?」

「……殘念ながら、私ではあの速度に追いつけません。私は一応人間を模して創られてますので、私の腳ではせいぜい百メートルを十秒 (※)ほど、時速にすると三十六キロほどです。風魔法で移速度を強化してもせいぜい六十キロほどにしかなりませんので到底追いつけません」

(※百メートルを十秒:めちゃくちゃ早い。世界記録が『九秒五八』なので、カイベルは大分オーバスペック気味)

百メートルを三秒で移するヤツ相手じゃ全く追い付けもしないか……

「……リミッターを解除すればこの限りではないですが、解除の條件に當てはまりませんので」

う~ん……ここでもリミッターか。カイベルのリミッターって私かアルトラルサンズ國民に命の危機が無いと解除できないんだよな……今は到底命の危機がある狀況では無いし。

解除條件を変えてしまえば良い話だけど、そうなると今度は頻繁に解除された場合に“生じゃない”ことがバレそうで怖い……

「また、相手は生ですので常に直線移するわけではありませんし、臨機応変に向きを変えます。跳躍速度も早いので予測して捕らえるのは困難です」

「カイベルが追い付けないってことは、相當速度に自信があるヒトじゃないと捕まえられないんじゃない?」

「魔王ほどの能力なら風魔法の補助でかなりの速度を出せますが、普通の亜人に捕まえられる者はほぼ皆無でしょう。捕まえられるとすれば火魔法か雷魔法を強化に使える魔人か霊か、特殊な魔法を持つ亜人くらいです」

それって追いつけるのは魔人種とか霊種に限られてくるってことじゃないか……?

「もっとも……一番厄介なのは、非常に見つけ難いというところなのですが……。アバドンにはこの『見つけ難い』という特徴があるため、下手をすれば何ヶ月も猛威を振るうことがあるのです」

「何で見つけ難いの?」

「アバドンは自の魔力を隠蔽します。周囲に居る小蟲と大して変わらない程度まで隠蔽するので、魔力知に長けた者ですら見つけづらいのです」

魔力知しても小蟲に紛れてしまうってわけか……

「先ほど遭遇された時に何か気付きませんでしたか?」

「そういえば……逃げ去る時だけ一瞬魔力が上がったような……畑で食い荒らしてる時は蟲の隙間から巨のシルエットが僅かに見えたからアバドンだって判斷できたけど、見えなければ居るのかどうかさえ分からなかったかも」

何て厄介な質だ……猛威を振るうはずだ……

「でもその點はカイベルが居るから問題無く見つけられるよね?」

「はい。僅かな魔力さえあれば捕捉可能です」

よし、じゃあ一番厄介な『見つけ難い』って部分はクリアできてる。

あとは駆除手段の方だけど――

「じゃあ駆除の話に移るけど、各國ではどうやって駆除されてるの?」

「アバドンの速度を凌駕できる方が居る場合はその方が追いかけ回して倒すようです。居ない場合は、大抵は他國からそういった能力を持つ方を派遣してもらうようですね。その手段も取れない場合は、見つけ次第アバドンに気付かれる前に広範囲を四方八方から焼きます。熱に極端に弱いため、直接火に當たらなくても焼き殺せます」

「『見つけ次第』って、非常に見つかり難いんじゃないの?」

「魔力による追跡は難しくても、他の小蟲と違ってサイズが巨大ですので例え小蟲に紛れていたとしても目視は容易です。見つけられさえすれば雙眼鏡などで空からの追跡は可能ですので、地上と上空で連攜しながら遠く離れたところから広範囲を焼きながら囲い込みます」

「でも、それをやったら凄い広範囲を焼き盡くすことになっちゃわない?」

「そうですね、延焼規模は馬鹿にならないと思います。しかしそれくらいやってでも駆除しないと、その後の農作への被害は比較にならないほど甚大になります。――」

是が非でも倒しておかないと!!

「――ただ、現在では三大兇蟲が出たら協力して駆除に當たるという協定のようなものが各國で結ばれていますので、近年はこの方法ではまず行われません。先述のように大地や農作への被害規模が馬鹿になりませんので」

「あ、でも、そこまで燃やさなくても、上空からのピンポイント撃とかじゃダメなの?」

「先ほどの危機察知能力をご覧になったと思いますが、上空から火魔法を放ったところで、著弾する頃にはもうそこに居ないと思います。相手は三十秒後には一キロ先に居るような速度で移しますので」

ホント厄介だな……逃げるのに特化したような能力だ……

「そうならないようにアルトラ様が対処していただくのが最適解かと思われます」

なるほど……私が追い掛け回すよりほか無いわけか……

風の魔王の能力を得た私ならそれが可能ってわけね。

「……分かったよ……」

「では、これをどうぞ。アバドンの進行方向が変わったらその都度お知らせします」

そう言ってカイベルが差し出したのは、風の國で大いに役立ってくれた通信の魔道シール。

「そんなもの使わなくても、あなたと會話するだけなら通信魔法でも良いんじゃない?」

「魔道シールの方が聲もクリアに伝わりますので」

「あ、そう」

「頬にり付けてください。これで手を上げて聲をかけなくても通信が可能です」

インカムみたいに通信できるってわけか。

風の國での私の使い方はちょっと間違ってたみたいだな……

(部下に武を扱うのに邪魔にならないように利き手とは逆の手にらせた。詳しくは第452話參照)

魔道を頬っぺたにりつけた。

「よし、じゃあ倒しに行って來る!」

【ゲート】で麥畑へと移

余談ですが、カイベルのリミッター解除條件について、脅威度が高いと判斷された場合、脅威生が離れた場所に居ても條件に當てはまります。 (第476話から第477話の漆黒アリのケース)

次回は9月30日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

第510話【三大兇蟲アバドン】

次話は來週の月曜日投稿予定です。

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