《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》旅の終わり 07
外は雪がしんしんと降っており、かなり冷え込んでいた。
防寒著の類を一切に著けずに出てきてしまったから一気にが冷える。だけどその寒さが、頭を冷やしたい今はむしろありがたい。
ルカは分厚い雲が立ち込める空をあおいだ。上空からは白いものが絶え間なく舞い降りてくる。
月は見えないけれど、地上に魔素が降り注いでいるのはじられた。
まだ月齢は満月に近い。が波打つのはそのせいだ。ルカは自分の狀態をそう分析する。
だけど自分の気持ちが自分でわからない。どうしてあんな事をしたのだろう。咄嗟に摑んだマイアの腕は、貴種(ステルラ)らしく細く頼りなくて――ルカは直前までマイアにれていた自分の右手を見つめた。
マイアは可い。小柄で華奢なつきには庇護をそそられるし格だって悪くない。
そんな憎からず思っている異に思慕のを向けられたのだ。気持ちがぐらついても何もおかしくない。
キリクの宿でのマイアの姿が頭の中をよぎった。
こちらを煽るような事を言うから、腹が立ってベットに組み伏せた時の姿だ。折れそうなくらいに華奢なを押し倒すと甘くていい匂いがした。
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それを皮切りに、マイアと初めて言葉をわしてからこれまでの記憶が次々と蘇る。特にルカの破壊衝を治(おさ)めた癒しの魔力を流された時の覚が頭の中から離れない。
手をばせばアレは自分のものになる。
だけど駄目だ。今のマイアはまだルカが何者なのか知らない。
自分の事に巻き込みたくない。新しいをアストラにもたらす聖の可能を奪ってはいけない。上の連中の思に乗りたくない。この呪われたはここで終わりにするべきだ。々な思考が次々と浮かび上がる。
手近にあった木の幹に手をついて深く息を吐いた時だった。
ルカの耳が水気を含んだ足音をとらえた。人の気配が後ろから近付いてくる。
今は誰かの相手をする気分になれなくて、ルカは舌打ちをしながら振り返った。そして目を見張る。
「ルカ」
そこに立っていたのはマイアだった。庭のあちこちに設置されたランタンの燈火(ともしび)に照らし出されて、足元が泥で汚れているのが見える。
今年は暖冬なのか雪の降り始めが遅く、地面は白いものと土がり混じったような狀態だ。
「なんで……いや、どうやって……?」
「こうやってバルコニーの柵にぶら下がって、えいって。でも駄目だね。そんな事するのは子供の時以來だから転んじゃった」
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そう言ってマイアはぶら下がるように腕をばす仕草を見せた。よく見るとおや足元は泥だらけになっている。
「高いところから飛び降りたら足がじーんとするのはお約束だよね。懐かしい覚だった」
「なんて無茶を……怪我したらどうするんだ」
「ちょっとくらいならすぐ治るよ」
「そういう問題じゃない!」
思わず聲を荒らげると、マイアはむっとを尖らせた。
「ルカがいけないのよ。あんな顔して逃げるから」
指摘されてルカは顔から火が出そうになった。
いたたまれなくて飛び出す直前の自分は一どんな表をしていたのだろう。きっとみっともない顔をしていたに違いない。
「ねえ、ルカ、ルカもきっと私と同じ気持ちなんだよね?」
「違う」
「本當に? 全然みはない?」
食い下がられて、ルカはマイアを正視できなくなった。
真っ直ぐな眼差しが眩しすぎる。
「マイアは誰もがしがる希な聖だ。今俺を選んだら絶対に後悔する」
「なんでそんな事言うの……?」
何も知らずに尋ねてくるマイアに無に腹が立った。なにもかもぶちまけてしまおうかという暴力的な衝が湧き上がる。
「……俺のは人為的に造られたものなんだ。だから俺はマイアにふさわしくない」
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「え……」
戸った表を見せるマイアに、ルカは自嘲の笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
「俺のには様々な魔的作が加えられている。それこそ母親の胎にいる時から」
苦い笑みを浮かべながらのルカの告白に、頭の中が真っ白になった。
『人為的に造られた』
『魔的作』
『胎児の時から』
告げられた言葉が頭の中をぐるぐると回る。
それぞれの単語の意味がうまく頭の中にっていかない。
「ごめんなさい。ルカが何を言っているのかちょっとわからない……」
「俺は頭のおかしい魔研究者が行った人実験の被験者だった。そう言えば理解できる?」
忌だ。まず初めにその単語が頭の中に浮かんだ。
人に魔的作を加えるのは、どこの國でも研究倫理によってじられている行為のはずである。
「そんなの許されない……しかも、お母さんのお腹の中にいる時からって……」
「倫理観のない人間にそういう理屈は通じない。そいつは俺の生學上の父親だったんだけど……困窮したを使ってそういう実験を繰り返した」
ぞくりと背筋が冷えた。
「そんな事、許されない……」
呟いた聲は自分でも驚くほどにしわがれていた。
「そうだね。許されない。あの男はまともじゃなかった。そういう奴に常識なんて通じないんだよ。……そもそもマイアはおかしいと思わなかった? 俺は貴種(ステルラ)としては異質すぎる存在だ」
言われてみればその通りだ。魔力保持者はそうでない人間よりも虛弱というのが常識である。
調は月齢に左右されるし、個人差はあるものの新月時には著しく能力が低下する。
「ルカのお父様が目指したのは、新月でも調を崩さない魔力保持者を造る事……?」
「正解。だけどそれだけじゃない。更に平民(オリジン)に匹敵する能力を持つ存在への品種改良があの男の目標だった」
「品種改良って……」
「品種改良自は家畜にも農作にも行われている事だ。あいつはそれを人間でやろうとした」
――人間の品種改良。
それに相當するものはどの國でも行われている。魔力保持者を支配階級の中に婚姻という形で取り込むという方法で。
それはより優秀な家畜を産み出すための統管理に似ている。
質のいい牛や豚も、格のいい馬も、畜産に従事するものが長年配の努力を重ねた結果産み出されたものだ。
だけど、ルカに対して父親が行った品種改良は、人に許される範囲を超えている。
ルカに行われた事を想像すると鳥が立った。
子供は大人が庇護すべき存在だ。まだお腹の中にいる胎児に魔的作を加えるという発想が理解できないしけれられない。
他人の魔力は基本的に異だ。例え出力を最小限に抑えたとしても人に流されるとぞわぞわとした覚に襲われる。聖の魔力だけが例外である。
『魔的作』とやらは、小さなルカに相當な苦痛をもたらしたはずだ。想像するだけでが痛い。
「お父様は今はどうされているの……?」
「処刑された。當たり前だ。あの男は人実験で何人ものを苗床として使いつぶして……失敗作は『処分』と稱してその手にかけていた」
あまりにも壯絶なルカの過去に言葉が出ない。トリンガム侯爵もそうだったけれど、どうしてそんな殘酷な事ができるのだろう。
「あの男は実験から生存し、一定の基準を満たした功例を『超越種(トランスケンデンス)』と名付けた。俺はその一例なんだ。製造過程はともかくとして、貴種(ステルラ)の弱點を克服した存在なのは間違いない。だからアストラの上層部は、俺の統をしがっている」
ルカの言葉にマイアは目を見張った。
「……待って、その理屈だとルカはとても貴重な人材という事になるよね? どうして危険な諜報任務なんてやらされているの?」
「懲罰的人事って奴だ。子孫を殘すのを拒否したから。それに、『超越種(トランスケンデンス)』は俺一人じゃないしね」
ルカの口調は淡々としていたが、それがかえって痛々しくじられた。
「亡命するマイアのサポートを命じられたのは、あわよくば俺が意見を翻せばという狙いがあったんだと思う。何も希な聖を俺に娶(めあわ)せようとしなくてもと思うけど、そこには恐らく『超越種(トランスケンデンス)』と聖の配を試したいという狙いがある。祖國に現在いる未婚の聖は全員がそこそこいい家柄の出で、とてもそんな縁談を持って行ける存在じゃないから。……馬鹿にしてるだろ?」
「そんな事……」
マイアはふるふると首を振った。
「馬鹿にしてるとか思わないよ。だって私には好都合だもん。私はルカが好き。ルカも私の事をしでも思ってくれているのなら、私はルカの側にいたい。それはルカがどんな過去や事を抱えていたって関係ない」
「マイアは何もわかってない。俺の側にとマイアが希を出せば、上層部はこれ幸いと婚姻させようとしてくる」
「わ、私は嫌じゃない……よ……?」
反的にそう返してから、マイアは自分の発言が恥ずかしくなった。
ルカが相手ならむしろ嬉しい。むところだけれど、ルカも同じ気持ちとは限らない。
「俺とマイアは親しくなってまだ二か月くらいしか経ってないのに?」
冷靜に返されてマイアはぐっと詰まった。
上流階級の世界では政略結婚は當たり前だが、十歳まで庶民として育ったマイアの底にあるのは庶民の覚だ。その覚からすると、出會って二か月で結婚というのは確かに気が早い。
「何度も言ってるけど他の選択肢がいくつも現れるであろう狀態で、俺を選ぶメリットはマイアにはないんだよ。それに俺は、自分の統を殘すつもりはないんだ」
「どうして……?」
「同じ質を引き継ぐ子供が生まれたら可哀想だから。『超越種(トランスケンデンス)』も結局月の影響からは逃れられない。新月の不調に悩まされることはなくても、満月時は魔力に満ちすぎた魔力の影響で破壊衝が湧き上がるし、何よりも不自然に歪められた存在だから……正直に言うと後何年生きられるかもわからない」
「えっ……」
マイアは息を呑んで直した。そんなマイアに向かってルカは淡々と語る。
「このを調べた研究者によると、運が良ければ天壽を全うするし、運が悪ければ早死にする。長生きできる確率は六割くらいらしい」
「六割……」
「四割だとか六割だとか研究者はすぐ確率の話をするけど、當事者にとっては十かゼロだ」
ルカは小さく息を付くと目を伏せた。
「俺はたぶんマイアより先に死ぬし、ちゃんとした子供を授けてあげられない。だから俺はマイアの気持ちには応えられないし応えたくない」
「……に不調が出たら私を利用すればいいじゃない」
今、この手をばさなければルカはどこかへ行ってしまう。そう思ったら黙っていられなかった。
「私は聖なのよ。何かおかしくなったら治してあげられる。魔的作が何? そういう話を聞かされたら私が引き下がると思った? 私はルカが何を抱えていても好きだよ。この気持ちは、アストラでどんなに條件のいい人と出會ったとしても変わらないし消えない。私の気持ちを勝手にルカが決めつけるのは不愉快だわ」
諭されて怒りだすなんてまるで子供みたいだ。でも一度口を開くと止まらなくなった。
「私は聖だから……どこの國に所屬しようがこの統を後に殘すための結婚が絶対について回る。私はその候補の中にルカがいて、選ぶ余地があるのならルカがいい。それは今聞かされた話をふまえても変わらない」
きっぱりと言い切ると、ルカはたじろいだような表を見せた。
「生い立ちとか、の事とかで私を拒否しないで……生理的に無理とか顔も見たくないくらい嫌いだって言われたら諦めるけど……」
「それは……でも、こどもが……」
「ルカの特別な質はどれくらいの確率で次の世代に伝するの? アストラは大陸のどこよりも醫療魔が発達しているはずよね? ちゃんと調べてもらって、的な數値とかリスクを把握してから考えてもいいんじゃないかな? ……というかね、まだ私、そこまで考えられないというか……聖の魔力は隔世伝する事もあるっていうから、近い將來子供は産むことになるんだろうな、とは思ってたんだけど……」
マイアの発言を、ルカはどこか困した様子で聞いている。
「えっと……ルカの子供を産むのが嫌っていう意味じゃないよ? そうじゃなくて……調べてもらって、どうしても高い確率で子供の壽命に影響するって結果が出るようなら、國が許すか許さないかは別として、作らないって選択肢もありだと思う。今はいい避妊用の魔薬があるから黙っておけばバレないと思うし……そもそも授かりものだし……」
だんだん何を言っているのか自分でもわからなくなってきた。どう言葉を紡げばルカに響くのだろう。思いつかなくて焦るマイアの顔にルカの手がびてくる。
「……マイアは馬鹿だ。折角逃げるチャンスを與えてあげたのに」
雪がちらつく中、頬にれたルカの手は冷え切って、氷のように冷たかった。
「それって……」
「…………」
ルカからの答えはない。ただ怖いくらいに真剣な眼差しがマイアに注がれる。
今のルカは本來の瞳のに戻っている。金がかった緑の瞳は、吸い込まれそうなくらいに綺麗で、何よりも雄弁にルカの気持ちを語っていた。
しずつルカの顔が近付いてきて――核心となる言葉が耳元で囁かれた。
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