《負け組だった男のチートなスキル》第十二話 凡人<天才

この狀況、何か奇跡が起こらない限りコウスケは間違いなく死を迎えることになる。

 だがどこぞの主人公が突然力に目覚めて無雙するなんて夢や小説だけの話だ。

 そのことをコウスケは理解しているし、はなからそんなものは信じていない。

 とっくの昔にそんな救いがないことなど思い知っている。

「おい、どうするよ」

 登が今すぐにでも襲い掛かりそうな形相で言った。

 あくまで彼は、草木の判斷に従うようだ。

「そんなの決まってんだろ、ぶっ殺せ」

「はは、そうだよな」

 草木の言葉に登は口元を端まで上げた。その顔は邪悪そのものだ。

 登が一気にコウスケへ距離を詰め、持っていた剣を縦に振るう。

 コウスケは辛うじてそれをギリギリで避けるが、その剣が地面にぶつかった瞬間、その地面がぜた。

「ぐっ」

 その衝撃はもちろんかなりのものだ。

 剣を握っている登にも相當なダメージがあっても良いのだが、やはりコウスケとはの構造が違うのか、平気なようだった。

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「はぁはぁ」

 ただただ息を切らすコウスケ。彼にはもはや策と呼べるものはなかった。絶絶命とはまさにこの事を言うのだろう。

「コウスケよぉ、弱いくせに格好つけて人助けなんかするからそんな目にあってんだぜ?」

 草木が歪んだ笑みでコウスケへ告げる。

「うるせぇよ……」

 コウスケの言葉にますます表を歪める二人。

 彼らは武を手放しコウスケに摑みかかった。

 どうやら徹底的に痛めつける選択をしたらしい。

 それから二度目の暴行をコウスケはけ続けた。だが先ほどとは違い彼らの暴力は本気の攻撃であり、今度のコウスケは演技ではなく本気で苦しんだ。

「ごほっ、げほげほ」

「おら、さっさと死んじまえ」

「それとも土下座して謝るか?」

 二人からそんな聲が飛ぶ。

 しかしコウスケは、それに対する意思表示すら出來ないほどボロボロになっていた。

 全の骨にはひびがり、目ももはや片目しか見えていない。耳も機能しておらず、鼻も當然潰れていた。

 日本では起こりえなかった殘酷な行為がこの異世界では許される。

 それがますます彼らの暴力を一層増す原因となっていた。

「そろそろ殺そうぜ、気持ち悪い」

 登がゴミを見るような目でコウスケを見て言った。

 草木も同じ思いだったのか、剣を手にしてコウスケに近づく。

 當然コウスケには逃げる余力は殘っていない。

 コウスケは迫る死の恐怖に直面しながら諦めたように、かすかに映る右目視界を閉じあることを思った。このまま死んだことになればどれだね楽かということを。

 ただそこで草木の聲が薄っすらとコウスケの耳に屆いた。

「げっ、騎士だ」

「何でこんなところに……あ、あいつは」

 二人の只ならぬの起伏にコウスケは閉じた目をゆっくりと開いた。

 相変わらず視力はほとんどない。だが確かに誰かがこちらへ向かっているのは確認できた。

「あのアマぁ」

 草木の憎たらしげな聲が聞こえる。

 どうやらさきほど助けたが騎士を呼んできてくれたようだ。

 コウスケは最後、心のそこから「助けてよかった」と思ったのだった。

「くそっ! おい登行くぞ」

「あ、ああ、こいつは?」

「こいつはもう死んでるよ、さっさといくぞ」

 そう言って二人はその場がから立ち去っていった。幸い彼らはコウスケが死んだものと勘違いしたようだ。

「あ、あぁ!」

 次に聞こえたのはの泣き聲である。

 恐らく助けた彼だ。

「これはひどい……一誰に」

 もう一人は連れてきた騎士だろう。だが殘念ながらあの二人の姿は確認出來ていなかったようだ。

「ごめんなさい……本當にごめんなさい」

「この子は--」

 これ以上コウスケの意識は持たなかった。

 凡人は天才に勝てない。改めてそう思いながらコウスケは意識を失った。

「……どこだここ」

 コウスケは真っ暗な闇の中で意識を覚醒させた。もはや覚はないに等しい狀態である。

 それと同時に何が起こったのかを思い出した。

 せっかく異世界に來たというのに、この有様は無様以外の何者でもない。

 コウスケは目覚めたらどこかの病室にでも寢かされているのだろうと勝手に想像していたのだが、目の前に広がる景を見てその可能を捨てた。

 見るからに人工ではない天井だったからだ。ゴツゴツとしていて、どこかっぽい。

 そこから考えられるこの場所は――

窟か」

 確かボコボコにされた時は草原にいたはずだ。だがどういうわけか今は窟にいる。

 あの時、確かに助けが來た気がしたのだがそれは思い違いだったのだろうか。

「いっつつ」

 コウスケは未だ痛みで覚のないを強引にかし上を起こす。腕の覚もないため腹筋運のように何分もかけて、ようやく上を起こすことに功した。

「ステータス」

 まずは今の狀態を知らなければならないだろうしもしステータスに『死』なんてあったら、ここは地獄確定だ。と乾いた笑みを浮かべながらそんな事を考えていた。

名前 高月

種族 異世界人

レベル 10

狀態    死(隠蔽)

スキル 隠蔽 鑑定

「お、おぉ」

 かすれ聲でコウスケは言葉を発する。それには二つのが含まれている。

 一つは瀕死からの復活で、急にチートに目覚めていた、などという夢のような展開がなかったことによる落膽のだ。知ってはいたが、あまりにも夢がない異世界だ。

 そしてもう一つのは先ほど冗談で思っていた「死」狀態の表記が実際にあったことによる驚きだ。

 どういうわけか隠蔽スキルが狀態に発している。生を隠蔽した。そう考えると納得出來るが、スキルだけでなく狀態にも隠蔽が作用するとは、隠蔽スキルに関しての神の説明不足を否めない。

「でもレベルが上がってるよな」

 恐らくあの二人との戦闘で得た経験値が加算されたのだろう。経験値とは何も相手を殺さないといけないという條件はないらしく、攻撃を加えたりけ続ければ勝手にってくると、いつかのゲンジュが言っていたことを思い出す。とはいえあらゆるの部位に不自由がある今の狀態では、戦闘はおろか歩くことはもとい、立ち上がることさえ出來ない。

 ではどうするか。

「そういえば、スキルスロット……」

『スキル「強化」を作りました。裝備しますか? 空きスロットは1です』

「よし」

 さっそくあの勇者のの一人が持っていたスキルを創作する。正直気が乗らなかったのだが、今のコウスケが知っているスキルで、今役立つのはこれぐらいしか思いつかなかった。

「ステータス」

名前 高月

種族 異世界人

レベル 10

スキル 隠蔽 鑑定 強化

功か」

 さっそく裝備した「強化」スキルを使用してみる。

 イメージとしては、に力が漲るような覚を引き出す。

    そこで、コウスケはこのスキルの欠點を発見した。それはこのスキルが強化するのは力だけではなく、覚も強化するということだ。

    通常ならば、対して気にはならないリスクだが、今のコウスケには、両方の意味でかなり痛い。

「痛って! これじゃあ使いにならねえぞ」

 文句をいいながら作るスキルを間違えた。と後悔するコウスケ。

    

 だからといってこの真っ暗闇の中で何もしない訳にはいかない。そこでコウスケは視力を強化しようと試みた。せめて視界がしかったのだ。左目は開くことさえできないため、右目で確認した。

   

 しかしその視界を得たことによってコウスケはさらなる恐怖に陥ることになった。

「お、俺の腕はどこだよ……」

 強化によって得た視界には、自分の今のの狀態がハッキリと認識出來た。

 そこには、知りたくない現実さえも寫し出した。

 コウスケの今のの狀態は、両腕の肘から下が引きちぎれ、右足もあり得ない方向にねじ曲がっていたのだ。

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