《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1810話 煌阿という妖魔の本質を理解する人間
シギンの纏う『魔力』に変化が生じた事に気づいた煌阿は、再びこの後に何らかの『魔』の技法を伴った攻撃を仕掛けてくるだろうと予測する。
(やはりなのか卜部兵衛うらべかんべえとこいつは戦闘を行う上での考え方が酷似しているな。俺の『過』が『時空干渉』の領域に達しているとみるや、直ぐにその扱い方がどこまで長けているかを判斷しようといたか)
煌阿がかつて卜部兵衛と戦った時もまた、彼が兵衛の扱った『魔』の技法に対して『過』で防ぎきった時に、その煌阿の『過』の扱い方が何処まで的確かを見極めようと、今の彼と同じような行を取った。
という事はこのシギンもまた、煌阿の『過』でなければ防ぎようがない何かを放つつもりなのだろう。
(纏わせていた『魔力』すらも最低限にまで下げて次の行に備えるところを見るに、こいつの次の一撃は、相當に『魔力』消費が激しい『魔』の技法で間違いないだろう。しかし俺の『過』を見極めようとする攻撃を放つつもりであれば、まず間違いなく先程と同じ行はとらない筈だ。つまりは本命を放つ為に段階を踏んだ攻撃を挾んでくるつもりだろうな)
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一見、これだけのシギンの『スタック』に用いる『魔力』の準備を見れば、攻撃技法に『魔力』を費やした一撃と考えるものだが、煌阿は逆に本命を確実に當てるための補助的な攻撃手法を多數用意しているのだと考えたのだった。
――そしてその煌阿の判斷は正しかった。
しかし分かっていても避けられない事象というものは存在する。
「何だこれは……? 幻の類か?」
突如として煌阿の周囲の景が変貌を遂げたかと思うと、何もない地面だけが延々と続いていく空虛な世界が煌阿の眼前に映し出されるのだった。
そしてそれは當然にシギンが作り出したものなのだろうが、何をされたのかが分からずに煌阿は空虛なその世界に視線を這わせ続ける。
煌阿は先程のシギンの『魔力』の高まりから、何か自に向けて『蒙』のような弱化や、それに伴うような技法を用いられて『過』を使用する事を強制させられるのだと考えていた。
煌阿に『過』を使わせる事によって、シギンに煌阿の『魔』の技法に対する理解度を推し量ろうという狙いがあるのだろうという読みを彼は行っていたのである。
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しかし煌阿は先程の『蒙』のように、煌阿の司る力に対する何らかの阻害や、弱化といったモノを連想していた為、このような妙な『空間』が用意されるとは思わなかった。
「人間が幻など使えるとは思えぬが、奴は卜部兵衛の統だ。何をされても不思議ではない……か」
そう言って強引に思考に納得させた煌阿は、次に右手に『魔力』を込め始めると、その恐ろしい度の『魔力』を伴った拳を一気に地面に向けて振り下ろした。
彼が『魔力』を纏いながら地面に振り下ろしたその拳は、確かに固い山の地面を叩くと共に、崩落させたような覚が手に伝わり、山から落下していく覚が確かに煌阿の脳に屆いてくる。
地面を砕いたという確かな手応えはその手に殘り続けている為、もしこれが幻であったのならば、確実にシギンは自分の耐魔力を超える『魔力』を持っているという事になるだろう。
シギンが煌阿に『過』を使わせる目的で幻を放ち、それを『蒙』の時のように使用するかどうかで判斷力を試したように、煌阿は試されている事を理解したその上で、現在の自分が出來る事を確かめたのであった。
そして煌阿が試したのは自分の『耐魔力』が、シギンの用いた『幻』の類か、何らかの『魔』の技法を用いた『魔力』に対して勝まさっていたのかどうかである。
當然に煌阿は確かめる為に地面を砕いて山から落下する事を目的とした為に、空を飛ぶような真似をせずに落ちていく覚から幻かどうかを確かめようとしたのだが、一向に衝撃というものが訪れない為に未だに『幻』にかかったままなのかと思い、どうやら奴の『魔力』の方がこのままの狀態では上なのかと考え始めたその時に、唐突に宙に浮くような覚を覚え始めるのだった。
「んっ……?」
空を飛んだわけでもないというのに、唐突に落下する覚が終わりを告げて宙に浮いている狀態なのだと気付いた煌阿だが、遂に今まで姿を見せなかったシギンが、何やら扱いに困るといったような表をしながら再び姿を見せ始めるのだった。
そしてそこでようやく、煌阿は自分の周囲に赤い真四角の『結界』が包み込んでいる事に気づいた。
どうやらその『結界』こそが、地面から落下する煌阿を支える浮力の役割を果たしていたようであり、どうやら先程の地面を叩き割った事は幻ではなく、間違いなく現実に行われていたのだと理解するのだった。
「どうやらお前は『神斗』以上に俺と相が悪いようだな……」
突然に煌阿の前に現れたシギンは、そう言って大きく溜息を吐くのだった。
煌阿はシギンの呆れた顔から視線を外すと、自分の周囲を包み込んでいる赤い真四角の『結界』を見て、更には自分の居る場所を把握するように視線を下に向ける。
どうやらまだ『幻』が続いているのか、シギンと赤い真四角の『結界』は存在しているが、それ以外には何もなく、あるはずの地面や周りの山の景なども何も見えなかった。
「お前にとっては何が起きているか分からない狀況だろうに、それを打破しようというつもりはないのか?」
更に呆れたような視線と聲でシギンがそう言うと、煌阿は再び視線をシギンに向け直して口を開いた。
「いや、もう何が起きたのかは、大は理解が出來た。どうやらこれは幻というわけではなく、現実の世界の中で空間を広げたという事だろう? だから俺には地面を砕くも落下する覚も殘っていたわけだ。そしてお前は幻に見せかけた事で、俺に『過』を使うかどうかの判斷力を試そうとしたのが狙いといったところか?」
「起きた事に対して冷靜に分析が行えている。そこに戸いや怯えなどは一切ない。そして『過』でいつでも俺のを解除出來たであろうに、それをせずに確かめる為にわざとそのままで居る事を良しとした。どうやらお前は何が起きても問題ないと思っているからこそ、そんな行が取れるようだ。つまり、お前にとってはこの狀況を作り出した俺に対してもそこまで脅威とは思っていないという事だな?」
シギンは溜息を吐きながらそう言うと、靜かに右手の指を鳴らしてみせる。すると再び何事もなかったかのように、煌阿の視界に山の景が映り始めていく。
そこでようやく煌阿は自分のに何が起きていたのかを理解する。
「ああ、程。やはり幻というわけではなく、現実であったか。先程のはお前が俺の周囲一帯をばして広げていたという事だな?」
煌阿は自分の居る場所から顔を上げて見上げると、確かに先程までいた場所が見えた。そして煌阿の拳で無殘にもボロボロになっている箇所が目に映った。
「その通りだが……。今のでお前の事がよく分かった」
そう言ってシギンはもう何も言わずに力を開放し始めたかと思うと、これまでの『青』だけではなく、そこに『金』をぜ合わせて、オーラの技法の一つである『二の併用』を用い始めるのだった。
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