《ダンジョン・ザ・チョイス》776.流民の溜まり場
「あ、來た來た」
先にボス戦を終えたユリカ達が寄って來た。
いつもの祭壇の上だけれど、ボス扉が付いていた塔と同じ建材でできた壁で、周囲が囲われている?
「今までで一番、閉鎖があるな」
見渡してみると、狹い範囲にNPCが集しているようだ。
「ボロボロの格好ですね」
「移民が勝手に居著いたって設定ですからね」
ウララが教えてくれる。
「勝手にっていうのは?」
「元々はこの更に上、五十四ステージを目指してここまで來たようですから」
「この上……」
祭壇から數十メートルくらい上に天井があり、祭壇の向かい側には地面から天井まで屆く巨大エレベーターのようなが。
「アレで上に行くって事なのか?」
「あれはモンスターエレベーター。C~Sの扉があって、扉に書かれているランクのモンスターと戦闘。ランクごとに儲けられたポイントがあって、そのポイントの合計が100を超えるまで戦闘を繰り返すんだよ」
メルシュが説明。
「一度始めると、100ポイント以上集めるか棄権、もしくは失敗するまでチャレンジを止められないんですよ」
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「棄権するとこの場所に戻ってこられるけれど、ポイントはリセットされるうえ、手にれたアイテムや素材も沒収されちゃう」
やり直すメリットは経験値くらいか……ウララとメルシュ、なんか競ってる?
「ただこのモンスターエレベーターは、良くも悪くも奴隷は參加できないから」
「そうなんですか? 一人で挑まないといけないのは知ってましたけれど」
主か奴隷、どっちか一方が置き去りにされても困るしな。奴隷には、一定以上離れている狀態で十二時間経つと、主の元に強制転移される仕組みもあるし。
「なんというか、自力が無い人間を振るい落とすような仕組みだな」
「その通りですね」
ヒビキが聲を掛けてきた。
「だからこそ、楽なルートばかり選択していた私の前レギオンは、ここらで振るいに掛けられてしまったのでしょうね」
そうか、ヒビキは五十三ステージから下に落ちてきたんだっけ。
「ご主人様、全員が揃ったようです」
「じゃあ、下に降りるか」
●●●
「凄い人の數」
全員NPCだとは思いますが、今までとは比べものにならないくらい人の集率が凄まじい。
「メルシュ、あのタワーの周りにある設備はなんですか?」
食べの絵らしきも見えますが。
「トゥスカ。あれは飲食の自販売機、めて自販機だよ」
「自販機?」
「四十七ステージにも似たような商品はあったけれど、自販機は無かったな」
ご主人様は自販機を知っているんだ。
「他にも、スキルカードを出す“カードダセ”っていうのもあるよ」
「カード出せ……ダジャレですか?」
「懐かしいな、カードダセ! 私が小さい頃は、まだいっぱいあったけど」
レンのテンションが上がっている。
「あれか? 100Gで五枚出るのか? レアカードの輩出率は?」
「いや、100000十萬Gで十枚だよ。レアは無いけれど、十枚中一枚はかならずAかSランクのスキルカードが出るね」
「なんだかアプリゲームのガチャみたいね、カードダセって」
呆れ顔のユリカ……なんの話をしているのか、私には全然解らない!
「こういうのワクワクするよな、コセ!」
「まあな……ちょっと回してみるか」
「二人とも、お願いだから散財しすぎないでね」
冷めた表のメルシュを目に、二人がカードダセの方へ……あ、ジュリーとノゾミも行った。
「私も昔、はまってたな。の子向けよりも、男の子向けのダンジョン・モンスター、めてダンモンのカードゲームに」
マリナが嬉しそうに語り出す。
「……マリナ、ユリカ、私にカードダセというのを教えてください。アプリとかガチャというのも」
「え? まあ、朝食のあとで良いなら」
「とはいえ、どう説明すればこの世界の住人に解って貰えるやら」
「……確かに」
ユリカとマリナが悩みだした?
●●●
「この“モンスターエレベーター”の仕組みは、一人で100ポイント貯めなきゃいけないわけだけれど、全二十戦で100ポイント以上にする必要があるの。100ポイントいかなきゃ最初からやり直し」
晝食前に、メルシュとジュリーの解説が始まった……何故か、生徒は俺とモーヴだけ。
「モンスターとは基本的に一対一で戦うわけだけれど、Cランクが3、Bランクが4、Aランクが5、Sランクが6ポイントという振り分けになっている」
CとBだけだと、二十試合じゃ100を超えられない。
「更にルールで、同じランクのモンスターとは連続で戦えないという縛りもあるよ」
Sだけ倒してレア素材と経験値を集める、という手段は使えないか。
「合計が100を超えれば、その時點でエレベーターで最上階まで進む選択もできるけれど、合計が120を超えれば、クリア時に様々なアイテムやレア素材の中からランダムで五種類も手にる」
そう言うジュリーの笑みが、なんか嫌らしく見え……。
「いや、SとAランクのモンスターと互に戦っても、最大で110にしかならないだろう!」
Aランクと十戦で50、Sランクと十戦で60、計110ポイントが最大。
「実は、十戦目と二十戦目の時だけ、モンスターの數を二倍に増やせるんだ」
「その二試合にSランクかAランクとぶつかるようにすれば、ポイントは二倍で、最大120か122になる」
「なるほど……とはいえ、モモカやバニラには無茶させたくないな」
「それなら問題無いよ。“奴隷神の腕”の能力で、マスター以外は奴隷扱いにできるから」
「……つまり、俺だけ頑張れと?」
「実は、このイベントに奴隷は參加できない分、例の報酬は不參加になった奴隷分も貰えるんだ」
「マスターの場合は、私とトゥスカとナターシャの分も合わせて、報酬は四倍の二十個貰えるって事になるね」
まさかコイツら……。
「俺だけでモンスターエレベーターに挑めって言ってる?」
「モンスターエレベーターに出るモンスターは特別な武を使って來ないし、報酬目當てに全員を危険な目に合わせるくらいなら、コセ一人にクリアを任せた方が良いかなって」
特別な武を使って來ない。つまり、そのモンスターに関連する武、ゴブリンが使う雑系みたいな武以外はドロップしないと。
「ドロップするモンスター素材はちょっと勿ない気もするけれど、クリア報酬の方が確実に良いのを手にれられるし」
まあ、モモカ達の安全も考えると、今回は俺一人が負擔を被った方が良いか。
「……なあ、なんで私はここに呼ばれたんだ?」
黙りを決め込んでいたモーヴが、ようやく口を開いた。
「モーヴは、ちゃんとモンスターエレベーターを攻略して」
「――はあ!?」
ジュリーの発言に驚愕するモーヴ。
「もしやとは思っていたが……私はLvが低いから経験値を稼げという事か」
「なんで彼にだけ? Lvもスキルも一番心許ないだろ?」
ついでに神代文字も。
「參加する數がないからこそ、強力な裝備を集中させられるでしょう?」
メルシュのその言葉の意味は……。
「これを使え、モーヴ」
彼の前にジュリーが置いたのは、二つの“レギオン・カウンターフィット”?
「使えと言われても……」
「今日の午後から、私がこれらの使い方や戦を教えよう」
ジュリーの笑みが、なんかオタクっぽい。
「お前、こうなるのを見越して私を奴隷から解放したんじゃ……」
「いや、それは偶然だけれど」
俺から見ても微妙なラインだな。
「マスターにはこれね」
メルシュが差し出してきたのは、赤いメダルと指?
「俺、ユニークスキルはもう持ってるけど?」
ユニークは一つしか裝備できないし、既にお世話になっている“裝備の覇王”は気にっている。
「大丈夫。このEXランク――“ダブルユニークの指”があればね」
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