《最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所屬してみました。》第1811話 余裕を持っているからこそ

シギンは『戦力値コントロール』を用いた後、オーラの技法によって『青』と『金』の『二の併用』を展開し始めたが、その顔は苦蟲を噛み潰したかのような表だった。

そうなった原因は、先程の一連のやり取りを思い出したからである。

先程シギンは煌阿の居る場所を中心とした空間を『魔法』で押し広げた。

狙いはどのタイミングで『過』の『時空干渉』の領域に達している煌阿が、シギンの『空間魔法』の解除を試みるかを確認する為であった。

もちろん煌阿以外の妖魔であれば、あのまま押し広げた空間に閉じ込めた時點で勝利は確定したようなものだが、この煌阿ならばあっさりと抜け出してしまえるだろうという事はシギンにも分かっている。

問題は解除そのものが出來るかではなく、先程『蒙』を駆け引きの材料に使ってみせた煌阿が、どういう策略を持ってあの狀況を打破するのかを見ておきたかったのである。

焦りを見せながら直ぐに解除を行うとまでは思わなかったが、それでも未知なる現象に見舞われれば、まずは安全を確保しようとき出す事が戦闘の常識であり、煌阿がどれくらい常識の範疇に居る存在なのかを確かめることが何よりも優先するべきことだとシギンは考えたのである。

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だが、結局は慌てる素振りや焦るどころか、解除を目的とした『過』すらも使わずに、何と普通に『魔力』を込めた拳を地面に叩きつけて幻かどうかを確かめるだけだった。

それも地面が割れて落下していっても、何もその後の対策を取ろうとせずに悠長に周りを見渡しながら、やはり幻ではなかったかと納得するような表を浮かべるだけだったのである。

そこでもうシギンは煌阿という妖魔が、事に対して策略を持ちながら行をするような奴ではなく、全ては自分の本能に従って行を取っているのだと理解した。

もちろん生き延びる事を優先してはいるようだが、先程のような初見となる『空間魔法』を使われて、作られた空間の中に閉じ込められる事となっても、奴はそれが『死』に直結するような場面だとは思ってはいないのだ。

――簡単にいえば煌阿は、シギンを相手に『余裕』をじているのだ。

遙か格下だと自覚しているからこそ、そんなシギンが何を行おうが、所詮は珍しさの範疇で完結してしまっていて、直ぐに解除を試みようとはしない。

これではいくらシギンが煌阿の格や、戦闘の常識に対してどう立ち回るかを観察しても意味がない。

煌阿が本來の危機が迫った時に取る行ではなく、子供を相手にどうあやすかみたいな態度で本意ではない接し方で事を回避しようとされる以上は、このまま戦っていたとしても『意味』がない。

まずは煌阿の意識を改めさせて『シギン』という人間と戦う事に真剣になってもらい、本腰をれてもらわねばなるまい。

ひとまずは話はそれからなのだと決斷したシギンが、ようやくこちらも本気となり戦闘態勢を取り直したというわけであった。

そしてそんなシギンの決意の表を見た煌阿は、ここでようやく真剣な面持ちとなり、彼もまた『魔力』を高め始めるのだった。

……

……

……

(やれやれ……。やっぱりあの人間のる『魔』の概念は規格外だね。一見私の目には勝手に煌阿の奴が地面を叩いて落下していったように見えたが、実際はあの人間が張った『結界』の側では、何らかの『魔』の技法を用いられてそれに影響された煌阿が確かめる為に拳で叩き割ったという事だろう。しかし落下していく煌阿をシギンが助けたところを見ると、あの人間は別に煌阿を山から突き落として怪我を負わせようと考えていたわけではないのだろうな。奴の回りくどい戦い方は、山の頂で戦った俺にも理解が出來る。どうせ奴の策略の幅を確かめようとして行ったというところだろう。そしてあの人間が見せた不機嫌そうな表と、その後の戦闘能力の高まりを省みれば、思い通りにいかなかったらしい。まぁ、どちらにせよあの人間にあんな表をさせられただけでも煌阿が如何に常識外れだったかが理解出來る。間違いなくこの場に居る連中は、妖魔神とされた私や悟獄丸より強さという點では上だ……!)

どうやらシギンの『空間魔法』は結界の作用により、外側に居る者にはその広げられた様子は伝わらなかったようである。

自分がこの世界で一番『魔』を理解していたと自負していた為に、そんな自分の領域を遙かに凌駕するシギンと煌阿の『魔』の領域を用いた戦いに、ぎりっという音が聞こえてきそうなほどに歯を噛みしめながら、神斗は悔しそうにするのだった。

……

……

……

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