《異世界でもプログラム》第十二話 決斷と覚悟
報告を聞いたユリウスは苦悶の表を浮かべていた。
「最悪だ」
側に居てほしいと思っている人は、ホームタウンに戻っている。
もしかしたら、こちらに向かっているのかもしれないが、”影”からは何も報がってこない。
ユリウスの言葉は、控えていた従者にも屆いているのだが、従者はユリウスの言葉を聞いても、何も反応しない。従者は、反応ができない。反応してはダメだと思っている。今のユリウスに助言ができる者は天幕のなかには居ない。
ユリウスが苦悶の表を浮かべている理由がわかっているので、従者も聲をだすことができないでいる。
共和國との紛爭・・・。既に、戦爭に発展してしまっている狀況の落としどころの一つが無くなってしまったからだ。
ユリウスは、報告書を握りつぶしたい衝に駆られている。王太孫としても選択ができない。わかっているが納得ができるかと聞かれれば、”No”と答えることができる。
共和國は、正確にはデュ・コロワ國は、ライムバッハ前領主の暗殺にもかかわっていた。どこから、あれだけの刺客を用意したのか當時も不思議に思われていた。
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たしかに王國の貴族がかかわっていた。しかし主導していたのは、貴族子息で當主ではない。子弟のそれも”できそこない”と、切り捨てられるだけの存在が、ライムバッハ家の護衛を倒して、武闘派筆頭であったライムバッハ前當主を倒している。どこから、その人員を用意したのか?
暗殺を行った者たちは一部を除いてアルノルトが倒してしまっている。殘っていた一部の暗殺者たちからの報をつなぎ合わせても、謎としてのこされていた。
押収された資料の中に、ライムバッハ家の襲撃に関わる文書があり、帝國から來ていた商人に依頼されて、強化奴隷を渡していた。それが、ライムバッハ家の襲撃に利用されることを承知した上で提供を行っていた。帝國の商人との契約なので、正しい事が書かれている保証はないが、文書を読んだユリウスの見解は、おおむね正しいだろうという判斷をした。
ユリウスが懸念しているのは、文書の正當ではない。
ライムバッハ家の襲撃計畫に関わっているという文書が見つかったことが問題なのだ。
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王國の王太孫としては、共和國は共和國として存続してくれたほうが都合がいい。
共和國は緩衝材になっている。一部の王國貴族には、共和國を滅ぼして自らの領地とすべきと主張する者がいる。しかし、王家派閥だけではなく、帝國よりの貴族も共和國の滅亡をんでない。
王國から見た場合に、共和國の先には、共和國よりも小さな國々が存在している都市國家群と呼ぶような狀態で、紛爭地帯となっている。一部の現実が見られない貴族の者たちは、共和國を併呑して都市國家群を支配すればよいと言っている。
統治を行い始めたばかりのユリウスでさえも、貴族派の者たちが言っている容が夢語であることは理解できている。
共和國までなら、今の王國なら併呑できるだろう。統治が可能になるとは思えないが、併呑なら難しくない。
しかし、都市國家群は別だ。都市國家群の紛爭は、領土的な意味合いもあるが、それ以上に民族や土著の宗教が関係した紛爭だ。併呑したあとで、部に火薬庫を抱え込むようなだ。火薬庫の近くで、安全を無視した花火大會をおこなうような行政を行わなければならない。しのミスで、火薬庫に火がついてしまう。火が一度でも著いたら消火は不可能にちかい。
「ユリウス様」
押収した資料を見分していた文が、新しく見つかった文書を持って天幕にってきた。
「まだあるのか?」
「こちらは、共和國の派閥をまとめた文書です。そして、ダンジョン関連の資料をまとめました」
「ありがとう。クリスにも伝えてくれたか?」
「はい。そちらは、伝令に持たせました」
「わかった」
ユリウスは見たくはないが、文から書類をけ取った。
一目見て異常だと思われる書類がある。
文は、ユリウスに資料を手渡して、役目が終わりとばかりに頭を下げて天幕から出て行こうとしたが、ユリウスが呼び止めた。
「ちょっと待て」
文は、”やっぱり”という表をして、ユリウスの前に戻ってきた。
「はい。なんでしょうか?」
「ダンジョンの資料だが、この話は本當なのか?」
「わかりません」
「・・・。聞き方をかえる。共和國の認識は、資料の通りなのか?」
「はい。お見せした資料が押収したです。議會の議事録にも同様の記述があり、間違っていないと思っております」
「そうか・・・。わかった」
文は、質問が來ないことを確認してから、頭を下げて天幕から出て行った。
殘されたユリウスは資料を貪るように読み込んだ。
「ふぅ・・・」
ユリウスが読み込んだ資料は、近年のダンジョンから産出される資の統計がまとめられた資料だ。
アルノルトからの報告をけて、クリスティーネがまとめた資料と比較されている。
「そうか・・・」
獨り言のように呟いて、自分を納得させるかのように文書を読んでいる。
アルノルトが攻略したダンジョンでは過去にさかのぼって、探索者たちが得たドロップ品がある程度まとめられている。クリスティーネは、アルノルトから借りているダンジョン・コアの力を使って資料にまとめた。
生ものもなくないために、誤差が出てしまっているのは當然だと思っていた。
「誤差ではすまない量だな・・・」
ダンジョンという特殊な環境を使った取引が行われている。
帝國だけではなく、王國の貴族にもダンジョン産の資が流れている。
王國の貴族は、共和國のダンジョンから産出した資を”購”したと言っていた。
「完全に賄賂だな。アルが掌握してからは、食料も減っているが・・・」
共和國が本當に困ったのは、食料ではない。
ダンジョンをアルノルトが把握してから、ドロップが極端に減った。食料もダンジョンに依存していた。しかし、ダンジョンが全てではなかった。そのために、共和國の上層部はダンジョンから供給される食料が減っても困らなかった。
上層部が混したのは、戦略資として帝國や王國の一部貴族に流していたドロップ品が無くなってしまったことだ。
他にも國で消費したことになっている高級品もドロップしなくなっている。
高級品は、賄賂として帝國や王國に流れている。誤差というには大きな隔たりが発生している。
「共和國での奪い合いになっているとは・・・」
ダンジョンを多く所有していたのは、デュ・コロワ國だ。アルノルトがダンジョンを攻略したことで、影響が大きかったのも、デュ・コロワ國だ。
ユリウスはまとめられた資料を見て、面倒な狀況には代わりはないが、これで”國の膿”が焙り出せると考えた。
他國からの贈りをけ取るのは問題にはならない。
しかし、け取ったことを報告しなければならない。け取ったら、すぐに報告しなければならない。
ほとんどの貴族が報告の義務を怠っている。忘れられた”法”だ。ユリウスは、この”法”を使って反対派閥の追い落としを行おうと考えている。王家が主となって行うことではない。しかし、今のユリウスは”ライムバッハ家”の後見人の立場だ。最終的には、アルノルトに相談することになるが、”現ライムバッハ家當主”からの告発とする予定だ。
け取った側は、”知らない”というのは間違いない。トカゲのしっぽ切りも発生するだろう。
それでも、”王家”が本気だと思わせることができれば、十分な収穫だと考えた。
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