《ダンジョン・ザ・チョイス》777.殺戮のシズカ

「お晝寢ですか?」

「ああ」

モンスターエレベーターには俺とモーヴだけが挑む事になった日の午後、草原で寢転がっていた所に、エレジーがやって來た。

「……今更だけれど、リョウの事は良いのか?」

はリョウに好意を持っていて、俺はその思い人を殺した人間。

「ええ、不思議なくらい冷めてしまってますから……むしろ、私は貴方に自分の願ばかり押し付けて……申し訳ありませんでした」

どこか切なくて、幸福そうな眼差し。

「……まさか、シズカと一緒に夜這いに來るなんて思わなかったよ」

獣人だから大膽なのかもとも思ったけれど、どこか違和があった。

「私、シズカに“超同調”を使いました」

「……」

これ、流れ的にシズカの影響でって言ってる?

「……もし私がシズカと同じ目にあったなら、自殺してたと思います。でも、彼が殺人鬼にり果てた理由も、理解し、納得できてしまった……」

「エレジー?」

「――シズカと、もっと向き合って貰えませんか?」

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「俺が? エレジーの方が良いんじゃ……」

「私だからできることと、私だからできない事もあるんです。そして、今のシズカに必要なのは……貴方なんです」

エレジーはいったい、シズカの中に何を見たのか。

表面上だけだけれど、俺も“超同調”をシズカに使ったから、なんとなく察しは付いているけれど。

「……今、シズカはどこに?」

向き合うなら、早い方が良いと思った。

●●●

ノックの音が鳴る。

「エレジー? ってきて良いわよ」

ドアを開けてってきたのは、コセだった。

「どうしたの? わざわざ私の私室に……」

「エレジーに、シズカともっと向き合ってしいって」

エレジーめ……余計な事を。

「向き合うって? 今更、の上話でもしろって?」

「まあ、そうなるな」

「めんどいな~」

昔の私なんて、今の私を形作ったあの頃の事なんて、本當は誰にも……だったら、なんでエレジーに“超同調”を使わせたってのよ、私は。

「……勝手に、“超同調”でも使えば」

私を知られるのが恐いという一方で、全部知ってしいとも思っている自分がいるとかさ……。

「行くぞ――“超同調”」

私の中に他人が、コセが深くってくる。

私の生まれは、神奈川県の橫浜市。

両親がいて、兄弟のいないごくごく普通の家庭に生まれ、これといった不自由もなく育った。

人生の転機は、中學二年生のとき。

その人生の転機は、最悪の中の最悪だった。

いきなり車に連れ込まれて、四人の男にされた。

二人は不法移民のクルド人で、殘りは中國人とトルコ人だったかな?

不能だったのか、運良く妊娠はしなかったけれど……本當に人生最悪の経験だった。

その後に取った私の行は……パパ活。

泥のように沈んだ自意識が私の自己肯定を完璧に破壊し続け、殘された強い求は……強烈な快楽で悪夢を塗り潰すこと。

だったら、せめてストレス発散のついでに小遣い稼ぎだってやってやるって……ね。

幸い、橫浜には売春の文化が強くあって、それなりにスタイルも顔も良い中學生は需要があって……私を抱いてくる客共は殺したいくらい気持ち悪いのに、この背徳的な快楽が無ければ生きていけない自分。

そして、行為が終わって暫くすると――たまらなく死にたくなる。

穢れた自分が死ぬほど赦せないのに、苦しみから逃れようと更に自分を自分で穢し続ける。

そのクソみたいな連鎖を続けている間に家庭は壊れ、キモい親父共の家を転々として、たまにヤバい奴に殺され掛けて……ある日、私はダンジョン・ザ・チョイスにいた。

簡単に人間を殺せる力を手にれたうえ、クズ共を守るクソみたいな警察も居ない――最高の世界だと思った。

極めつけは、SSランクの“ブラッディーコレクション”。

他を圧倒する力を手にれた私は、なる願を心の赴くままに吐き出すことにした。

ヘラヘラしたレイプ魔も、安っぽいをして安っぽい笑みを浮かべているガキ共も――私のかんに障る奴等は片っ端から殺してやった。

時には良い子ちゃんを脅して、化けの皮を剝がしてから醜悪に歪んだ顔をグチャグチャに斬り潰した!

そうして――遊びが過ぎた私は、間抜けにも背後から心臓を貫かれ、死んだ。

自業自得という自覚はあったからか、自分の死は不思議な程にれられた……のに、私は隠れNPC、ピエロのネロとして蘇った。

顔も名前も違う、誰も前の私を知らず、処もあるうえ、一つの病も無い清い

もう絶対に手にれられない、戻って來ないと思っていた純潔。

普通にをして、王子様みたいな人と結ばれたいと思っていたかつての自分の淡い夢が突然修復された。

まあ、それで穢された自分の記憶が無くなるわけじゃないんだけれど……さ。

だからか、私は私の第二の人生が空虛に……虛偽に思えて仕方なかった。

そんなハチャメチャな矛盾を抱えながらも、傍に居るだけで私の心を和ませてくれるツグミに力を貸そう。

そう思って、四十七ステージまでやって來た。

かつて殺したくだらない人間達の仲間が居る、レギオンと合流するために。

「穢い人生でしょ、私の人生って」

「まあな」

否定せんのか。まあ、そういう奴だからこそだけれど。

【始まりの村】の、コセという名のギルマス伝説。

そんなに稱えれる人間の化けの皮を剝がしてやりたいと思って追っていた挙げ句が、その仲間に殺されて、何故かそのギルマスが私の仇を討つっていう、意味が解らない事になっちゃってたけれど。

「ギルマス……コセ」

「シズカ?」

聞いた伝説からけた印象とはだいぶ違ったけれど、確かにこの男は、伝説として稱えられるだけのの持ち主なのかもね。

「それにしてもさ、酷くない? 私がレイプされたり不特定多數の男と関係を持ったのを垣間見てするとかさ」

「……ごめん」

「うそうそ。仕方ないって」

私だって、アンタがんなとヤッてるのを垣間見て興してたし。

それに……アンタは私のこと、大切に想ってくれてるからこその苦しみだって抱いてたし。

金で、悅楽のために私を買ってた奴等とは違う。

「……シよう、コセ」

服の裝備を外して、私の王子様をベッドに押し倒した。

●●●

五十三ステージへと到達した翌日の早朝、ご主人様達がモンスターエレベーターの前へ。

「ご主人様、コレを」

私の“ディグレイド・リップオフ”を差し出す。

「良いのか?」

「はい、使ってください」

この武を我が儘を言ってまで確保したのは、私がご主人様を守るためだったのだから。

「ありがとう、トゥスカ」

自然と、顔が綻ぶ。

「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、ご主人様」

各々が見送りの言葉を贈る中、ご主人様はAの扉、モーヴはSの扉に消えていく。

「――へ?」

「どうしました、メルシュ?」

明らかに様子がおかしい。

「モンスターエレベーターのルールが、たったいま追加されたみたい」

「追加?」

「この追加されたルール……まるで、観測者の悪魔のだね」

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