次元の狹間から姿を見せたシギンは、見慣れた妖魔山の景を見渡しながら先程までの戦闘を思い返していた。

（一度目に『蒙もう』の解除を行われた時のように、煌阿の奴にはまだ『空間』を抜け出す何らかの手立てを用意しているものだと警戒していたのだが……）

「意外にもあっけないものだったな」

小さく溜息を吐いたシギンは先程まで有った『次元の狹間』の場所を振り返りながら、勝負の結論を出すように獨り言ちるのだった。

（いや、これは奴自が『神』であったこその結果という事なのかもしれないな。あの鬼人族のに対して奴の『魔力』の観點から十分に適合出來ているとは到底思えなかった。を味して奴自が選んだというより、背に腹を変えられずに仕方なく利用していたようにみえた）

これは妖魔に限らずにあらゆる種族に対してもあてはまる話であるが、誰もが最初から膨大な『魔力』を有して生まれてくるわけではない。

當然に天の贈りである『金の現者』と呼ばれる存在や、元々から『魔力』の適正を抱いて生まれてくる者もいるだろうが、それでも生まれた時から今のシギンのような『魔力』を持って生まれてくるわけではない。

誰もが生まれた時に抱いているとそのに宿る魂が、しずつ五やといった、その生に必要な要素を形をさせて生きていく為の力を自己で育んで長していくのである。

當然に本人の持っていた本來ので研鑽を積んで、しずつ高めた『魔力値』や『戦力値』というものは、そのに適応させて増やしていたのだから、全く違うに乗り移ればそこには十全の『力』が宿る筈がない。

もちろんそれは『魔力』だけに留まらず、その本來ので育んできた全ての要素にいえる事である。

魔族の『代替だいたいしんたい』という、當時は非常に畫期的といえた『魔』の技法もまた、この理論に対して準拠していると言っても過言ではない。

しかしこちらの場合は、それを除いても『魔』の技法として確立させる上で十分の一にするものと『魔』の技法としての制約が生じている為に、どれだけその魔族が次のにいくら適応していても制約が優先されるが故に、こちらも十分の一になる事に間違いない。

つまり現代においては魔族の『代替』や、この煌阿の神の乗っ取りであっても、いくら魂が得ている強さの報を理解していたとしても、それをなじませるが研鑽を積んだ時の本來のではない以上は、全てが完璧につかいこなせるというわけではないのである。

魂が新たなに宿らせる事が出來るとしたら、それはその新たなで一から形させていくまでの過程となる効率を上げる事に限られるだろう。

――そしてシギンが神であった煌阿に対して、鬼人族のを乗っ取った事により、本來の力を十全に出せていなかったからこそ、ああいう結果になったのだろうと強引に結論を出したというわけである。

（しかしそれでも……、腑に落ちない事はまだある。俺がかつて神であった頃に初めてじた奴の『魔力』はあの當時の妖狐より遙かに上だった筈だ。あの頃の神より、鬼人族のに適正がなかったのだとしても、それでもこの程度で本當に勝負がつくだろうか？　煌阿自が戦ったと口にしていた『卜部兵衛』という俺の祖先は、奴を消滅させられぬと踏んで封じ込めたのだとしたら、あまりにも……）

「――いや、そもそもが神だけの狀態で數百年も封じられたとしたら、卜部兵衛と直接戦った當時よりも煌阿が弱化していて當然と言えるか？」

確かに一瞬だけ『魔力』の數値を高めるだけであれば、戦闘に使えずとも本來の持つ『魔力値』まではコントロールさせて再現も可能なのかもしれない。

実戦で使えない以上は、何の意味もない事だが――。

（あの時にじた奴の『魔力』は、封じられている『結界』の側から外へと『魔力』だけを通す事が可能かどうかを試す『過』の魔力干渉領域の実験を行っていたと判斷出來るが、確かにそれだけならば、當時の神ではない本來のの時の『魔力』を魂の持つ報から再現は出來ていたのかもしれないな）

シギンはあっさりと葬る事が出來た事に納得が出來ない様子だったが、結局は最後は煌阿が本來のではなかったからこそ、あんなあっさりと葬れたのだろうと強引に結論を出したのだった。