《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1806話 弟子から師匠へ

「だがサイヨウよ、お前にその『転置寶玉てんちほうぎょく』を託しはするが、まずはゲンロクの事や組織の事を優先してやってくれよ? 長の座を降りる俺が言うのもおかしな話だが、今お前やノマザル達が抜けられては、サクジ達だけでは々厳しいものがあるだろうからな」

「分かっています。それに小生は『妖魔召士』組織の長というわけではなく、あくまでシギン様からこの玉を預かっただけですからな。ひとまずこの玉の存在は頭の片隅にでもおいやって、まずはゲンロクの事や『改革派』達の炙り出し、それに今後の『妖魔山』に対する対策などを優先します」

そのサイヨウの言葉を聞いたシギンは、そう言えば自分は『改革派』とやらに命を狙われていたのだったかと、何処か実のない話を思い出すのだった。

(確か山に向かう前のサイヨウの話では、俺を組織の座から降ろそうと企んでいる『改革派』の連中は、あの妖狐達を『式』にして、俺の命を狙おうとしている可能があるとか言っていたか? だが、実際にそいつらがアレを『式』にするのは不可能だろう。ゲンロクだけではなく、このサイヨウですらあの『妖狐』の『魔力』に愕然とする程だったのだ。サイヨウに遙かに『魔』で劣る『改革派』の妖魔召士達では、をいくら用意しようが使う前にあの妖狐に瞬殺されて終わりだろう……。それにまぁ、萬が一『式』にされたところで俺には何の問題もないが)

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妖狐の王琳おうりんくらいであれば、ど・う・に・で・も・な・る・と最終的に思考の結論に達したシギンは、もう『改革派』の者達の事を頭から追い出すのだった。

「ああ、頼んだぞ」

シギンの言葉に頷いたサイヨウだが、そこで本當に聞きたかった事を尋ねる為に再び口を開いた。

「シギン様、これで今生の別れという事はありますまい?」

「ふっ、それは『妖魔山』の居る存在次第だな。あっさりと片が付くようであれば、こっそりとお前達に會いに戻るつもりだ」

「そうですか。では、この『転置寶玉』をお返しする日も近そうですので、やはり小生には過ぎた代だったと諦める事になりそうですな」

そう言って冗談めいた笑みを浮かべるサイヨウだが、実際にはシギンが公に町に戻って來る事は終ぞなく、結局サイヨウは『転置寶玉』を使用する事となるのであった――。

「本當に世話になったな。後はお前の思うようにき、組織を導いて行ってやってくれ」

「それはノマザル殿や、イッテツ殿に仰ってください。小生はあくまでシギン様の『魔』の概念に魅力を持って役職に就いただけに過ぎませぬ。シギン様が居なくなるのであれば、小生はその原因となった者達を摘み取った後、小生も好きな事をさせて頂くつもりですからね」

その摘み取るという言葉に苦笑いを浮かべたシギンだが、このサイヨウもまた自分と同じ『魔』に魅了された変人の一人なのだと改めて思うに至るのだった。

「まぁ、それならそれで構わぬ。お前にはすでに『空間魔法』以外の全てを伝え終えたと思っている。後はお前の研鑽次第だ。何か分からぬ事があったとしても、お前ならば必ず自分の力だけで何とか出來るだろう。それでも悩み答えが出ぬ時は、俺・の・事・を・思・い・出・せ・。お前が師と仰いだ俺はどうやって解決してきたかを思い出せば、しは答えを導く助けとなるだろうよ」

それは気休めの言葉ではなく、実際に『魔』に対して抱いてきた多くの疑問を解決したシギンだからこその言葉であり、そんなシギンと長らく傍で同様に研鑽を修めてきたサイヨウであれば、シギンがどのようにして解決するに至ったかを長年見てきているとの判斷であった。

「ありがとうございます。貴方を師に持った事を誇りに思います。いずれは貴方の至った『魔』の領域に辿り著いて、そしてその『技法』を持って、貴方に報告へ向かうと約束しましょう」

その『技法』こそが『空間魔法』の事であり、つまりはこの時のサイヨウのシギンに対しての言葉の意味とは、これまでの謝と、これからの『魔』に対する決意の表明が込められているのだった。

そしてその言葉こそ、け取るシギンにとっては弟子から贈られる何よりの言葉でもあった――。

(ふっ、そんな言葉を告げられては、俺も頑張らなければならないな……)

――この時シギンは弟子であるサイヨウから強い『決意と覚悟』をけ取り、自分もまたあのに居る『存在』の監視に今後の人生を費やす覚悟を持つに至るのであった。

……

……

……

そしてこの時から凡そ數十年の月日が流れて、時は現在に至る――。

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