《ダンジョン・ザ・チョイス》783.100萬$を稼ごう
「この街の土地は、正方形狀に塀で區切られていて、屋敷の塀と塀の間は道が必ず通ってるんだけれど、塀の上には危険な結界まであるから、飛び越えたりしようとしないでね」
食事を始めて暫くしたのち、メルシュの講義が始まる。
いつもの“神の館”じゃないから、なんか不思議なじだな。
「次のステージに進むためには、一つのレギオンにつき1000000百萬$が必要だよ」
「パーティーごとだと100000十萬$。個人だと50000五萬$になる」
「……高いな」
上級國民には毎日100$支給。長引けば長引くほど出費も増えるし、支給額だけじゃ必要資金が貯まるのに何十日掛かるか。
「Gを$に換金する場合、100萬$用意するのに10億G……メルシュ、金は足りるのか?」
「現金だけじゃ足りないね。々売ったり、例の“蛇の抜け殻財布”を使えば揃えれるけれど、手持ちのお金がだいぶ無くなっちゃうね」
「モンスターを倒すとかの金策はできないし……ここではどうやって金を稼ぐんだ?」
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どのステージでも、金策手段は必ず用意されていた。
「商売だね」
「商売だな」
メルシュとジュリーが、さも當たり前のように。
「どうやって?」
「店舗を契約して飲食店をやったり、宿の経営をしたり、アイテムを売ったりとか」
「値段設定も自分達で変えられるよ。普通に売るよりも定価が高くなるから、他で売るよりも儲かるけれど、定価より高くすればするほど売れづらくなったりするから、気を付けないとダメだけれどね」
一つの疑問が浮かぶ。
「お客様って、もしかしてNPCなの?」
サトミからの質問。
「そうそう。売買は基本的にNPC相手。広告費を払って客引きに使うとか々なシステムがあるけれど、商品の値段を高くしすぎると、評判が落ちて來てくれなくなるよ」
「おまけに、この屋敷もだけれど、店を構えれば構えるほどテナント料が取られるから、手広くやるわけにもいかない」
々面倒だな。
「テナント料とかってどれくらい?」
リンピョンの問い。
「店との契約金は屋敷と一緒。テナント料も屋敷の住宅費と同じで、十日につき1000$」
「稼ぎをどれだけ出せるもんなのか判らないからなんとも言えないけれど、失敗して破産なんて可能もあるよな?」
俺達は今までの稼ぎがあるからなんとかなるだろうけれど、ろくにお金の管理ができない奴がこのステージに來たら、一生足止めされかねない。
「稼ぎが安定しているのは飲食店、割が良いのがアイテム売買店、評判に左右されがちなのが宿で、最初は広告費に金を掛けないと全然客が來てくれない」
何か実がありげなジュリー。
「飲食店は、商品の仕れに元手が掛かる上に消費期限とかもあるから、この辺のバランス覚が無いとあっという間に赤字になっちゃうんだよ。私としてはアイテム売買店がお勧めなんだけれど、アイテム売買店は商品の仕れができないから、手持ち分しか売りが無いんだよね」
「一長一短か。短期的にはアイテム売買だけれど、長く稼ぐなら飲食店か宿と……その三種類以外は無いのか?」
ふと疑問に思って尋ねる。
「稼ぎはないけれど、NPCが経営する店でバイトするとかも可能だよ。店が赤字で給料が払われないとかは無いけれど、月給なうえに、仕事を辭めるときは退職金を店側に払わないといけない」
「普通、逆じゃね?」
というか、十日に一回支払いがあるのに月給って……。
「あれ、教會の話はしないんですか?」
ノゾミさんのふとした発言。
「「……」」
ジュリーとメルシュの微妙そうな表。
「ノゾミさん、教會というのは?」
「教會を借りて、新興宗教を立ち上げるんです。教會は買い上げのために50000五萬$も掛かりますが、その後に住宅費を払う必要もありませんし、寄付金を募れば元手無しでお金も集まります。“免罪符”や“幸運の壺”、“クリスタルの數珠”、“聖水”などを売ったりもできますし。腐らないので、売れさえすれば元手は確実に取れるんですよ」
聞けば聞くほど稼ぐという點では悪くないけれど……二人が渋った理由も理解できた。
「その“免罪符”ってのは?」
「広告費とは逆に悪評費というのがあるんですが、悪評費を払うと自分の評判も一段階落ちるんです。それを防ぐのが“免罪符”です」
「ちなみに、付けられた悪評を消すには、教會に寄付する必要があるよ」
ジュリーの補足に頭を抱えたくなる。
「……悪評っていうのは、流すメリットがあるのか?」
「客になるNPCの絶対數は同じ。つまり、店が増えれば増えるほど客の取り合いになるんだよ」
リビング中央に置かれていた、白いタブレットのようなを弄り始めるメルシュ。
「現在、NPC経営以外の飲食店は11、宿は3、アイテム売買店が2、教會が1」
そういうのが分かる端末なのか。
「他店の悪評を広めて、自分の店に客が流れるようにするか……教會持ちが悪評を流せば稼ぎ放題にならないか?」
「店を契約した人間以外、悪評を広める事はできませんよ」
教會は店じゃないと。契約じゃなく購だから高かったんだっけ、教會は。
「教會持ちと店持ちに繋がりがあれば、お互いに悪巧みできたりしないか?」
「まあ、“免罪符”を仕れ値で譲ると言えば、教會側も寄付で利益が出せるからな」
細かな値段まで知っているであろうジュリーの言葉。
「よくそんな悪いことが思いつくな、お前」
エトラに半眼で睨まれる。
「悪い人間に対抗するには、ソイツらの思考を理解できないとダメなんだぞ、エトラ」
「お前、私より年下のくせに」
怒っているような、呆れられているような。
「教會って、NPCのもあるのか?」
「うん、一カ所だけだけれどね」
なら、商売を妨害された時用に、無理して教會を購する必要はないか。
「私、飲食店をやってみたいわ!」
サトミの嬉々とした聲。
「私も手伝います、サトミ様!」
「ありがと、リンピョンちゃん♪ ウララちゃん、々教えてくれるかしら?」
「ええ、喜んで」
サトミのパーティーは飲食店をやる流れに。
「明日には開店できるかしら?」
「それだと、今日中に契約して、大の準備まで済ませないといけませんね」
「サトミ達はああ言ってるけれど、どうする、コセ?」
ジュリーに尋ねられる。
正直、一日でどれだけ稼げるのかも判らないのに……。
「サトミ達とは別にアイテム売買店を開こう。明日からの八日間で稼いで、九日目に次のステージへ出発。足りない分はGゴールドで賄う。で、どうだろう?」
プレーヤーが多い上に魔法の家が使えないこの街からは、一刻も早く出たい。
「うん、最良だと思うよ」
「$はGに換金できないから、ここで荒稼ぎしても意味ないしね」
メルシュからの驚愕の事実!
「なんかこの街、俺達からGを巻き上げるために存在しているみたいだな」
支給される100$は、この街で長く絞り盡くすための先行投資のよう。
様々な企業が、ポイント還元を謳っているのと同じように……。
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