《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》最終章 社長、婚約者、結婚!?(3)唐突なお客様

お盆休み初日は晝まで惰眠を貪ると決め、ふたり揃って遅くまで寢ていた。

先月の役員會で仁は九月からの社長就任が決まり、いよいよ忙しい日々を送っているから、たまにはだらけてほしいし。

――ピンポーン。

がしかし、せっかくの休息を切り裂くように、インターフォンが鳴った。

「……誰?」

今日は誰か、來訪があるなんて聞いていない。

とにかく仁を起こしたくないので、対応に出た。

「……はい」

『あら。

なんで仁の部屋にがいるのかしら?

もしかして浮気?』

ケラケラと畫面の向こうの若いが笑う。

『なんでもいいから開けてくださらない?』

開けろと言われても、誰だかわからない人をれるわけにはいかないわけで。

「失禮ですが、どちら様でしょうか……?」

『失禮なのはあなたの方では?

咲夜子が來たと言えばわかります。

さっさとここを開けてくださるかしら?』

にっこりと綺麗に口角を上げて、が笑う。

言葉は丁寧だが確実に怒っている。

「……はい」

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気圧され気味にロックを解除した。

それに名前に、聞き覚えがあったから。

「仁」

大急ぎで仁の寢室のドアをノックする。

けれど中からは返事がない。

連日の疲れのせいでまだ、ぐっすり眠っているのかもしれない。

「仁。

すみません、起きてください。

咲夜子さんって方がお見えです」

再びノックしたが、やはり返事はない。

早くしないと彼が來てしまう。

「仁。

すみません、りますよ」

あとで怒られることも覚悟して、ドアを開けた。

広い室には調度品はほとんどなく、大きなベッドが置いてある。

そこで黒の掛け布団にくるまって仁は気持ちよさそうに寢息を立てていた。

「起こしたくないな……」

でも、起こさないわけにはいかない。

「仁、起きてください。

咲夜子さんって方が……えっ!?」

を揺すった手が摑まれる。

なにが起こったのか把握できなかった一瞬で、布団の中に引きずり込まれた。

――ピッピロリーン。

遠くで、玄関の呼び鈴の音がする。

咲夜子さんが到著したようだ。

「仁、起きてください!」

「……ん。

涼夏……」

揺りかしたらようやく仁が目を開き、ほっとしたのも束の間。

「おはようございます、じ……」

突然、仁のが私の言葉を奪う。

開いたままだったから厚なそれが侵してきた。

「……!」

どんどんとを叩くが、仁はやめない。

呼び鈴は警鐘を鳴らすように鳴り続けていた。

「……なんで涼夏がいるんだ?」

を離した仁の顔から、みるみるが失われていく。

「咲夜子さんって方が、お見えになっています。

さっきから呼び鈴が」

「あ、ああ」

仁を押しのけてベッドを出た。

そのまま顔も見ずに部屋を出てお客様用玄関を開ける。

「すみません、お待たせしました」

「もしかしていま修羅場で、お邪魔しちゃったかしら?」

嫌みなくらい、綺麗な笑顔をは作った。

「いえ。

仁……さんが起きなかったものですから」

修羅場といえばある意味修羅場だった。

あんな……あんなキス。

兄妹の挨拶だなんて、通じない。

「咲夜子。

來るなら連絡くらい……」

「じーん!

會いたかったわー!」

遅れてやってきた仁に、が抱きついた。

仁は振り払いもせずに真顔で立っている。

「……なにしに來た」

はぁっと短く、仁がため息を落とした。

「相変わらず婚約者に冷たいのね。

私だって訊きたいわ、彼が何者かとか」

婚約者。

どおりで聞き覚えがあるはずだ。

以前に巌さんが言っていた、婚約者の咲夜子さん、って。

「わかった。

が、著替えさせてくれないか。

僕も彼もいま起きたばかりなんだ」

「いいわよ、それくらい。

私は心の広いだから」

――咲夜子さんは玄関に大きなスーツケースを殘し、さっさとリビングにっていってソファーにぽふっと座ってしまった。

大至急で彼にお茶を出し、仁と代で洗面を済ませる。

歯磨きはさっきのを拭うように念りにした。

嫌だったわけじゃない、むしろ――嬉しかった。

でもそんなの、妹として必要がない。

必要がないものは、捨てなきゃ。

「キッチン、勝手に借りたわ」

リビングに戻ってきたときには、ダイニングテーブルの上に朝食ができあがっていた。

「飛行機を降りてからなにも食べてないの。

悪いけど食材も勝手に使わせてもらったわ。

その代わり、味は保証する」

「ありがとう……ございます……」

仁は無言ですでにテーブルに著いている。

私も空いた椅子に座った。

「さあ、食べましょ」

「……」

咲夜子さんの主導で朝食がはじまる。

仁は黙ったままナイフフォークを握って食べはじめた。

オムレツにボイルしたウィンナー、あとは付け合わせの野菜にパンと、いつもと大差ない食事のはずなのに、今日は妙にに詰まる。

「……」

どうしてもちらちらと仁に視線を向けてしまう。

さっきのあれはなんだったんだろう。

寢ぼけていたといえばそれまでだけど。

訊きたいけれど、こんな狀況では訊けなかった。

「ごちそうさま」

結局、誰も口を開かないまま食事が終わる。

片付けは私がした。

といっても、食洗機にれるだけなんだけど。

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