遂に戦闘に本気になったシギンが、彼の持つ『空間魔法』と『捉』を用いて『次元の狹間』へと煌阿を押し込むと、その『次元の狹間』の側でも攻撃を行う手を休めず、吹っ飛ばされていく煌阿を追従しながら『青』で強化した拳や蹴りで打撃を加えていく。

本來、この次元の狹間では『概念跳躍アルム・ノーティア』を用いられた時と同様に、その『空間魔法』や『時魔法タイム・マジック』といった『魔』の概念や『理ことわり』を理解出來ていない者は、移が行われているという認識が出來ないのだが、シギンと同様にこの煌阿もまた、どうやら狹間で意識をしっかりと保っていられている様子であり、シギンの攻撃をけてはいるが、その致命的な一打となるようなものにはしっかりと防を行っており、この圧倒的な優位を取っている狀態にも拘らず、勝負を決めきれない様子であった。

しかしその煌阿だが、実際には外に居る時よりも明らかにこの次元の狹間ではきが鈍くなっている。

流石にこの『空間』の側では、シギン程までに『理ことわり』を理解している様子ではないようである。

當然にシギンもその事には気づいており、しでも長くこの次元の狹間に點在させる為に、先程から攻撃の手を緩めぬままで、しっかりと次元の狹間の空間を押し広げながら、しでも長くこの次元の狹間という名のトンネルの出口に、煌阿を辿り著かせないように『魔』の概念を駆使しているのだった。

だが、この一方的なシギンの打撃の攻撃をけるに留まっていた煌阿こうあは、徐々にけるダメージを減らす事に功してきている。

――それはつまり、この次元の狹間というシギンが作り出した『空間』に、徐々にが馴染んでいっているという事に他ならない。

（出來ればこの中に居る間に勝負をつけておきたいところだったが、コイツの鬼人の皮が想像以上に固くて思うように『青』で纏わせた打撃が通らぬ。やはり定石通りに最初のに、いちかばちか『殺是決どうさつぜけつ』を放っておくべきだったかもしれんな……）

その『殺是決』というのは、捉という『魔』の技法の中にある技であり、この煌阿の今ののような『鬼人』といった皮が固くて妖魔退魔師でなければ、上手くダメージを通す事の出來ない妖魔に対して、妖魔召士が編み出した対鬼人の特効といえるものなのだった。

しかし本來は『鬼人』に対しては、とても有効的な『捉』ではあるのだが、この煌阿は『過』もさることながら、あらゆる『魔』に対する抵抗力に加えて、先程の『蒙』に対して行ったように、相手の『魔』の技法を直接利用して跳ね返すといった事も考えられる為、出來れば『殺是決』のような殺傷能力があまりにも高すぎる一撃必殺といえる技法は、萬が一にも何らかの方法で跳ね返されるような事にでもなれば、その一撃で『殺是決』を放ったシギンに甚大な被害が及ぶ可能があるが故に、そういったリスクの分散を行うつもりで『青』を纏った攻撃でダメージを蓄積させるやり方を選んだのであった。

だが、まさかいくら皮の固い鬼人だからといって、ここまで今のシギンが『青』で強化した狀態でこれだけ攻撃を重ねても、全く致命的なダメージが與えられないまでは思わなかった。

今のシギンは単なる『青』を纏って強化しているだけではなく、そもそも『青』と『金』の『二の併用』狀態なのである。

當然に『魔力値』だけが上がっているわけではなく、今のシギンは『戦力値』も通常の二十倍という恐ろしい戦力値の上昇が行われている筈なのだ。

そんなシギンが一方的に毆りつけて、たったこの程度しかダメージを負わせられないというのは、シギンでなくても想像が出來ないのは當然といえた。

そうこうしているに、流石にシゲンであっても『次元の狹間』の空間をばしきる限界がきてしまい、遂には両者共にその長い長いトンネルの出口を抜けてしまい、再び山の景が広がる『妖魔山』に戻ってきてしまうのだった。

「くっ……！」

そしてもう『反』されるリスクなど気にしていられなくなったシギンは、まだ通常の空間に戻って間もない今が最後の好機だとばかりに、防一辺倒で凌いで見せている煌阿の頭に手を置くと、出し渋っていた『殺是決』を使う覚悟を決めて『魔力』を手に込めてその捉を使おうとした。

――しかし、その瞬間であった。

「やはりお・前・は・淺・い・な・。こうあるべきという戦闘面の戦に対しては、多の覚えがあるようだが、それを差し引いても経験面に難がある。しばかり局面が移行したからといって、これまでの優位をあっさりと放棄するような真似をしては意味がないぞ？」

そう言って煌阿は蛇のような目を這わせたかと思えば、シギンの『魔力』が込められたその右腕を摑みあげる。

――『祓はらえ、穢けがれヲ宿やどす罪つみに報むくエ』。

……

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