（駄目だ……。もう『空間歪曲イェクス・ディストーション』すら対抗手段を用いる必要をじられなくなった。あの奴の新たに繰り出した『空間魔法』を解除出來るだけの時間も魔力も足りぬな。効力そのものを理解してはいないが、あれはどうやら奴自をに縛り付けた要因となったもので間違いないだろう。もう『空間歪曲イェクス・ディストーション』をどうにしかしたところで、あの『空間魔法』を用いられてしまえば、全てが水泡に帰すという事が理解出來てしまった。ならば……、俺が最・後・に・出・來・る・事・は・……――！）

シギンは煌阿が発させた『隔絶空地法かくぜつくうちにゅうほう』の影響をける直前、自が空間に大切に保管していた『存在エヴィ』をこことは別の場所で『次元の狹間』の外側へと放り出してみせるのだった。

（未だに奴は目を覚まして居らず、今も『特異とくい』を展開している最中にあるが故に、目を覚ますまではれておこうと思っていたが、もうこのままではそれも葉わなくなるだろう。あれは間違いなく『封・印・』技法の類だ……）

これより『魔』の概念の一切が使えなくなるだろうと判斷したシギンは、殘されている時間で最後に自がする事を自衛ではなく、エヴィを一緒に封印されてしまわぬように、妖魔山の頂の神斗の建てた小屋周辺に向けて保管している空間から放り出すのだった。

間一髪エヴィを巻き込まずにすんだシギンだが、次の瞬間にはもう煌阿の封印技法によって『魔』そのものを封じられてしまうのだった。

「そこで大人しく見ているがいい、卜部のを引き継ぐ人間よ」

そう言って『魔』の技法の一切を使えなくなったシギンに手を翳すと、無詠唱で何かを発させる。

――それはシギンが使っていた赤い真四角の『結界』だった。

どうやらその場から逃げられないように、きを封じる目的で放ったのだろう。

『隔絶空地法かくぜつくうちにゅうほう』は、あくまで『魔』の技法を細分化していくつもの箇所に封じるという効力しかない為、シギンが『魔』に頼らずに走ってこの場から離れようとすれば容易にそれが出來てしまうが故に、今度はきがとれないように『結界』を用いて抜け出せないようにして閉じ込めたようであった。

「それは私のか……。どうやらこの『結界』にしてもそうだが、お前は一・度・自・・で・味・わ・っ・た・『魔・』の・技・法・を・自・分・の・も・の・に・出・來・る・よ・う・だ・な・」

閉じ込められた挙句に『魔』を封じられたシギンだが、冷靜さを失わずに先程までと同じ態度のままで、煌阿にそう尋ねるのだった。

「ああ、お前の察する通りだ。別に俺が『結界』や『封印技法』に知識や心得があったわけじゃないが、心ついた頃から何故か、相手の使う『魔』を直接けた後は、そういうモノなのだと理解した上で俺も扱えるようになった。だが、仕組みそのものを理解しているわけじゃないから、一度発させたら後はもう解除の仕方も存ぜぬがな」

「なるほど……」

質問を行ったシギンは煌阿の返答に頷くと、靜かに思案顔を浮かべ始めた。どうやら彼の中で新たな『魔』に対する疑問が生まれてしまった瞬間のようだった。

（どうやら本人すら『理ことわり』や理論的な答えを出せはしないが、そうあるものなのだと思い込む事で使用が可能となるわけだ。これは當然に先天のものだろうが、これが奴の『特異』なのか？　いや、まだ結論を出せる証拠などは何もないが、確かに見たじでは紛う事なく俺のと変わりがない。そして先程から試そうにも『空間魔法』はおろか『魔瞳まどう』や『オーラ』すら発しない。どうやら『魔力』そのものはに殘されているようだが、技法に関してのみ確実に使用が出來ないようにされてしまっているな」

シギンは閉じ込められた『結界』の側で々と試そうとしたが、その全てが使用出來ない事を改めて理解して深く溜息を吐くのだった。

「まぁ、お前は後で俺が長きに渡って過ごした大変居心地のいい城に連れて行ってやるさ。ひとまずそこで大人しく俺のやる事を見ているがいい」

煌阿は厭味いやみな笑みを浮かべてそう告げると、踵を返して神斗の方へと向かっていった。