《あなたの未來を許さない》第七夜:08【ミリッツァ=カラックス】

第七夜:08【ミリッツァ=カラックス】

「何だ、このバケモノは……!?」

ヴァイオレットより回してもらった対戦データ。ミリッツァ=カラックスは愕然とする思いで、それを確認していた。

【ハートブレイク】。ミリッツァの改竄で作り上げた、ヴァイオレット用の最強能力者。

弱點屬さえ気を付けて対戦カードを組んでおけば、対戦者や監督者がどんなに馬鹿でも無能でも、負けはしない。

ましてや【スカー】は、弱點屬以前の問題であった。敗れることなど、有り得なかったのに。

「それなのに、【能力無し】に負けた……!」

ヴァイオレットの馬鹿馬鹿しい目論見を潰されたのは、正直どうでもいい。

だが自分があれほど苦労させられた計畫を潰されたことは、些か以上に腹立たしく不愉快であり、何より驚きであった。

「あのお子様が、こんな怪を作り上げるとはな……」

キョウカ=クリバヤシ。ただお勉強ができるだけで飛び級してきた子供。

その認識を改める必要があるのだろうか? それともあの【スカー】という対戦者が、とんでもない掘り出しだったとでもいうのだろうか。

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(だがこの時代この地域この年代で。しかも対戦者に選ばれるようなゴミクズに、そんな傑がいるはずもないのに)

そう思っていたからこそヴァイオレットやアンジェリークが抱える対戦者には、當人の資質など無関係に力を発揮する能力を割り當て、改竄まで加えておいたのだ。その一方でまさか自分の擔當対戦者があんな難で聞かん坊だとは、思わなかったが……。

しかし結果的に三人の中で一番勝ち殘っているのは、ミリッツァの擁する【ライトブレイド】なのである。

改竄前提で割り當てた能力のため他と比べても、お世辭にも強いとは言えぬ彼が……能力の改竄も相手報の事前提供も、全て拒絶してきた彼が……皮にも【ハートブレイク】よりも【ハウンドマスター】よりも生き殘り、勝利を挙げてきたのだ。

(いや逆なのか? 強力な能力や不正に後押しされず自力で戦い続けたことで、【ライトブレイド】も【スカー】も、長してきたというのか?)

だとしたら自分は、【ハートブレイク】と【ハウンドマスター】に判斷も駆け引きも要しない力を與え、圧倒的有利な対戦カードを組み、事前に相手の弱點まで提供し続けたことで……むしろ彼らから、長と経験を積む機會を奪っていたのかもしれない。

(人を無視して環境とハードウェア的要素だけを整えようとした、私の失策とでも?)

溫室で水と料をふんだんに與えた花よりも、荒野の草が大地へ強くを張るように。

いやそんな陳腐な例え話ではない。プラスマイナスだけでは、説明の付かない世界。

(やりようによっては、こんな怪を作り上げることもできるのか)

「……面白い」

ヴァイオレットの付の者Bとして【教育運用學部】へ進まされたミリッツァである。人間を扱うことなど面倒極まりないと考える彼にとって、それはむしろ意思と反対の進路ですらあったのだ。

だがミリッツァはこの時初めて【教育運用學】……いや人間を扱うこと、人間の神に興味を抱いたのである。

(もっと、々な事例を知りたいものだ)

極限狀態に追い込まれた人間がどうくか。

どう長するのか。どう変化するのか。

に陥った人間はどうになるのか。

そこから立ち直るのか、立ち直らないのか。

ミリッツァはそれを、見てみたいと思ったのである。いや……様々な極限のドラマを見たい、というのが正しいかもしれない。

すると退屈で厄介な時間にすぎなかった今回の考査が急に、貴重で興味深いものに思えてきた。今後もこういう機會を度々設けてもらえないだろうか、と考えるほどに。

ひゅん、ぴっ。と指をかし空中に畫面を表示させ、モニター中の【ライトブレイド】を映し出す。

不戦勝枠について散々抗議をしていた年であったが、現在は盛大にイビキをかいて眠りこけていた。今となっては「戦わせてやれば良かった」と後悔するミリッツァ。

(そのほうが、また々なものを見られたかもしれない)

だがまあいい。次の晩、【スカー】と対戦させるのを楽しみにしておこう。

その前に、彼へ報を一件教えてやるのもいい。事前報自は嫌がるし怒りもするだろうが、容を聞けばあの年は喜ぶ気がする。その反応自も、興味深い。

(こんな考え方、以前の私ではしなかっただろうな)

煩わしかった【ライトブレイド】との面談すら、楽しみに思えてくるミリッツァ。今までの人生でほとんど見せたことのない笑みが、その顔には浮かんでいた。

ぴぴっ。

呼び出し音。空中投影中のモニターの脇に、もう一つ畫面が開く。ミリッツァがハッキングにて用意した、三人が連絡をとるための裏チャンネルだ。

「ヴァイオレットからのコール? アンジェリークもえての通話?」

敗退し、目論見が破算になったことに対しての愚癡か、ぼやきか、はたまた恨み言か。

(やれやれ。あのワガママ娘へのフォローが必要だったか)

心中で呟きつつ、コールに出るミリッツァだが……ヴァイオレットからの通話は、そのどれでもなかった。中は、提案だったのである。

それはあまりに下卑で、野蠻で、卑劣な提案。おそらくは今までで、最悪の企みである。いや企みと呼ぶことすら、馬鹿馬鹿しい。

(我が馴染みながら、呆れた神経だ)

今までのミリッツァであれば、モラル面ではなくリスクとリターンを考慮して、その圧倒的な天秤の傾きから反対していたことだろう。付の者Bとして。

だが。

(面白い)

ミリッツァは、そう思った。そう思うようになってしまった。だから、手を貸すことにしたのだ。

「分かったヴァイオレット。監視システムとロックへの干渉は大丈夫。で、アンジェ、その手のことが好きそうな奴で話に乗ってくるの、心當たりはある?」

『ん~、テイラー君はそういう趣味だったはず。あとはマッケイン君かな~? ちょっとタイプは違うけど、ゴメスも多分話に乗ると思うよ、癖的に。ヘンネバリちゃんはそっち系だけど、男の子を呼ぶなら止めたほうがいいと思う』

何故學友の嗜好まで把握しているのかについては、この際追及しない。

『流石アンジェね。そうね、テイラーは一回戦で負けているから意趣返しもあって話に乗ってくると思うわ。まあ、その辺は私から説得しておくから』

「じゃあそれはヴァイオレットに任せよう。言い出しっぺだしね。テイラーへの裏通話チャンネルはもうししたら用意しておく。繋がったら知らせるよ」

『オーケー。頼んだわよ、ミリッツァ』

打ち切られる通話。

(さて、準備をするか)

メインフレーム干渉用の手製ツールを立ち上げ、監視の目にかからないチャンネルを構築し始める。

「どういう反応を見せてくれるだろうな」

様々な事例を、見ておきたい。々な生の反応を、知っておきたい。

追い詰められた時に、人はどうなるのか參考にさせてもらいたい。

ミリッツァは好奇心にを躍らせ、目を細めた。

そして実験材料はこの際、二十一世紀人でも二十七世紀人でも、どちらでも良いのだから。

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